第133話 20日目①
朝の広場。
サチ 「おはよう。お姉ちゃん、なんだか嬉しそうだね。」
ハニサ 「シロクンヌがね、一緒に暮らしてくれるって!」
サチ 「ほんと! 良かったね!」
タカジョウ 「シロクンヌ、おれは妹の引っ越しの付き添いで、
今から黒切りの里に向かわねばならん。
次に会えるのは、早くて6日後くらいになりそうだ。
その時に一度ゆっくり話がしたい。」
シロクンヌ 「分かった。それはおれも同じ気持ちだ。
次に会うのを楽しみにしているよ。」
タカジョウ 「うん。ハニサ、身代わり人形を作って行くからな。」
ハニサ 「ありがとう。気をつけて行って来てね。」
アコ 「あたしも一緒に作って来るよ。
あ! 大事な事を忘れてた!
テイトンポがね、眼木をあるだけ全部、黒切りの里に持って行けって。
絶対、喜ばれるからって。工房に用意してあるの。」
タカジョウ 「眼木を?・・・そうか! 絶対喜ばれるな!」
ハニサ 「何か特別な事でもあるの?」
シロクンヌ 「眼や顔の保護だな?」
タカジョウ 「うん。黒切りは、割ると破片が飛び散るんだ。
細かい破片が、知らぬうちに刺さっている。
それで眼をやられる鉱夫もいるくらいだ。」
シロクンヌ 「竹皮に細い切り込みを入れて覗き穴にして、それを眼木に付ければどうだ?」
タカジョウ 「いいな! アコ、ありがとう! 持って行くよ。」
シロクンヌ 「コノカミ、言っておかねば後で恨まれてもいかん。
カヤは、アマカミの使者として、ここに来たのだ。」
ササヒコ 「それは本当か!
凄いヒスイをしておったから、その辺の所を聞いたのだが、けむに巻かれてしまってな。
いや、よく知らせてくれた。」
シロクンヌ 「そして、その事で相談があるのだ。
カヤ達を見送ったあとに・・・」
祈りの丘。サルスベリの樹の近く。
サチはクズハから草履をもらい、ハシャギまわっている。
シロクンヌ、ハニサ、ササヒコ、テイトンポ、クズハ、ヌリホツマが御座に座っている。
周りにひと気はない。
大ムロヤは身代わり人形の制作で人の出入りが多いので、ササヒコの発案でこの場が選ばれた。
サチ 「父さん、この草履、凄く履きやすいよ。
私、こんなに履きやすい草履って、初めて!」
シロクンヌ 「よかったな(笑)。ん?
テイトンポも、こないだとは違う草履を履いているのか。」
クズハ 「この人ね、私が誰かに草履を編んでいると、おれにも作れってうるさいの。
サチには同じのを、あと2足編んであげるわね。」
サチ 「ありがとう!」嬉しそうだ。
シロクンヌ 「テイトンポは、変な所でヤキモチやくんだな(笑)。」
ササヒコ 「ワハハ、よいではないか、仲が良くて。」
テイトンポ 「光の子は、アマテルというのか。
いい名だ。」照れくさそうだ。
クズハ 「ハニサ、良かったわね。シロクンヌと暮らせる事になって。」
ハニサ 「うん。」涙ぐんでいる。
ササヒコ 「しかし、何とも誉れ高い事になったもんだな。
我が村からアマカミを出すとは、夢にも思っておらんかった。」
ヌリホツマ 「まったくじゃ。
シロクンヌの周りで起こる事は、わしの予見を超えておる。」
クズハ 「アマカミになったら、シロクンヌとはお話しできなくなってしまうの?」
シロクンヌ 「そんな事は無い。
そこは今まで通りだと思ってもらっていい。
アマカミとなった後どうするかは、おれが決めていいのだが、
おれは今まで通りでいようと思っている。
違ってくるのは八つのイエに対する発言だな。
しかしおれは他のイエの事をよく知らんし、これから学ばねばならん。
サチが当面の先生だ(笑)。」
サチ 「今のアマカミはカゼのイエの御出身で、カゼのイエはシロのイエとは違って、
武には優れている訳では無いの。
だから用心のために、姿を隠しておられるんだと聞いた事があるけど、
父さんは強いから。」
ササヒコ 「なるほどな。それでミヤコとなった場合だが、ここはどう変わるのだ?」
シロクンヌ 「サチの見立ては?」
サチ 「おそらく各イエが、ムロヤを持ちたがると思う。
父さん、アヤのイエはミヤコ住まいなの。
小さいイエだから、里も持っていなくて、
今はと言えば、私以外のイエの者全員がミヤコに住んでいて、ムロヤは六つ。
今のミヤコに何人か残ったとしても、アヤのイエだけで四つのムロヤは必要で、
イエの関係のムロヤの総数は、15くらいになるかも知れない。
あとはミヤコに住みたいと希望する人達だけど・・・
おそらくだけど、光の子の話が伝われば、希望者はとっても多いと思うよ。
受け入れなければ済むかもしれないけど、
それを知らずにいっぱい来たら混乱するかも知れない。」
シロクンヌ 「そうか。ここではイエのムロヤさえ作る場所が無いな。」
サチ 「今ミヤコになっている所は、何百年も前から計画的に開発して来た所だから、
500人くらいが住んでいられるのだけど、食べ物は獣よりも海の魚が多いの。
魚はいっぱいいるから、たくさん舟を出せば、その分たくさん獲れるから。
たくさんの舟で網をつなげてでしか獲れない魚もいるし。
栗林も、永い年月をかけて計画的に作ったから、人数分が賄えるんだよ。」
ササヒコ 「カヤに聞いたが、村の中にもクリの木があるのか?」
サチ 「クリ林の中に、ムロヤがあるの。村の周りは、海かクリ林なの。」
ササヒコ 「カヤの言う通りなんだな・・・」
ヌリホツマ 「凄いのう。神坐祭りも盛大なんじゃろうな。」
シロクンヌ 「盛大らしいぞ(笑)。」
テイトンポ 「ハタレの乱の制圧の時、アマカミは、ミヤコから動いてはおらんかったはずだ。
少なくとも表向きはな。
しかしシロクンヌ、おまえなら先頭に立つだろう?
その時、今のミヤコでは話にならん。
ここか、ここより西にミヤコが無ければな。」
シロクンヌ 「うん。だがハニサとアマテルの事を思うと、ここから近い所がいいのだが。」
クズハ 「それなら、分散させるしか無いんじゃない?
コノカミ、以前話題に上った事があったわよね。
ここより上(かみ)にいくつ村を作れるかって。」