第127話 19日目①
朝の広場。
ハニサ 「いい天気になって良かった! サチ、風邪引かなかった?」
サチ 「おはよう。全然平気だよ。」
シロクンヌ 「サチ、ハニサが宿したお祝いに、今日は岩の温泉に行くぞ。
サチも一緒だ。」
サチ 「3人で? 私も行っていいの?」
シロクンヌ 「そうだ。3人で行くぞ。ハニサは背負子だが、サチは走るんだ。
落とし穴の水場まで休憩無しだ。できるか?」
サチ 「はい!」
カタグラ 「おはよう。どうした?サチ、嬉しそうな顔をしておるが。」
サチ 「岩の温泉に行くの。父さんと、お姉ちゃんとで。」
カタグラ 「ほう、3人で温泉か。スワに来た時みたいだな。」
タマ 「カタグラ、今夜はサチの熊をやるからね。食べにおいでな。
テイトンポとアコも、今日には帰って来るだろうからね。
タカジョウを見かけないが・・・」
カタグラ 「シップウの世話だ。ちょっと山に行くと言っておった。」
タマ 「それなら、寝袋は今夜には渡せると伝えておくれよ。」
カタグラ 「分かった。では遠慮なく熊を頂くとするか。油煮か?」
タマ 「油煮とアコのタレと、熊汁。足はぷるぷる煮。
大きな足だからね、もう煮始めてるよ。」
カタグラ 「ぷるぷる煮とは豪勢だな。サチ、ご馳走になるぞ。」
サチ 「うん。」照れている。
ハニサ 「ねえ、カタグラって、基地からだと、どっちに帰っても同じ時間でしょう?
もうこっちに住んじゃいなよ。」
カタグラ 「そうなんだ。ナクモが居るからこっちに来たいんだが、迷惑ではなかろうか?」
ササヒコ 「聞こえたぞ。何を言っておる。こっちでは誰も迷惑しやせんだろう。
大ムロヤなら好きに使えばいい。」
カタグラ 「そうか、コノカミ、ではお言葉に甘えてたびたび世話のなると思う。
カモなど射て、持って来るぞ。」
ハニサ 「昨日はどこに泊まったの?」
カタグラ 「ハギのムロヤだ。タカジョウとナジオとな。」
ハニサ 「ナジオは?」
カタグラ 「タカジョウについて行った。
あいつ、熊肉を食うのを楽しみにしておったから、喜ぶだろうな。」
落とし穴の水場。
サチは一人、湧き水を頭からかぶって、汗を洗い流している。
ハニサ 「サチはずっと、走りながらカブテを投げてたね。」
シロクンヌ 「ああ、大したものだ。前に投げては拾い、また投げては拾い。
それだけかと思っていたら、横にも投げたからな。
おれの倍くらいの距離を走っているぞ。」
ハニサ 「あの崖の所に熊が逆さ吊りになってたの?」
シロクンヌ 「そうだ。上の樹の根本が落とし穴だ。」
ハニサ 「あ! サチが樹に登ってる!」
シロクンヌ 「カラミツブテが、枝に絡んだのだな。」
ハニサ 「でも、首に掛けてるのは、なに?」
シロクンヌ 「カブテだ・・・何かを採っているのか。」
ハニサ 「綺麗ねー! 頭に載せるんだね。サチ、ありがとう!
シロクンヌ、どう?」
シロクンヌ 「似合ってる!」
サチ 「お姉ちゃん、綺麗!
野ブドウを見つけたから、お祝いに作ったの。
光りの子のお母さんになるお祝い。虹の髪飾りだよ。」
ハニサ 「サチ!」
シロクンヌ 「こうして見ると、ハニサは本当に綺麗だな!」
ハニサ 「もう! シロクンヌ! あたし、ふわふわしちゃうでしょ!」
虹の髪飾り・・・
黄、黄緑、緑、青緑、青、青紫、紫・・・
野ブドウは、秋にさまざまな色の実をつける。
その実を、綺麗なグラデーションを描くように数珠つなぎにした王冠型の髪飾り。
ただし、長持ちはしない。
ハニサ 「その落ち葉は、何に使うの?」
サチ 「折り葉だよ。こうしてね・・・
・・・はい、すずめ。」
ハニサ 「そっくり! 上手ねー! 他にもできるの?」
サチ 「こうやって・・・
・・・・・はい、イノシシ。帰って、タホに作ってあげるの。」
ハニサ 「おもしろーい! 今度、折り方を教えてね。」
シロクンヌ 「上手だな。サチは器用なんだな。
帰りもここで休憩するから、その時にまた落ち葉を拾えばいい。」
サチ 「そうだ、父さん、あっちに大きな蚊遣りキノコ
(サルノコシカケの一種。食べられない。)が生えてたよ。」
シロクンヌ 「どこだ?」
ハニサ 「ほんとだ! おっきいね!」
シロクンヌ 「よく見つけたなあ。今まで、誰も気付かなかったんだな。」
サチ 「樹の上から見つけたの。」
シロクンヌ 「よし、これは帰りに採って行こう。サチのお手柄だ。」
ハニサ 「蚊遣りキノコって、塩のお礼にもなるんだよ。」
シロクンヌ 「ああ、シオ村の辺りには、生えていないだろうな。
似た物ならあるだろうが。
これも、タビンドの七つ道具の一つなんだぞ。
今だってほら、こうして持ち歩いている。
これは小さいが、ハニサのムロヤに置いてある袋の中には、大きいのが入っている。
あれも一度袋から出して、再乾燥させなきゃな。」
ハニサ 「旅でも使うんだ。虫よけ?」
シロクンヌ 「夏はそうだな。なんせ火持ちがいいからな。
枝の先を少し割いて、そこにこれを挟んで火を点けるだろう。
ムロヤで使うならその枝を炉の所に刺すよな?
旅ではそれを、吊り寝(ハンモック)からぶら下げるんだ。
あとは火口(ほくち)として使ったりもする。
乾燥させなきゃ煙が少ないから、
山で手に入れてもすぐには役に立たないないだろう。
だから乾燥させた物を、こうして持ち歩いている。
さあ、ここからは、ハニサも少し歩くか。
サチはカブテで鳥や獣を狙ってみろ。失敗してもいいからな。」