第119話 17日目⑤
大ムロヤ。魂写しの儀。続き。
ヤッホ 「それで叔父さん、祭りの時には何があったの?」
シオラム 「どうしたもんかな・・・
おれが言ってしまっていいのだろうか?
ハニサは嫌だったというよりも、怖かったのだよな?」
ハニサ 「そう。怖かったの。
何があったのか、教えて!」
シオラム 「ハニサは、さらわれたんだ。」
サチ 「え!」
シオラム 「と言っても、旗塔の下までだ。
そこが、二人組の待ち合わせ場所になっておった。
ハニサをさらった奴が、先にそこに着いた。
そこで何者かがハニサを救出した。
おれは、それはオジヌかも知れんと思っている。」
エミヌ 「オジヌがハニサを助けたの?」
シオラム 「待ってくれ、順を追って話す。
あの年おれは、シオ村で世話役が回って来ておって、そっちの用事の加減で、
ここには祭りのひと月前に来て、祭りが終ったら三日後に戻る予定でいた。
祭りの日の話をすると、おれはある女から相談を受けたんだ。
事が事だから、村の者には言いにくかったのだろう。
二人組からいやらしい事をされたと言う。
それなら見つけ出して懲らしめてやると言ったのだが、
仕返しが怖いから止めてくれと言われた。
女は怯えておったので、おれは近くに居てやることにした。
すると、一人はあの男だと言ったから、おれは服装と顔を覚えた。
その後そいつを見つけ出して、後をつけて、
人込みから抜けた所で、そいつをぶちのめした。
そいつの口を割らせると、片割れは旗塔だと言った。
それで二人で旗塔に向かったのだが、夜だからな、旗塔の辺りは星明りだけだ。
すると暗闇に呻き声がする。
片割れは、何者かにぶちのめされて、動けずにいた。
おれがぶちのめした奴は、それを見て逃げ出した。
おれは追いかけたが、見失った。
そしたら、ウワという声のあと、ドンと音がした。
見に行くと、どうやらそいつは崖から落ちたようだった。
取りあえずそいつは放っておいて、
おれは作業小屋から縄を取って来て、片割れを樹に縛り付けた。
そしてタイマツを2本持って来て、1本を崖から投げ落とした。
その炎が男を照らし出したが、男はまったく動かない。
慎重に崖を降りてみると、すでに男は死んでおったから、そいつは川に流した。
増水していたからな・・・海まで運ばれたかも知れん。
おれは予定を早め、祭りの次の日に、シオ村に戻ることにした。
その時、樹に縛りつけておいた片割れを連行した。
その片割れが、シオ村が近づいた所で言ったのだ。
ハニサをさらっていたと。
ハニサに何かしたのかと聞いたら、何もしていないと言った。
ハニサをさらって旗塔に着いたら、すぐに何者かに襲われたと言っていた。
祭りの翌朝、村は大騒ぎになっていなかったから、
ハニサは無事なのだろうとおれは考えた。
差し迫った用事もあったから、おれはそのままシオ村に戻った。
その片割れは、船の無い離れ小島で塩作りをさせていたが、2年前に病で死んだ。」
エミヌ 「そんな事があったなんて、全然知らなかった!」
シロクンヌ 「ハニサ、何か思い出さないか?」
ハニサ 「暗い旗塔で・・・あ! 母さん!」
クズハ 「お夜食よ。
テイトンポもアコもいないし、どうせ一人だから、混ぜてもらおうと思って。
深刻な顔してるけど、何のお話?」
ハニサ 「5年前の明り壺のお祭りで、あたし、さらわれたの?」
クズハ 「何を言い出すの、急に。さらわれてなんかいないわよ。」
ハニサ 「あたし、凄く怖い目に遭ってるはずなの。でもそれが思い出せないの。」
クズハ 「さらわれたなんて、一体どうしてそんな話になっているの?」
シロクンヌ 「かいつまんで説明するぞ・・・」
クズハ 「マツタケ山でそんな事があったの。脚をくじいただけじゃなかったのね。」
シロクンヌ 「ところで、ハニサを助けたのはオジヌだと考える訳は?」
シオラム 「その片割れの話では、ハニサのそばに鬱陶しいガキがいて、
何かと二人の邪魔をしたらしい。
そいつら祭りの最中に、気付かれんように何人もの女を覗いたと言うんだ。
自慢するような話し振りでな。
そのガキがいなかったら、その倍の人数が覗けたはずだと悔しがっておった。」
サラ 「狂ってる。」
シオラム 「まったくだ。奴らはハタレだ。」
ハニサ 「ハタレ!」
シオラム 「奴が言うには、二人でそのガキをおびき寄せて後を追わせ、
二手に分かれて、ガキをまいた方がハニサをさらう作戦で、
おれがガキをまいたんだと得意げに言っておった。
そのガキというのは、マツタケ山で、ハニサと一緒にいたガキだと言った。
マツタケ山に変な二人組がいたというのは、おれは、ナジオから聞いて知っていた。」
ハギ 「母さん、祭りの夜は、ハニサの様子はどうだったんだ?」
クズハ 「帰ったらムロヤで寝ていたわ。怪我とかは、していなかったはずよ。」
ハニサ 「私、何か言ってなかった?」
クズハ 「うなされていたわね。熱も高かったのよ。
そのままハニサは寝込んでしまって、口をきいたのは、3日後だったかしら。
それからは、さらわれたなんて、一度も言ったことはないわよ。」
シロクンヌ 「ムロヤに変わった様子はなかったのか?」
クズハ 「そう言われれば・・・一人で帰って来たんじゃないと思ったわ。
お湯も沸かしたようだったし・・・多分、誰かが連れて来てくれたのよ。」
シロクンヌ 「その誰かは、名乗り出なかったのだな。」
クズハ 「そうなの。村の人なら、何か言うはずよね。」
シロクンヌ 「ハニサはそれ以来、オジヌと口をきいていなかったんだな?」
ハニサ 「そうなのかな・・・」
クズハ 「ハニサが寝込んでいる間、オジヌは毎日様子を聞きに来ていたの。
でも、ハニサは元気になったから遊びにおいでと言っても、
それならいいんだと言って、来ようとはしなかったわね。
ハニサ、オジヌがムロヤまでハニサを連れて来てくれたんじゃない?
そして体も拭いてくれたんじゃないかしら?」
ハニサは、身振りで静かにしていてと伝えた。
ハニサが何かを思い出しそうだと思い、しばらくの間、みんなは固唾をのんで見守った。