第130話 19日目④
夕食の広場。
ナジオ 「待ちに待った熊肉だ。
油煮という物を食べてみたかったんだ。」
ハギ 「おれは肉の中では熊肉が一番好きだな。」
ヤッホ 「アコが帰って来て良かったよ。
おれはアコのタレで食う熊が好きなんだ。」
カタグラ 「ぷるぷる煮をこんなに取り分けてくれたのだが、よかったのかな?
足は一つ、潰れておったのだろう?」
クマジイ 「足は潰れとりゃあせんぞ。やられておったのは足首じゃ。」
ヤッホ 「ヤシムはどうしたんだい? 今日はなんか艶(あで)やかだな。」
ヤシム 「似合う? サチがくれたんだよ。」
ムマヂカリ 「ヤシムはこうして見るといい女だよな。」
ハギ 「ヤシムは美人だよ。
酔っ払うと手に負えんがな。」
ヤシム 「私もまだまだ捨てたものじゃないでしょう?」
エミヌ 「ヤッホはヤシムにベタ惚れだったんでしょう?」
ヤシム 「私がヤッホに惚れてたんだよ。
年下で可愛かったもの。」
ヤッホ 「なに言ってるんだ。おれが惚れてたんじゃないか。」
ヤシム 「だっていつも私から誘ってたでしょう?
ヤッホはちっとも誘ってくれなかったじゃない。」
ヤッホ 「おれ、誘ってもよかったのか?」
ヤシム 「当たり前でしょう。何言ってるのよ。」
クズハ 「あなた、ガツガツして食べるから、ポロポロこぼれていますよ。」
テイトンポ 「このシジミグリッコの夢を見てな。
こうやってガツガツ食う夢だった。
アコのタレの熊肉と、このグリッコはよく合うぞ。」
アコ 「グリッコが配給されててよかったね。
向こうでもグリッコの心配ばっかりしてたんだよ。」
クズハ 「みんなから取り上げたんでしょう? カタグラが泣いていたわよ。
今日来た人達は、あなたの知り合いの方?」
テイトンポ 「シロクンヌの関係者だな。偶然一緒になった。
タカジョウが見当たらんが、来ておらんのか?」
アコ 「大ムロヤだと思うよ。
コノカミやさっきの人達と一緒なんじゃない?」
テイトンポ 「そうか。今夜はクズハと二人で過ごす。」
アコ 「言うと思った。分かったよ。
オジヌ、どうしたの? 何か用事? 一緒に食べる?」
クズハ 「こっちにいらっしゃいよ。」
大ムロヤ。
ササヒコ 「ミヤコからのお客となると、どうもてなせば良いものやら、見当もつきませんからな。
サチが熊を獲ってくれたおかげで、こうしてぷるぷる煮もお出しできる。」
カヤ 「いやコノカミ、突然訪れ初めてお会いしたのに、こんな場を設けていただいた。
それだけで感激しておるところです。
ところで、ハニサは光っておったのですか?」
夕食の広場。
ハギ 「シロクンヌのお客さんって、イエの人達なのか?」
ナジオ 「ミヤコの人達もいたよ。
四人いた内の二人はミヤコからの人みたいだ。」
ヤシム 「サチの関係の人じゃないの? サチはミヤコ育ちだから。」
ヤッホ 「サチは今日、キジバトを2羽、狩ったらしいよ。大したものだよな。
アニキとサチがいなくなると、寂しいよな。」
ヤシム 「私、寂しくて泣くと思う。想像するだけで、涙が出るもの。」
ムマヂカリ 「ハニサはどうなんだろうな?
祭りの時には、シロクンヌにすぐにも旅立てと言わんばかりであったが。」
エミヌ 「ハニサって、何もかもがシロクンヌでしょう?
初体験とか初恋もそうだって言ってたよね。
旅だって、シロクンヌが背負ったから、スワまで行けたんだもん。」
ムマヂカリ 「ハニサは元々綺麗だったが、シロクンヌと出会ってから、
人間離れするほど綺麗になっただろう?」
カタグラ 「女神だぞ。アユ村では男も女も、女神だと信じておるな。」
ヤシム 「私、ハニサは大丈夫な気がする。」
ヤッホ 「どういう事だ?」
ヤシム 「シロクンヌは時々帰って来るんでしょう?
それにお腹にシロクンヌの子がいるからね。
シロクンヌとはつながってるもの。目の前に居なくたって。
それに、シロクンヌの中で、女って二人しかいないのよ。
一人は娘としての、サチ。
もう一人は、女としての、ハニサね。」
テイトンポ 「丁度いい。おれはしばらく、スッポンに掛かりっきりになるからな。
シオラムと二人、アコが色々教えてやれ。」
アコ 「分かったよ。」
オジヌ 「ありがとう。アコ、よろしくね。」
テイトンポ 「オジヌ、靴を脱いでみろ。」
オジヌ 「え? うん。」
クズハ 「まあ! 何だか岩の様な足ね。」
テイトンポ 「オジヌ、そこでアコと背中合わせをやってみろ。」
オジヌ 「背中合わせ?」
テイトンポ 「背中合わせになって地面に尻を付いて座り脚は伸ばす。
その体勢で始めて、相手の両肩を先に地面に付けた方が勝ちだ。」