縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

大ムロヤでなら薪が焚けます 第8話 初日⑧

 

 

 

          夕食後の大ムロヤ(大型竪穴式建物)。

 

  炉が二ヶ所あり、そこでは薪(まき)が焚けた。

  使う薪は、クヌギが多かった。煙や煤(すす)が少ないからだ。
  クヌギの樹は村に接してクヌギ林があり、そこでゆるやかな管理栽培がおこなわれていた。
  クヌギは燃料にもなるが、斧の柄(え)などの道具としても使われたし、ドングリは食用となった。
 
  炉の火を囲んで、ササヒコ、ヌリホツマ、クズハ、ムマヂカリ、そしてシロクンヌの顔がみえる。
  ひもの通ったヒスイがササヒコの胸で炎を映して、ササヒコの威厳を一つ上げたようにも見える。
 
ササヒコ  「シロクンヌ、今夜はここで休んでくれ。
       ムロヤの空きが一つあるから、明日からはそこが宿だ。
       クズハ、明日はハニサと二人で、宿のしたくをたのむ。
       良い機会だから、ムロヤを一つ建てようかと思う。
       ヌリホツマ、地の神に許しを乞うてくれ。
       シロクンヌ、三ヶ月は、いてくれるだろう?」
シロクン  「三ヶ月か・・・・・
        分かった、では三ヶ月、厄介になろう。
        そこでその間だが、狩りの手伝いや魚突きももちろんできるが、
        おれはこう見えて、板作りや木彫りが得意なんだ。
        板が足りていなければ、作ってやるが。」
ムマヂカリ  「頼もしいな。ぜひ、狩りも手伝ってもらいたいが、
        コノカミ、祭りが近いから、机をいくつか作ってもらってはどうだ?」
ササヒコ  「なるほど、よい考えだ。
       明り壺の祭りにはシカ村やその下のアマゴ村から大勢来て、
       ここでザコ寝する。
       外の大屋根の下でも寝る。はぐれも歓迎だ。
       だから準備が大変なのだが、机があると都合がよいな。」
シロクン  「ではさっそく明日からとりかかるよ。
        月読み始め(新月)が祭りなら、
        その三日前までには二つくらいはできそうだ。
        そうそう、さっきちらっと見たのだが、
        大屋根の向こうの段差の下に湧き水があるだろう。
        ドングリの水晒しはあそこでやるんだよな?」
ササヒコ  「そうだな。木の実の水晒しやアク抜きはあそこだ。
       いろり屋で使う水も、あそこで汲む。
       毛皮の水晒しは、飛び石の脇の河原の作業場だ。洗濯場の横だな。」
シロクン  「それならおれに考えがあるんだ。
        木の実の水晒しがしやすい様にしてやるよ。
        ついては、ひとかかえの槙の木(コウヤマキ)を一本伐りたいのだが。」
ササヒコ  「ほう、なにか腹案があるのだな(笑)。わかった。立派な槙が一本ある。
       ヌリホツマ、御苦労だが、明日わしらといっしょに森に入って、
       祈りを捧げてやってくれ。」
ヌリホツマ  「また急な話じゃな。ではすぐにでも身の清めに入らねばならぬ。
        これでおいとまするぞえ。」
ササヒコ  「うむ、よろしく頼む。」
シロクン  「コノカミ、今、この村には、何人が暮らしているのだ?」
ササヒコ  「ちょうど50人だ。」
シロクン  「なんと、50人でこの大ムロヤか・・・
        外の大屋根も立派であるし・・・
        充実した村なのだなあ。」
クズハ  「住みやすくて、いい村よ。
      そうそうシロクンヌ、ここの奥に神坐があるから、
      明日、ハニサとお参りしたら?」
 
    大ムロヤの奥の隅に、考古学者が石棒と呼ぶ、
    男性器を象(かたど)った腰の高さの石が置かれていた。
 
シロクン  「この村ではあそこに神坐があるんだな・・・他にもあるのか?」
クズハ  「村ではあそこだけよ。」
ムマヂカリ  「各ムロヤの中に神坐を置く村もあるそうだな。
        ところでシロクンヌ、ハギがお前のそのヤスを気にしていたぞ。」
クズハ  「息子は魚突き自慢なのよ。きっと腕を競い合いたいのだと思うわ。」
シロクン  「ほう、では一度、お相手せねば。
        タビンドの突きの腕前、とくと御覧に入れる(笑)
        それから塩渡りだが、この村が一番上(カミ)なのか?」
クズハ  「そう、この上に村はないの。西に行くと村はあるけれど、そこは別の塩渡り。
      下(シモ)はここから東に向かっていて、
      シカ村を一つ目と数えたら、七つ目がシオ村。
      ここで使う塩が取れる村ね。」
シロクン  「なるほど・・・
        となると、ここは海からもっとも遠い丘なのかも知れんな。」
ササヒコ  「そうやって言う者も多いな。
       シオ村には、長年わしのすぐ下の弟が、塩づくりの加勢に住み込んでおる。
       向こうで所帯を持って、五年に一辺しか帰ってきやせんが、
       今年が丁度五年目だ。
       祭りの前には帰って来るだろうから、そこでシロクンヌに紹介できると思う。
       あと朝飯だが、いろり屋で、おのおの好きな時に食うことになっておる。
       日の出には鍋も煮立っておるはずだ。
       仲間も増え、明日から楽しくなりそうだ。
       ムマヂカリ、シカ村への使い、しっかり頼むぞ。
       モリヒコ(シカ村のカミ)にもよろしくな。
       ではこれでお開きにしよう。
       シロクンヌ、それからみんなも、ゆっくり休んでくれ。」
 
 
          ━━━ 幕間 ━━━
 
石棒(せきぼう)について。
 
              

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北沢大石棒 長野県南佐久郡佐久穂町 東京国立博物館ホームページより
男性器を模した磨製石器で、村落の建物の中や、外に置かれていました。
縄文中期以降、中部高地を中心に巨大化していったようです。
子孫繁栄や豊穣の祈りなど、何らかの宗教儀礼、呪術や祭祀で使われたのだろうと言われています。
 
私の空想では、女性器に見立てた物もセットだったのではないかと思っています。
石だけが残っていますが、残らない素材からなる構成物とセットだったのかも知れないでしょう?
女性器に見立てた皮や布で覆い、石棒は見えなかったのかも知れないし、縄でグルグル巻きだったのかも。
あるいは穴の開いた布を中ほどまで徹し、その布で棒の先端を包むように結んでいたかも。
つまり表現されていたのは、男性器と言うより性行為だったのではないか。
縄文人は性に対しておおらかで、後ろめたさは希薄だったのかも知れません。
快感をもたらす性行為を、非常に肯定的に捉えていたのだと思います。
 
 
 
塩渡りについて。
中国で海水から塩を取ったのは、日本の平安時代からです。
それまでは、塩湖で塩の結晶を手に入れたり、多いのは岩塩。
塩は、掘ったり削ったりして得ていました。
 
対して日本では、縄文時代から海水から塩を取っています。
塩土器(塩がこびり付いている土器)は、縄文後期の遺跡から出土しているので、
5000年前(縄文中期)は、まだ製塩法が考案されていないかも知れません。
しかしこの物語では、海辺の村人は、製塩を行っているという設定にしてあります。
製塩法については、物語のもっと先で、登場人物に語らせようかと思っています。
 
さらに塩渡りという設定もあり、海辺で余力のある村は、
山の村の為に製塩をしてあげていることになっています。
海から山に向かっての塩街道に点在する村同士が助け合っているという設定です。
山の村の特産品が、海の村に向かう訳ですね。
塩渡りの村の間では、人や物の行き来が頻繁に行われていることになっています。
そこではタビンドの手を介さずに、定期的に物流が行われている訳です。
 
 
 
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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ   ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男  ヤッホ 22歳 ササヒコの息子  ハギ 24歳 ヤスが得意  クマジイ 63歳 長老だが・・・  クズハ 39歳 ハギとハニサの母親  タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

            

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)                 塩渡り=海辺の村が作った塩を、山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  トコヨクニ=日本