第118話 17日目④
大ムロヤ。魂写しの儀。続き。
シロクンヌ 「怖い思いをしたのは、いつ頃の話なんだ?」
ハニサ 「あたしが12歳の時。」
シロクンヌ 「5年前だな。それが原因でオジヌと口をきかなくなったのかな?」
サチ 「その頃のオジヌは、ハニサは護ってあげなくちゃいけないって、
頻繁に言ってたんでしょう?
きっと、お姉ちゃんに、何か悪い事が起きると知ってたんだね。」
ハニサ 「どうしてサチが知ってるの?」
サチ 「アケビの蔓を採りに行って、お昼を食べてる時、エニがそう言ってたの。」
エミヌ 「よく覚えていたわね。確かにそういう話をしたね!」
ハギ 「5年前で、季節は?」
ハニサ 「今位。というか、明り壺のお祭りの時だと思う。」
シオラム 「おいおい、ちょっと待ってくれ。
5年前の明り壺の祭りで起きた事を、みんなは知らんのか?」
シロクンヌ 「そうか、5年前なら、ちょうどシオラムとナジオもお祭りに来ていたんだな。」
ムマヂカリ 「5年前と言えば、直前に大雨が降って、川の増水で飛び石が危なかった年だ。」
ハギ 「だが他の村の連中も、なんとか、たどり着いただろう?
他に何かあったか?」
エミヌ 「覗き魔を探しに、どこかの村の人が来なかった?
お祭りの何日かあとに。」
ナジオ 「マツタケ山の覗き魔は、よその村でも悪さをしていたのか?」
ムマヂカリ 「そうだった。
おれ達はそいつらの顔を知らんのだが、祭りに紛れ込んでおったようだ。
その村では母娘を連れ去ったらしい。
マツタケ山の張り屋(テント)から、子供の服が出て来た。
しかしそいつらは、結局そこへは戻らんかったな。
そいつらが祭りで何かをやったという事か?」
シオラム 「オジヌは何も言っておらんのか・・・
待てよ。
オジヌはハニサが忘れておるとは思っておらんかったのだな?」
ハニサ 「そうみたい。
忘れたの?って驚いてたから。」
シオラム 「ハニサが言わんから、オジヌもみんなに語らんのかも知れん。」
ハギ 「そう言えば、5年前の祭りの翌日から、ハニサは寝込んだんだ。
熱が高くて、呼びかけても返事をしなかった。
ヌリホツマが寝ずの祈りをしてくれたんだ。」
ナジオ 「ハニサは祭りの日の事を覚えてはいない?」
ハニサ 「何かあったと思うんだけど・・・」
ナジオ 「それならマツタケ山の一件は?」
ハニサ 「覚えてるよ。
足をくじいてナジオにおんぶしてもらって帰って来たよね。」
ナジオ 「うん、その日の山での出来事。」
エミヌ 「私とハニサ、覗かれたじゃない。」
ムマヂカリ 「その二人組、マツタケ山で張り屋(テント)暮らしだったな。」
ナジオ 「おれ達が、奴らと最初に出くわしたんだよ。
あんなのが居るなんて知らずに松茸採りに行ったんだ。
おれは当時15歳で、マツタケ山に行った中では、おれとアコが年長だった。」
エミヌ 「あれ、お祭りの何日か前だったよね?
あの時行ったのは・・・ナジオ、ハニサ、私、アコ、あと、オジヌとカイヌね。」
ヤッホ 「マツタケ山で、何があったんだ?」
エミヌ 「私、山でみんなから少し離れたの。
そこにあの二人が現れて、木の実を採りたいだろう?って私を持ち上げたの。
二人で片足ずつ持って、こうすると高い所に届くぞって。
私、無邪気に木の実を採ってたんだよ。
てっきり親切でやってくれてるんだと思ってたら、なんか様子がおかしいの。
ずっと下から覗いてたのよ。」
サチ 「えー! ひどい!」
エミヌ 「脚を開かれてたから、私恥ずかしくて、下ろしてって言ったら、ひどい事言われた。」
ヤッホ 「何て言われたんだ?」
エミヌ 「私のがどうなってるって言い立てるの。持ち上げたままだよ。
もう、死ぬほど恥ずかしかった。」
ヤッホ とんでもない奴らだな。
今、目の前にいたら、ぶん殴ってやる!」
ナジオ 「おれはアコとカイヌと一緒にいたんだ。
そしたら遠くでオジヌの叫び声が聞こえた。
ハニサを下せ!って。」
ハニサ 「思い出した! オジヌがすごい剣幕で怒ったの。
あたしも同じ様にされたけど、その時は無頓着だった。
でも今思うと、酷い事言われてる。」
ヤッホ 「なんて言われたんだ?」
ハニサ 「ツルツルだな。おれの勝ちだ。そう言ったの。」
サラ 「最低ね!」
ハニサ 「あたし、そういうの全部おそかったんだ。
そっちの知識も意識も全然なくて、その時は、ピンと来てなかったのね。
でもそれを聞いて、オジヌは怒ったの。」
シロクンヌ 「いくつ位の奴らなんだ?」
エミヌ 「20代半ばかな。」
ナジオ 「おれがそこに走って行くと、奴らはもういなかった。
ハニサが足をくじいて泣いていた。
下ろせって言われて、あいつら手を放して落としたみたいだな。」
ハニサ 「思い出した! あの時は痛いのが先立ってたけど、
あいつら、大丈夫か診てやると言って、座り込んでるあたしの脚を開いたの。
そしてオジヌに、ほら、よく見えるだろうって言ったのよ。
もっと色々言ってた気がする。
その時は意味が分からなかった。」
ナジオ 「そんな事までしたのか!
それはオジヌは言わなかったが、ハニサを護れなかったと言って泣いていた。」
ハギ 「それ以上の事はされてないんだろう?」
ハニサ 「うん。ちゃんとシロクンヌに捧げてるよ。そうだよね?」
シロクンヌ 「間違いない。出会った時、ハニサは生娘であった。」