縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

ハニサのムロヤはヤシロ? 第11話 2日目③

 

 

 

          森の入口。

 
ササヒコ  「あれだ。立派であろう?」
シロクン  「うん。あの槙の木(コウヤマキ)なら申しぶんない。
        木目が真っ直ぐ通ってる。
        

f:id:dakekannba:20210707042622j:plain

世田谷区西澄寺のコウヤマキ Tripadvisorより

 

        こっちに倒せばそのまま地に着きそうだし、
        地に着けば、後はおれ一人でも作業はできる。
        前が広いから、そのまま作業場にしてもいいな。
        枝も多いから、いろんな物が出来そうだな。
        手火(小さなたいまつ)も山ほど取れるぞ。」
ササヒコ  「ではヌリホツマ、お願いする。」
ヌリホツマ  「まず根元にこの縄を回し結ぶのじゃ。
        そしてこのマサカキを差し込め。
        そこにムシロを広げ、栗実酒を供えよ。泉の水はそこじゃ。
        おまえさんがたは、そこにムシロを広げ跪(ひざまず)け。
        よろしいか、始めるぞよ。
        きーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせー・・・・」
 
    シロクンヌは石斧(いしおの)をふるった。ヒタイからは汗が飛び散る。
    やがて音を立てて樹は倒れた。
 
シロクン  「斧の石をいくつも割ってしまったな。暇を見て川原石で作っておくよ。」
ササヒコ  「それは気にせんでいい。
       二日仕事だと思っておったが、思ったよりもずっと早かった。さすがだ。
       打ち方に、何かコツがあるようだな。」
シロクン  「うん。打ち付ける時に、股関節を畳むんだ。」
 
    シロクンヌは手ぬぐいで汗をふいた。
    ふと、ハニサの顔が浮かんだ。
    (「ここだからね!ここに帰って来てよ!」)
 
シロクン  「明日は一日がかりで、ここで板を何枚か取ろうと思う。
        そのうちの二枚にはすぐに脚(あし)をつけて机にするよ。
        脚はその辺の枝でいいだろう?」
ササヒコ  「おまかせする。しかし板取りは一人では無理だろう?」
シロクン  「机の大きさだが、これくらいあればいいよな?
        だから、ここを中ほどまで石斧で削るよ。
        それからこの枝を切って、それを木槌(きづち)使いする。
        割れた石は、楔(くさび)になら使えそうだ。
        枝を削れば、木の楔だっていくつもできる。
        切り口を整えて、楔をいくつか打ち込めばこの木ならきれいに裂けそうだ。
        一人でコツコツやっていくさ(笑)。」
ササヒコ  「さすがにたくましいな(笑)。だが今日はもうあがるといい。
       昨日着いたばかりなのだしな。」
シロクンヌ  「ではそうするか。
        目鼻もついたことだし、あわてることもあるまい。」
 
    「おかえり~」村の入口が近づいたところで、ハニサが駆け寄ってきた。
 
ハニサ  「コノカミ、お帰りなさい。
      シロクンヌ、宿の準備ができたから、
      神坐にお参りして、荷物を持って一緒に帰ろう。」
ササヒコ  「ほう!仲が良さそうで結構だ。」
ハニサ  「コノカミ、シロクンヌは、あたしよりも母さんの方が良いって言うの。」
ササヒコ  「そうなのか?」
シロクン  「うそをつけ!さっきはちょっと冗談を言っただけだ。」
ハニサ  「汗びっしょり!着替えは持ってるでしょう?
      湯が沸いてるから、体を拭いてあげるね。」
ササヒコ  「いかん。ここにいたら中(あ)てられる。わしはもう行くぞ(笑)。」
 
 
          ハニサのムロヤ。
 
    ムロヤの入口にはヒサシが張り出していて、それを二本の柱と梁(はり)が支えている。
    二本の柱と梁の形は、ちょうど⛩のようだ。
    ⛩の形に見えるムロヤは、村でここだけだ。
 
ハニサ  「靴はここで脱いでね。荷物は一旦ここに置くよ。
      拭いてあげるから足を出して。
      足を拭いたら、中に入ってもいいからね。」
シロクン  「入口には、絡(から)み縄があるんだな。」
        (絡み縄は、しめ縄にそっくりだ。)
ハニサ  「絡み縄ってヘビの交尾の縄なんだよね?
      早く元気な子が宿りますようにっていうおまじない。」
シロクン  「きれいなムロヤだな。いい宿だ。」
 
    ムロヤの中は、中央に炉が切ってあり、熾き(おき)が焚かれていて鍋に湯が沸いている。
    土が見えるのは炉の周りに少しだけだ。
    ゴザが敷き詰められ、毛皮も敷かれている。
    当然、土足禁止だ。
    壁は白い麻布で覆(おお)われ、清潔感が漂っている。
 
シロクン  「火棚が無いが、この村では、ムロヤに火棚を作らんのか?」
   (火棚・・・囲炉裏の上部にある天井から吊られた棚。食物の乾燥や燻しに使う。)
ハニサ  「火棚が無いのは、ここだけ。
      母さんのムロヤにはあったし、他も全部あるはずだよ。」
シロクン  「あれは、何だ?」
ハニサ  「河原で拾った木を、クマジイに磨いてもらったの。
      服を脱いで。体を拭いてあげる。」
シロクン  「自分でやるよ。木は分かるが、いったい何に使う?」
ハニサ  「だめ!あたしがやるの!
      宿の中では、あたしがシロクンヌのお世話をするんだから。」
シロクン  「そんな決まりを作ったのか?(笑)」
ハニサ  「ヒゲもあたしが剃ってあげるからね。
      母さんに聞いたの。
      三ヶ月で、シロクンヌはどこかに行ってしまうんでしょう?
      その時は素直に見送ってあげなさいって、母さんが言ってた。
      だけどそうしたらもう、お世話ができなくなっちゃうんだよ?
      だからそれまでは、あたしがお世話するの。」
シロクン  「そうか・・・
        では、拭いてもらおうか。」
 
ハニサ  「おっきな背中だねー。」
シロクン  「あの敷物、真っ白だな。キツネの冬毛を縫い合わせてあるんだな。
        汗を落としたら、あの毛皮の上で寝転んでみてもいいか?」
ハニサ  「うふふ、いいよ。子供みたいだね。」
 
シロクン  「気持ちいいなー!
        ハニサも突っ立ってないで寝転んでみろよ。
        遠慮はいらんぞ。ハニサのムロヤだ(笑)。」
ハニサ  「うん!」
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
縄文時代にヒゲは剃れたのか?
おそらく、綺麗には剃れなかったと思います。
黒曜石は、毛皮を切断したり肉を切ったりするのには非常にすぐれていますが、ヒゲを剃るのは難しい様です。
他には貝殻を研いで刃物使いする方法も考えられますが、それでもねえ・・・
ヒゲ剃りは、金属の登場を待つしかないかもですね。
それでも男の登場人物全員がヒゲボーボーでは面白くないので、ヒゲの無い顔の人もいた方がいいですよね?
 
 
縄文GoGoでは絵を描いてくれる方を募集しています。詳しくは『縄文GoGoの開始にあたって』で。

 

登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男  ヤッホ 22歳 ササヒコの息子  ハギ 24歳 ヤスが得意  クマジイ 63歳 長老だが・・・  クズハ 39歳 ハギとハニサの母親  タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

            

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を、山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  トコヨクニ=日本