第116話 17日目②
大ムロヤ。祝宴のゆうげ。
ササヒコ 「今日、ハニサがシロクンヌの子を宿したことが分かった。
みんなも見たであろう。
その子は、光の子だ。
芽吹いたばかりの命が、あふれんほどの光を放ち、渦を作って見せたのだ。
しかもその子は、父親であるシロクンヌに、
ここにいるよ、と語りかけたと言うではないか。
トコヨクニ始まって以来の吉事吉兆が、我がウルシ村で起こったのだ。
来年から、明り壺の祭りから三日後を、光の日として、村を挙げて祝おうと思う。
祭り明けだが栗実酒はまだまだあるぞ。
皆の衆! 目出度い踊りを踊って、光の子の宿りを祝おうぞ!」
大ムロヤに大歓声が沸き起こり、村人全員が地を揺らして目出度い踊りを踊った。
クズハ 「シロクンヌ、有難うございました。
ハニサに光の子を授けてくださいました。」
シロクンヌ 「いや、おれはただ、何と言うか・・・」
ハギ 「ハニサ、よかったな! シロクンヌ、ありがとう。
シロクンヌからはいろんな物をもらったけど、また最高の贈り物をくれたね。」
シロクンヌ 「いや、だから、おれはただ・・・」
サラ 「ハニサ幸せそう。おめでとう。
ハギ、私達も、子供欲しいね。」
ハニサ 「ありがとう。ほんとに幸せ。」
ヤシム 「ハニサ、おめでとう! よかったね。
光の子なんて凄いじゃない!」
ハニサ 「ありがとう。ヤシム、いろいろ教えてね。」
ヤッホ 「さすがアニキだな。早々と決めてくれたね。」
シロクンヌ 「ああ、善は急げと言うからな。」
ムマヂカリ 「シロクンヌ、子供を見に来るってな。
毎年、お祭りには来いよ。」
シロクンヌ 「どんな子に育つのか、おれも楽しみなんだ。
ちょくちょく来るかもな。」
ムマヂカリ 「見てみろ、ハニサの顔を。
おぬしがそう言っただけで、涙ぐんでおるのだぞ。」
エミヌ 「そうだよ。どうせ旅に出たって、ハニサはどうしてるかな・・・
なんて、ぼそぼそつぶやくくせに。」
シロクンヌ 「ハハハ、確かにそうかも知れん。
サチには聞かれんようにせんとな。
報告されてしまう(笑)。」
クマジイ 「長生きはするもんじゃのう。
まさかこんな吉兆と出会えるとは思わなんだ。
こうなれば光の子の成長を見届けるまでは、お迎えが来ても追い返さにゃあならんな。」
シロクンヌ 「そうだ、クマジイ。ちょくちょく来るから、元気でいてくれよ。」
シオラム 「ハニサは美しくもなったが、健康的にもなった。
これなら絶対、元気な子が産めるぞ。」
ナジオ 「おれは帰りがけに、ハニサの話を塩街道中に広めてやろうと思ってる。
塩街道一の美人が、光の子を宿したとな。」
ヤッホ 「よその村から、見に来やしないかな?」
ハギ 「絶対、見に来るぞ。ナジオ、程々にしてくれよ。」
タマ 「でもこういう話は伝わるのが早いからね。
ホコラもハニサの光の渦を見たら、いそいそと帰って行ったよ。
あれはおそらく、世間に言い触らすつもりだね。」
エミヌ 「オジヌ、あんたハニサを護るんでしょう?
シロクンヌの留守中にハニサに付きまとう奴がいたら、あんたがやっつけなさいよ。」
オジヌ 「ああ、そんな奴が出たら、やっつけてやるよ。」
シロクンヌ 「ハハハ、オジヌ、今日は祝いの準備やらでごたごたしてしまって、
ろくに背負子作りができなかった。
明日も背負子作りをするが、来るか?」
オジヌ 「もちろん行くよ。明日は他に用事を入れてないから、朝一番で作業小屋に行ってる。」
ヤシム 「背負子が出来るなら、
バンドリ(肩や背中を保護するために着ける当て物)が要るんじゃない?
持ってないなら、作ってあげようか?」
シロクンヌ 「そうだ。バンドリはあった方がいいな。オジヌは持っているのか?」
オジヌ 「急ごしらえの物しか持ってない。」
ヤシム 「それなら、しっかりしたのを作ってあげるよ。」
オジヌ 「ありがとう。ヤシムはバンドリを編むのが巧いんだよ。」
ハギ 「おれ達のバンドリもヤシムが作ってくれたんだよな。」
ヤシム 「菅(スゲ)はたくさんあるから、テイトンポの分も作っておくよ。」
シロクンヌ 「すまんな。助かるよ。ヤシムはスゲ細工が得意なんだな。」
ヌリホツマ 「ハニサや、身代わり人形じゃが、この奥の神座の前に一度並べる。
その手前が人形作りの作業場になるのじゃが、そこまでが神域じゃ。
このあとそこに線を引く。
そなたは今夜、粘土と共に神域で休むのじゃ。
明朝まで、神域にはハニサしか入ってはならぬ。
シロクンヌは神域の手前で休むのじゃぞ。」
ヤッホ 「神域の手前なら、アニキ以外の人が居てもいいんだろう?」
ヌリホツマ 「それは構わん。
粘土に魂写し(たまうつし)をするという意味から言えばじゃが。
大騒ぎなどして、ハニサを疲れさせんようにな。」
サチ 「父さん、私も居てもいい?」
ハニサ 「いいよ。サチも居なよ。シロクンヌ、いいでしょう?」
シロクンヌ 「ああ。ヤシム、サチは今夜、こっちで寝るよ。」
ヤシム 「それがいいよ。
私の時なんて、ヤッホが寝ぼけて、線から入って来ようとしたんだから。」
ムマヂカリ 「あれは危なかったな。
ヤシムー、ヤシムー、と言いながら、すたすた歩いて行くもんだから、
おれが慌てて襟首を引っ掴んだんだ。」
ハギ 「アコの時も、ヤッホは寝ぼけたよな。アコ、アコ、って。」
ヤシム 「そうなの? あんたほんっとに見境が無いね!」
ヤシムがヤッホの尻を叩いて、みんなが笑った。