縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第115話 17日目①

 

 

 

          朝のいろり屋。外は激しい雨だ。

 
シロクン  「オジヌ、ちょっと来てみろ。」
オジヌ  「おはよう。どうしたの?」
シロクン  「ほら、これをやるよ。三つある。」
オジヌ  「これは・・・歯?
      こないだのサメの歯に似てるけど、こっちのはギザギザがあるね。」
シロクン  「ホホジロザメの歯だ。アオザメよりも、大きくて狂暴なんだぞ。
        この歯に穴を開けてな・・・ほら、おれはこうやって使ってる。
        竹を切るのに便利だ。
        ここでギコギコやるんだよ。
        タビンドの七つ道具の一つだな。」
オジヌ  「見せて。
      穴を開けて、ヒモで木の持ち手と結んで固定するんだね。
      ここを持って、ギコギコやるんだ・・・
      三つもいいの?」
シロクン  「ああいいさ。オジヌも自分なりに考えて、道具を作ったらいい。」
オジヌ  「ありがとう! 一つは、これにそっくりなのを作ってみる。」
シロクン  「オジヌ、今日、背負子を作るが、オジヌもやるか?」
オジヌ  「やりたい! どこでやるの?」
ハニサ  「作業小屋だよ。」
オジヌ  「母さんとの約束で、アケビの蔓の枝切りをしなくちゃいけないんだ。
      急いで済ませて行くよ。
      覚えていてくれたんだね! おれが木工を教えて欲しがってたこと。」
シロクン  「ああ、覚えていたさ。
        おれ達も粘土搗きを先にやって、その後に背負子作りだから、丁度いいんじゃないか。」
オジヌ  「じゃあ、急いでやって来る。」
シロクン  「サチはどうする? カブテの練習がいいか、背負子がいいか?」
ハニサ  「でも、土砂降りだよ。どこで練習するの?」
シロクン  「作業小屋の裏だな。濡れながらの練習になる。」
サチ  「カブテの練習でもいい?」
シロクン  「粘土搗きで体を温めてからだぞ。」
サチ  「はい。」
シロクン  「雨でずぶ濡れになる、それもまた訓練だ(笑)。
        サチ、ちょっとカブテを見せてみろ。石が割れたと言っていたな?」
サチ  「取り替えたのはこっち。似た石を探したの。」
シロクン  「よく探せたな。暗かっただろう。」
サチ  「すぐ見つかったよ。」
シロクン  「まあ、ありふれた形の石だからな。」
 
 
          作業小屋。
 
シロクン  「ハニサ、今日搗く粘土はどれかな?」
ハニサ  「ひと固まりになってる囲い筒があるでしょう?
      その内の・・・待ってね。先に着替えるね。」
シロクン  「ハニサ!」
サチ  「お姉ちゃん!」
ハニサ  「なに? どうしたの? あ!」
シロクン  「ハニサ! これは!」
サチ  「お姉ちゃん! お腹が・・・」
ハニサ  「ここだけ光が渦巻いてる!
      ここにあたしの赤ちゃんがいるの?
      シロクンヌの子がいるんだよ!
      あたし、シロクンヌの子を、宿したのね?
      ここにいるんだよ。シロクンヌ! 触ってみて!」
 
    シロクンヌは、恐る恐る、光の渦に手を触れた。
 
シロクン  「聞こえる!
        語りかけて来ている!
        ハニサ! はっきりと聞こえるぞ!
        おれの子だ! おれの子が、ここにいる!」
ハニサ  「サチ! サチも触ってみて!」
サチ  「お姉ちゃん! 良かったね! 光の子だよ。
     父さん、この子が産まれたら、会いに来ようね!」
ハニサ  「サチ!」
 
    ハニサは、サチを抱きしめた。
 
サチ  「父さん! 会いに来よう! 
     だって、光の子は、父さんの子なんだよ!」
シロクン  「サチ!
        おれの子だ。はっきりと聞こえた。[ここにいるよ、父さん]と。
        ハニサ。会いに来るぞ! 
        おれはこの子と、そしてハニサに会いに来る!」
ハニサ  「シロクンヌ!」
 
    ハニサはシロクンヌに抱きついた。涙があふれ出た。
 
シロクン  「ハニサ、風邪をひくといけない。服を着ろ。
        ヌリホツマが居ないか、うるし小屋を見て来る。」
オジヌ  「どうしたの? シロクンヌ。」
シロクン  「オジヌ、いい所に来た。クズハはどこにいるか知っているか?」
オジヌ  「大屋根の下で今まで一緒だったよ。」
シロクン  「すぐ呼んで来てくれ。ハニサが宿したんだ。」
オジヌ  「ほんとかい、ハニサ。」
ハニサ  「うん。お腹に光の渦ができたの。」
オジヌ  「本当だ! 凄い光だ! 服の上からなのに、あんなに渦巻いてる!
      すぐ呼んで来る!」
シロクン  「待て。いっその事、おれ達の方から見せにいくか。
        ハニサ、光の子が宿ったのを、みんなに見てもらおう。その方がいい。」
ハニサ  「うん!」
オジヌ  「コノカミは大ムロヤにいたよ。」
シロクン  「オジヌ、ハニサが濡れんように菅着(すげぎレインコート)をはおらせて、
        大ムロヤに連れて行ってくれ。
        おれは、うるし小屋に寄ってから行く。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。