第120話 17日目⑥
大ムロヤ。魂写しの儀。続き。
ハニサ 「あ!ここでは嘘を言っちゃいけないんだった!」
ヤッホ 「どうした? 思い出したのか?」
ハニサ 「うん! 思い出したよ。
全部思い出した!
オジヌがあたしを抱いて旗塔からムロヤまで運んでくれたの。
そしてムロヤで、体を拭いてくれた。
でも、あたしをさらった奴をやっつけてくれたのは、知らない大人の男の人だった。」
ハギ 「村の人ではないんだな?」
ハニサ 「うん。あの日、供宴の場にオジヌと一緒にいて、
あたし疲れたからムロヤに帰って横になるって言ったの。
そしたらオジヌが慌てたのよ。
ムロヤはバレてるって。」
サチ 「バレてるっていうのは、二人組がお姉ちゃんのムロヤを知ってたの?」
ハニサ 「たぶん、そういう意味だと思うよ。」
ヤッホ 「よっぽどハニサを付け狙ってたんだな。
ぶん殴ってやりたいよ。」
ハニサ 「そしたら、奴らだ、見つけた!って言って走って行っちゃったの。
だからあたし、村の方に向かって歩いて行ったら、
人気の少ない所で、抱え上げられたの。誰かに。」
ムマヂカリ 「供宴の場や祈りの丘にみんないて、村は人がいないだろうな。」
ハニサ 「そしてそのまま、旗塔に連れて行かれた。
シロが吠えていたのを覚えてる。」
ヤッホ 「体を触られたりしなかったか?」
ハニサ 「しなかった。嫌な味のする物を、口に詰められた。
そいつはあたしを下して、ハアハア息をしてて、
そしたら知らない人が来て、そいつをやっつけてくれた。
シロがずっと吠えていて、オジヌはそれで旗塔に来たみたい。
オジヌが来てくれた時、その人はオジヌに、よくハニサを護ったなと言ったの。
あたしの名前を知っていた。
そしたら少し離れた場所で、男二人が争って、一人を打ち負かしたのだけど、
あれがシオラムだったの?」
シオラム 「多分な。」
ハニサ 「もう一匹はあっちが片付けた。もう心配ないから、おまえはハニサをムロヤに運べ。
その人がオジヌにそう言ったの。
でも不思議なの。
あんなに暗くて離れていたのに、なんでどっちが勝ったか分かったのかしら?
ムロヤでオジヌに、さっきの人は誰?って聞いたら、
知らない。さっき初めて会ったって言っていた。」
ハギ 「一体誰だったのかな、ハニサを助けたのは。」
ムマヂカリ 「だけどオジヌも、その人が来るなんて知らずに旗塔に行ったのだろう?
肝の据わった11歳だぞ。」
エミヌ 「へー! オジヌがねえ・・・
とにかくハニサが大好きだったのよ。
でもその少し後くらいから、私の事をいやらしい目で見るようになったの。」
ヤッホ 「オジヌがか?」
エミヌ 「そうよ。」
ハギ 「どうせそれは、エミヌが大胆な格好をして、オジヌを挑発したせいだろう?」
エミヌ 「なんでハギは分かったの?
オジヌはドギマギした顔をして、すぐ神坐になるの。
見ていて可愛いのよ。
ハニサ、意味わかる?」
ハニサ 「え、分かる。エミヌはオジヌに見せてたの?」
エミヌ 「そうだよ。見えてるなんて知らなかった・・・みたいな感じで、実はわざと。
そしたらオジヌがチラチラ見てるじゃない。ドギマギした顔で。
それを見て、私も興奮してたの。
サチにはそういう気持ち、分かる? まだ早いか。」
サチ 「私、分からない・・・」
ハギ 「サチは分からなくていいぞ。
エミヌは二人組に覗かれて以来、覗かれ願望が芽生えたんじゃないのか?」
エミヌ 「なんでハギは何でもお見通しな訳?
ハギってその道の達人?」
ハギ 「達人な訳、無いだろう! サラの前で、変な事言うなよ。」
ハニサ 「今でも見せてるの?」
エミヌ 「今は無理よ。あいつ、男ムロヤに行っちゃったでしょう?
それに、もうドギマギした顔にならないんじゃないかしら。
そうならつまんないから、もうあいつには見せてやらない。」
ヤッホ 「お、おれ、ドギマギした顔するぞ!」
エミヌ 「そうなの? ちょっと見てみる?」
ムマヂカリ 「おれもドギマギする!」
エミヌ 「ムマヂカリは駄目! マ印を教えてくれなかったから。」
ムマヂカリ 「教えてやる! いいかよく聞け・・・」
それからしばらく、エミヌ主導による猥談が続いた。
そして、ハギのムロヤで続きをやろうということになり、
ハギ、サラ、ムマヂカリ、ヤッホ、エミヌ、ナジオ、はハギのムロヤに行き、
大ムロヤはハニサ、シロクンヌ、サチ、シオラム、クズハの面々となった。
そしてサチはシロクンヌのひざで眠ってしまった。
クズハ 「ああ、興奮しちゃったわねえ。
床を延べたから、サチはこっちで寝かす?」
シロクンヌ 「ありがとう。しかしエミヌはじらすだけじらしておいて、結局見せる気は無いな。」
シオラム 「ムマヂカリとヤッホは完全に手玉に取られておったな。」
ハニサ 「でも母さん、なんでオジヌが連れて来てくれて、体を拭いてくれたことまで分かったの?」
クズハ 「あの夜ムロヤに帰ったら、臭いがしたのよ。栗の花の匂いが。
それで慌ててハニサの体を調べたの。そしたら傷もなく、きれいだったわ。
ところが、その日ハニサが着ていた服は、おしっこで濡れていたの。
だから、ハニサを連れて来た人は、ハニサを拭いてくれて、
ハニサを見ながら自分でしたんだわと思ったの。
前後の流れから見ても、その人はオジヌじゃないかしらと思うでしょう?」
ハニサ 「その時あたし怖くて、おしっこを漏らしちゃったの。
ムロヤでオジヌが体を拭いてくれていて、うっと言ったあと何だこれと言って、
しばらく茫然としていた。
そしてそんな気は無かったと言ってあたしに謝ってた。
あたし、その時はまったく意味が分からなかった。」
クズハ 「そうだったのね。」
シロクンヌ 「オジヌには潔癖なところがあるからな。
ハニサをいやらしい目で見てしまったと思い、自分が嫌になったかも知れん。」
ハニサ 「そうかも知れない。」