縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

ウルシ村案内 第10話 2日目②

 

 

 

ハニサ  「これがどんぐり小屋。昨日、話題になってたでしょう。」

 
    シロクンヌとハニサは、小屋に入った。
    炉で薪が焚かれていて、周りに魚の串がたくさん刺してある。
 
シロクン  「なるほど、奥が消し熾き(おき)の置き場になってるんだな。」
ハニサ  「そうだよ。冬の始めには、もっと山積みになってるの。
      そして春にはほとんど無くなってる(笑)。」
シロクン  「ここの冬は、寒いんだろうな・・・火棚にどんぐりがいっぱいだな(笑)。
        ここでも煮炊きをするのか?」
ハニサ  「ここは乾燥部屋だから、湯は沸かさないの。串焼きとか灰焼きをやる所。
      グリッコもここで焼いたりする。
      器(うつわ)も、ここで焼く時があるんだよ。」
 
    吊り棚がいくつもあり、
    その上で笊(ざる)に盛られたどんぐりやトチの実が乾燥保存されている。
    そしてヒョウタン(クビレは無く電球型)や栗スダレが吊り下げられている。
 
シロクン  「外の軒下にカモが5羽、吊るされていたが、誰が射たのか知っているか?」
ハニサ  「コノカミが4羽で、ヤッホが1羽。
      昨日の朝、競い合うと言って二人で出掛けたの。
      ヤッホはアコから 一羽ボウズってからかわれてたよ。」
シロクン  「ハハハ。ところでハニサはヤッホから言い寄られてたのか?」
ハニサ  「一度だけ。
      ぜったいヤダって言ったらそれっきりだったから、忘れてたくらい。
      それにあたし、母さんからも、コノカミからも、
      村の男を相手にしちゃいけないって言われてたんだ。
      村の男にも、あたしを相手にするなって言ってたと思う。」
シロクン  「そうか。淋しくはなかったのか?」
ハニサ  「ぜーんぜん。粘土いじりしていれば楽しいし。
      あれがアコのタレだよ。絶対、触っちゃだめだよ。怒られるから。」
 
ハニサ  「あれが作業小屋。
      あたし、普段はたいていあそこにいて、器(うつわ)を作ってる。
      お祭りで使う明り壺も、あたしが作ったんだよ。
      石斧(いしおの)とか、いろんな道具もあそこ。
      道具によっては、使うのに誰かの許しがいる物もあるから、
      詳しいことは、コノカミから教わってね。」
 
ハニサ  「あそこの旗塔の下に崖が見えるでしょう?
      あの崖の下が深く掘ってあって、室(ムロ)になってるの。
      結構広いんだよ。
      ムマヂカリが鹿肉を吊るしていた所だよ。 
      その手前が送り場(ごみ捨て場)。
      陽の蘇(よみがえ)りの前日(冬至)には、
      ここで魂送り(たまおくり)のお祭りがあるの。
      去年は大雪だったんだよ。村の人達だけでやるお祭りなんだ。」
シロクン  「犬が二匹いるな。」
ハニサ  「大きい方がシロ。もう一匹がコロ。番犬なの。食料の見張り番。
      獣に荒らされないように見張ってる。」
シロクン  「シロは大きいな。狩りには出ないのか?」
ハニサ  「狩りに出るのはホムラだけだよ。
      コロはドングリ拾いに付いて行ったりはするけど。」
 
ハニサ  「広いでしょう?ここがウルシ林。
      葉っぱが黄色くなって来て、なんだか物悲しいよね?
      ここがウルシ小屋。ヌリホツマの作業小屋なの。」
シロクン  「遠くに見える小さな小屋は?」
ハニサ  「見張り小屋。時々男の人が泊まり込むみたい。
      春には鹿、夏には熊がウルシを荒らしに来たりするんだよ。」
シロクン  「この樹は見たこと無い樹だな・・・」
ハニサ  「サルスベリ。夏に赤い花がいっぱい咲いたの。」
 
ハニサ  「ここが祈りの丘。明り壺のお祭りはここでやるんだよ。
      ここはお祭りの時以外は飲食禁止だから気を付けてね。
      火も焚いちゃだめだよ。」
シロクン  「雨だったら、どうなるんだ?」
ハニサ  「延びるって聞いた。でも、雨降ったことないよ。」
 
ハニサ  「あそこはお墓。あたしの父さんも、あそこに眠ってるんだ・・・」
シロクン  「花でいっぱいだ。綺麗だな。
        子供たちが楽しそうに走り回っている。」
ハニサ  「お墓で遊ぶと、元気に育つんでしょう?」
シロクン  「そう聞くな。どこの村でも、お墓は子供の遊び場だ。」
 
ハニサ  「これがシロクンヌの宿。あたしのムロヤ。 (うれしそう)
      昨日までのあたしのムロヤは、あそこ。
      間違えちゃダメだよ。二重の梁(はり)はここだけだから。
      ちょっと待っててね。(ムロヤの中から、何かを持ってきた。)
      これ、何かわかる?きのう、急いで作ったの。
      生乾き(なまがわき)だから、強く触っちゃだめだよ。」
 
    調理器具のボウルに似た形の物に、小さな穴がいっぱい空いている。
 
シロクン  「わからんな~。器にしては、用をなさんし。水がだだ洩れだ(笑)。
        焼かなくていいのか?」
ハニサ  「うん。今夜使うんだ。今夜のお祝いなんだ。
      それまでどう使うかは、内緒ね。
      母さんに聞いたけど、これから樹を伐りに行くんでしょう?
      これ、汗を拭く手ぬぐい。
      母さんが編んだの。母さんこういうの得意なんだ。
      シロクンヌの服も作るって言ってたよ。」
シロクン  「ありがとう。大切に使うよ。
        で、今夜はあそこに行けばいいんだな?」
ハニサ  「ばか!あっちは母さん!ここって言ったでしょっ!」
シロクン  「悪かった。冗談だ。じゃあ行ってくるよ。」
 
ハニサ  「ここだからね!ここに帰って来てよ!」
シロクン  「ああ、わかったよ(笑)。」
 
    広場に向かって歩きながら、この村の居心地の良さに、
    シロクンヌは、なにか畏れ(おそれ)に似たものを感じた。
    それにこのまま行けば、ハニサのことを本気で好きになってしまうかも知れない・・・
    (おれは、タビンドだ!) シロクンヌは心の中で、何度も自分に言い聞かせた。
 
 
       ━━━ 幕間 ━━━
 
世界最古の漆の装飾品は日本で発掘されています。
       

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垣ノ島B遺跡 北海道ホームページより

北海道函館市の垣ノ島B遺跡、約9千年前の土坑墓から副葬品として出土しました。
副葬品と言っても、なんとそれは漆塗りの衣装。
ただし布が出て来た訳では無く、出土した時は、赤黒い土くれの様な状態でしたが。
ヘアバンド、肩当て、肘当て、腕輪、膝掛け・・・
全身に朱漆の衣装をまとって埋葬された様なのです。
ですからその人は、シャーマンの様な立場だったのではないかと言われています。
 
中国では、揚子江下流域の遺跡から約8千年前の物が出ています。
今後中国で、さらに古い物が出る可能性は十分あるのですが、技巧の差は歴然としていて、縄文人の方が優れています。
中国で出土するのは、椀など木の器胎に塗った物ばかりの様ですが、縄文人は繊維に含侵させたり、樹皮や土器にも塗っています。
櫛などの木の器胎には、3~5度の重ね塗りを施していたりします。
ものづくりニッポンは、縄文早期に始まっていたのですね。
しかしウルシについては謎も多いのですが、それはまたの機会に。
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男  ヤッホ 22歳 ササヒコの息子  ハギ 24歳 ヤスが得意  クマジイ 63歳 長老だが・・・  クズハ 39歳 ハギとハニサの母親  タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

            

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を、山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  トコヨクニ=日本