第134話 20日目②
祈りの丘。サルスベリの樹の近く。続き。
ササヒコ 「なるほど! そういう事か。
一ヶ所に固まって何百人も住めるようにするのは無理でも、小さな丘ならたくさんある。
ここから半日くらいの距離で、村が作れそうな丘はいくつかあるな。
雨の後に穴を掘って、水が湧く場所ではムロヤはできん。
しかし湧き水か、川が近くになければ不自由だ。
それらの条件を満たしそうな場所はいくつかある。
その気になって探せば、かなりあるはずだ。」
シロクンヌ 「狩り場はどうだ?」
ササヒコ 「川魚は問題無かろうな。鳥も問題ない。
シカ、イノシシは、狩り過ぎると根絶やしになるが・・・」
ヌリホツマ 「畑を作ればよかろう、オオ豆などの。」
クズハ 「そうよ。オオ豆、ソバ、ヒエ、ウリ・・・
特にオオ豆なんて、いっぱい作っちゃえばいいのよ。
日持ちするんだから。」
シロクンヌ 「サチ、ミヤコに畑はあるのか?」
サチ 「あるけど、少し離れてる。
ヒョウタンとゴボウ、それからアズキはいっぱい作ってる。」
ササヒコ 「やはり、ここらの物とは違うのだな。
とにかく、丘の上に村、その下に畑を作れば、食うには困らんか。」
ヌリホツマ 「つまりは、ミヤコと言うよりも、ミヤコ圏とでも言ったものじゃな。
サチが言うように、何百人もが一ヶ所に住もうと思えば永い年月が必要じゃろうが、
50人の村であれば数年でできる。」
テイトンポ 「しかし誰かがその丘を開拓せねばならんが、それはどうする?」
サチ 「おじちゃん、それはアヤのイエの者がやるよ。
ハニのイエと協力しながら。
アヤのイエはそういうイエなの。
ミヤコの整備が役目の一つだから。」
テイトンポ 「そうなのか! よくできたもんだなあ。」
シロクンヌ 「ハニのイエと言うのもあるのか?」
サチ 「イエは他に、ウツホのイエ、ヒのイエ、ミズのイエがあるの。
カヤはウツホのイエの人で、アマカミの補佐をするのが役目なの。」
ハニサ 「アマカミとカヤは、別のイエなんだ。
ハニのイエはどんなイエ?」
サチ 「土木とか樹とかに詳しいの。
海の向こうから、竹を取って来たのもハニのイエの人達。
ミズのイエの人が、舟を出したの。」
テイトンポ 「竹を取って来たとは?」
サチ 「竹林ってミヤコには無いから、私、こっちで初めて見たんだけど、
竹はもともと、トコヨクニには生えてなかったの。」
ヌリホツマ 「本当か!」
シロクンヌ 「驚いたな・・・西に行けば、竹林だらけだぞ。」
サチ 「竹だけじゃないよ。
エゴマや麻だって、ハニのイエの人が海の向こうに取りに行ったんだよ。」
ハニサ 「えー! もともと生えていたんじゃないんだ。」
ササヒコ 「そうだったのか!」
シロクンヌ 「驚きの連続だな・・・
ミヤコの話に戻すと、あとは塩か。塩の渡りをどうするか?だな。」
ササヒコ 「ふむ・・・シオラムに聞いてみるか。」
シロクンヌ 「サチ、シオラムを呼んで来てくれ。
今までの事を説明しながらな。」
サチ 「はい。」走って行った。
テイトンポ 「ではミヤコの件は少し置くとして、もう一つの問題はハニサの護りだ。
シロクンヌはどう考えている?」
ハニサ 「あたし、危ないの?」
シロクンヌ 「光の子をアマカミにしたくない奴等はいる。ハタレだ。
それに光の子を宿しているのが美人だとなれば、ハニサを連れ去って、
寄ってたかって犯そうと考えるだろうな。」
ハニサ 「えー! 嫌だ!」
シロクンヌ 「だから、そうさせん様に備えておく。
おれがいる時はいいが、旅立った後、どうするかだな。
さっきトモとマシベに尋ねたら、シロの里にイナという女がおるそうだ。
歳は30でなかなかの使い手らしいから、ハニサのムロヤに住まわせようと思う。」
ササヒコ 「子はおらんのか?」
シロクンヌ 「12歳の息子と二人住まいらしいが、ちょうど男ムロヤの話が出ておるそうだ。」
ササヒコ 「そのイナが来たとして、それだけでは足りんだろう?」
テイトンポ 「昼間はオジヌが適任かも知れん。
アコから聞いたが、以前、マツタケ山でハニサを護ったそうだな?」
シロクンヌ 「オジヌに会ったのか?」
テイトンポ 「昨日、アコと背中合わせをやらせてみた。
何度もアコに子供扱いされて泣いておったが、あれは物になるぞ。」
ハニサ 「アコってそんなに強いの?」
テイトンポ 「それを訓練した者と、しておらん者との違いだ。
オジヌが訓練すれば、すぐにアコに勝つ。
ハニサは昼は作業小屋だろう? オジヌもそこで木工をする。」
ハニサ 「うん。オジヌなら安心。」
シロクンヌ 「ハニサ、おれはミヤコへの出立を早めようと思っている。
その分、早く戻って来られるからな。いいだろう?」
ハニサ 「その方がいいよ。サチやタカジョウの事もあるし。」
ササヒコ 「いつ出立の腹積もりだ?」
シロクンヌ 「そうだな・・・
ハニサの護りの準備もあるし・・・
一月後だな。」
テイトンポ 「なら一月の間、オジヌに特別に訓練を施してやるか。」
シロクンヌ 「頼む。」
ヌリホツマ 「一月後なら、頼まれておった物も、どうにかこうにか間に合いそうじゃ。」
シロクンヌ 「試作の櫛は見事だったな。」
ササヒコ 「あれはカヤが驚いておったぞ。
ミヤコにも無いそうだ。
おかげで、アマカミへいい献上品になった。」
クズハ 「それは、なんのお話?」
シロクンヌ 「前に話していた髪飾りだよ。ハニサへの贈り物。
その漆掛けを、ヌリホツマに頼んであるのさ。」
ヌリホツマ 「ただのウルシ掛けではないぞ。ヤコウ貝という・・・
ま、見てのお楽しみじゃな。」
ハニサ 「あれね! どんなになるか楽しみ!
あ! サチが帰って来た。」
シオラム 「凄い事になったな!」
ササヒコ 「そうなんだ。この辺り一帯、人が増えると思うが、
塩をどうするかということになってな。」
シオラム 「それは心配いらんぞ。ミヤコへの塩だろう?
アマカミが口にする塩なら作りたい・・・そう言う者が湧いて出るはずだ。
そいつらの食い扶持分くらいは、ミヤコの村々で余剰が出るだろう?
あとは塩渡りの道筋をつけるだけだ。」