第124話 18日目③
大ムロヤ。
カタグラ 「ところで女神が光らなくなったと聞いたが。」
シロクンヌ 「ああ、今日は一度も光っていない。
明日からは分からんが、宿したからではないかな。」
カタグラ 「子に力を蓄えておるのかも知れん。
産まれて来るのが楽しみだな。」
シロクンヌ 「そうなんだ。おれもちょくちょく見に来ようと思っている。」
タカジョウ 「旅立つ前に、名を決めておいたらいい。」
ハニサ 「うん! シロクンヌが名前を付けて。」
シロクンヌ 「おれが名付けていいのか?
実はもう考えてあるのだが。」
ハニサ 「いいよ。何ていう名前?」
シロクンヌ 「アマテル。男でも、女でも。」
ハニサ 「アマテル! いいね! あたしのここに、アマテルがいるんだね。」
サチ 「アマテル! いい名前だね。
お姉ちゃん、よかったね。
父さん、私、カブテの練習してきてもいい?」
シロクンヌ 「遠くへ行ってはいかんぞ。水汲み場のそばだけだ。」
サチ 「はい。」
ヤッホ 「ヤシム、タホの寝床は、奥に作ったよ。
みんな揃ったみたいだな。
さっきの続きだけど、タカジョウ、コヨウって誰なんだ?」
タカジョウ 「おれの妹だ。父親は別だが。15になる。」
ヤシム 「タホはよく寝る子ね。妹がいたの。どこに住んでるの?」
タカジョウ 「黒切りの里の山師に預けていたのだが、
4日後にアユ村に引っ越すことになっている。」
ハニサ 「カタグラはその事を知ってたの?」
カタグラ 「最近だよな? 本決まりになったのは。」
タカジョウ 「そうだ。明り壺の祭りの時に、話がまとまったんだ。
妹も祭りに来ていたんだが、
三人組に絡まれているところを、オジヌが助けてくれたんだよな?」
オジヌ 「おれ、たまたま近くに居たんだ。
そいつら、嫌がってるのに、強引にコヨウを連れて行こうとしてたから、
おれが割って入ったんだ。」
エミヌ 「それですぐに収まったの?」
オジヌ 「静かな所で話をしようと言うから、コヨウはそこに置いて、
4人でウルシ林に行ったら、思った通り、いきなり襲い掛かって来た。」
ヤッホ 「それでどうしたんだ?」
オジヌ 「ん? やっつけたんだよ。」
エミヌ 「あんた一人で?」
オジヌ 「そうだよ。」
エミヌ 「どうやったのよ。」
オジヌ 「どうって、蹴ったんだ。」
シロクンヌ 「みんなは知らんだろうが、オジヌは強いんだ。
3人相手なら、オジヌが勝つだろうな。」
ハニサ 「今日、作業小屋で話してた、あれ?」
オジヌ 「うん。おれ、こっそり爪先を鍛えていたんだ。
足が石で出来ていたら強いだろうなと思ったから。
だから爪先が石になるくらい鍛えようと、毎日、樹を蹴っていた。」
エミヌ 「いつからやってたのよ?」
オジヌ 「5年前だよ。腕くらいの太さの枝なら、爪先蹴りで折れるよ。」
ナジオ 「5年前と言うと、あれがきっかけか?」
オジヌ 「あの時、ハニサを護れなかったからね。」
エミヌ 「ハニサを護るために鍛えたの?」
オジヌ 「だってシロクンヌが居なかったから。」
タカジョウ 「そうか。おれもこれで安心して旅立つことができる。」
ヤシム 「どういう事なの?」
タカジョウ 「妹はイエには無関係だからこっちに置いていくんだが、
おれの他に身寄りもないし心配していたんだ。
だがオジヌがおれば安心だ。そうだな? オジヌ。」
オジヌ 「うん。おれが護るよ。」
エミヌ 「なに? あんた達、付き合ってるの?」
オジヌ 「まだ付き合い始めたばかりだけどね。」
タカジョウ 「妹は、心配で、四人の後をつけたようだ。
そしたらオジヌがあっという間に片付けたらしい。
それを見て、妹の方から付き合ってくれと頼んだと言っていた。」
カタグラ 「やるな。可愛いのか?」
オジヌ 「可愛いさ。だから狙われたんだよ。」
ヤッホ 「夜宴には来るんだろう?」
オジヌ 「うん。そこでみんなに紹介できるね。」
エミヌ 「オジヌ、あんた意外に素敵なのねえ。また、見てみる?」
オジヌ 「姉ちゃん、もういいよ!」 笑いが起きた。
シオラム 「お、集まっておるな。
降って来たぞ。
サチが濡れながらカラミツブテの練習をしておるが、大丈夫なのか?」
シロクンヌ 「もう体は温まっているだろうからいいだろう。
湯だけは沸かしておいてやるか。」
ナジオ 「ではオジヌ、5年前の事で腑に落ちん所がいくつかあるんだ。
言いたくなければ言わんでいいから、言える所だけ話してもらえないか?」
オジヌ 「ハニサはいいんだよね? おれが話しても。」
ハニサ 「いいよ。あたしがされた事は、あたしからみんなに話してあるから。」
カタグラ 「なんだ? 5年前、女神に何かあったのか?」