縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第129話 19日目③

 

 

 

          曲げ木工房。

 
アコ  「また大きな蚊遣りキノコだね! サチが採ったの?」
サチ  「私が見つけたの。」
アコ  「サチの半分くらいあるよ(笑)。」
ハニサ  「アコ、お帰り。日焼けしたね。」
アコ  「ハニサも日焼けしてるよ。
     光の子を宿したんだって? おめでとう。よかったね。」
ハニサ  「ありがとう。もう誰かに聞いたの?」
アコ  「何言ってるの、シカ村は、もうその話題で持ちきりだよ。」
シロクン  「ハハハ。タマの言う通りだ。伝わるのが速い。
        ホコラとやらが、そっちに行ったのか?」
アコ  「ホコラ? ホコラは見かけなかったよ。
     シカ村とこことは、何やかやと行き来があるからね。
     狩り場も重なってるし。」
シロクン  「なるほどな。ところでテイトンポは?」
アコ  「そうだ! 昼に道中でシロクンヌのお客さんと一緒になったよ。
     マシベとトモって人。
     あと、ミヤコの人が二人。
     テイトンポは大ムロヤにその人達といると思う。
     三人ですぐに行って。」
ハニサ  「あたしも?」
アコ  「そう。テイトンポはハニサとサチと三人でって言ってたよ。」
シロクン 「分かった。スッポンは獲れたのか?」
アコ  「今、あの池に10匹いる。」
 
 
          村の入口への上り坂。
 
シロクン  「トモとマシベはイエの者だ。何かあったのかな。」
ハニサ  「ヲウミから来たの?」
シロクン  「いや、二人共フジの向こうだ。おれが次に行くと言っていた所だ。」
ハニサ  「ミヤコから人が訪ねて来るなんて、ウルシ村では初めてじゃないかな?
      サチの関係かも知れないね。」
サチ  「父さん、私、先にヤシムに髪飾りを渡して来てもいい?」
シロクン  「いいぞ。すぐ戻って来いよ。」
サチ  「はい。」走って行った。
 
 
          大ムロヤ。
 
    シロクンヌとハニサとサチが入って行くと、テイトンポと4人の客が待っていた。
 
トモ  「クンヌ、お久しぶり。元気そうですな。
     道中、テイトンポに出会いまして、案内をしてもらいました。」
マシベ  「突然押しかけまして、驚かれたことでしょうが、ご容赦を。
      我が里に、ミヤコからアマカミの御使者がやって来まして、
      クンヌに直接会って話したいと言われるので我々でお連れしました。」
シラク  「クンヌ、お目にかかるのは初めてですな。
      ミヤコでシロのムロヤを仕切るシラクと申します。
      こちらがアマカミからの御使者のカヤです。」
カヤ  「シロクンヌ、話には聞いていたが、堂々たる若者。
     シロのイエのクンヌは先代も立派であったが、当代も引けを取らんな。
     マシベやトモの言う通りの御仁だ。」
シロクン  「遠い所まで足を運んでいただき・・・」
カヤ  「いやシロクンヌ、硬い挨拶は抜きで行こう。
     さっきテイトンポから聞いて驚きの連続でな。
     早くアヤクンヌの横の美人を紹介してくれんか。
     ハニサなのだろう?」
 
カヤ  「シラク、こんな器、見たことあるか?」
シラク  「いや、無い。抜きん出て素晴らしい。ミヤコにも、北の島にも無いな。」
カヤ  「ハニサ、今夜シロクンヌに大事な話をする。それはハニサにも関係のあることだ。
     それにアヤクンヌ。ここではサチと呼べばよいのだな?
     サチとハニサにも話に加わってほしい。
     タカジョウも交えて、おれとシラク、その6人で話したいのだ。
     ハニサのムロヤを使わせてはもらえぬか?」
ハニサ  「いいよ。でもあたしも関係あるって、どんな事なの?」
カヤ  「話し始めると最後まで話さねばならん。
     だから今夜まで待ってくれぬか。」
ハニサ  「分かった。今はタカジョウが居ないしね。」
カヤ  「テイトンポ。さっきから難しい顔をして黙っておるが、後でおぬしにも頼みがある。」
テイトンポ  「うん。いや、スッポンがどうなっておるかが心配でな。
        おれは、もう行っていいか?」
カヤ  「それは気が付かんで悪かった。
     まだクズハの顔も見ておらんのだったな。
     色々と案内を有難う。それではご苦労様。」
テイトンポ  「シロクンヌ、シジミグリッコの配給はあったか?」
シロクン  「忘れておらんのだな。あったぞ。クズハが受け取った。」
カヤ  「さっきコノカミに会って挨拶したのだが、
     おれがアマカミの遣いだということは伏せてある。
     隠す必要は無いが、いらん気を遣わせては悪いからな。
     ところでサチだが、おぬしの子の一人と娶(めあ)わせるというのは間違いないか?」
シロクン  「間違いない。おれもまだ息子には会っておらんのだが、
        三人おれば一人くらいは物になりそうなのもおるだろうから、
        その者と娶わせるつもりだ。」
マシベ  「クンヌは御存知無いだろうが、三人共に立派ですぞ。並の9歳ではござらん。」
シロクン  「そうか。まあいい。サチが好きなのを選べばいい。」
カヤ  「ハハハ。サチは買われておるな。
     こんな大きな熊を捕まえるくらいだからな。」
シロクン  「キジバトも、2羽狩ったな?」
サチ  「はい。」
カヤ  「それは頼もしい。ではサチを娶った者は、アヤのイエに入るのだな?」
シロクン  「当然、そうなるな。何か問題でもあるか?」
カヤ  「問題などあるもんか。その逆だ。
     サチがいて、シロクンヌの子がおれば、アヤのイエは安泰だ。」
シラク  「こっちでは皆が眼木というのを掛けておって驚いたのだが、
      サチ、持っておったら掛けてもらえんか?」
サチ  「はい。持っています。」
 
    サチは、真っ赤なカエデの葉を付けた眼木をかけた。
    四人は驚きの声を上げた。
 
シラク  「まるで別人だ!」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。