第136話 20日目④
夜の広場。
焚火のそばには、シロクンヌ、ハニサ、トモ、マシベが御座に座っている。
近くでサチがカブテの練習をしているが、他にひと気は無い。
トモ 「まずはクンヌ、おめでとうございます。」
マシベ 「シロのイエからアマカミが出るのは、ヲウミのミヤコ以来ですな。」
シロクンヌ 「おれの次のアマカミは、ハニサに宿るアマテルだ。
ハニサもアマテルもイエには入らんが、
二人を護るのはシロのイエの最優先の仕事だ。
いいな?」
トモ 「承知しました。」
マシベ 「異存はありません。」
シロクンヌ 「おれは一月後にサチとタカジョウと共に、ミヤコに向かう。
この一ヶ月の間にハニサの護りを整えねばならん。
今、ハタレに大きな動きはあるのか?」
トモ 「ありません。ただ数は相当おりますな。
吸引力を持った統領が出ると、かなりうるさい事になりそうです。」
マシベ 「散らばりで見ますと、やはりここより西が多いようです。」
シロクンヌ 「イエの者から6人を選んで、この村から半日の場所に、一人ずつ住まわせてくれ。
ハグレを装ってな。期間は一年としようか。
村の周りで変な動きがあれば、すぐにテイトンポに知らせるんだ。」
マシベ 「その者達が、村人から怪しまれはしませんか?」
シロクンヌ 「何か印象に残る物・・・
そうだ、ウルシ村の旗、赤・黒・赤の。
その旗に似た物を身に付けさせればどうだ?
見た者は、おそらくテイトンポに報告するだろう。
そこでテイトンポがこんな風体ではなかったか?と聞くんだ。」
マシベ 「なるほど、そこで、村の旗みたいな何かを身に付けてなかったか?と聞くのですね。
身に付けていた、と答えたら、そいつは実は仲間なんだと打ち明けると。」
トモ 「いい作戦ですな。それで行きましょう。」
ハニサ 「なんか凄い話になってるけど、あたしってやっぱりそんなに危ないの?」
トモ 「護っていなければ、間違いなく襲われるでしょうな。」
マシベ 「アマカミの件は抜きにしたとしても、
美人が光の子を宿した、それだけで奴等には十分です。
無残な目にあった妊婦は何人もおりますよ。」
ハニサ 「無残な目ってどんな事されるの?」
シロクンヌ 「夢に出るぞ。聞かん方がいい。
人ならできん事をする連中だからな。」
ハニサ 「なんとなく、想像がつくけど・・・」
シロクンヌ 「あと、ハニサのムロヤに住まわすイナだが、どんな女なのだ?」
トモ 「綺麗な女ですよ。
30よりもっと下に見えます。
明るい性格で人気者です。
一年前にヲウミから移って来たものですから、それ以前の事は我々もよく知らんのです。
12歳の息子を男ムロヤに入れて、一人でこっちに来るのだな?」
トモ 「おそらくそうなるでしょう。
今まで男ムロヤが手狭だったのですが、ハグレ役でこっちに来る者で空きがでますから。
息子が色気づいて手を焼いていると、こぼしておるようですから(笑)。
イナはそういう開けっ広げな性格ですから、ハニサともすぐに打ち解けると思いますよ。」
ハニサ 「なんかいい人そうだね! 会うのが楽しみになって来た。」
シロクンヌ 「イナについては、心配無さそうだな。
あとはヲウミのおれの息子達だが、特に何も変わりは無いか?」
マシベ 「この春に会って来ました。
みな聡明ですぞ。
クンヌに会うのを楽しみにしておりました。
母親達もみな元気で、ヲウミについては、何の心配もいらん様に見受けました。」
シロクンヌ 「来年会いに行ってみようと思っている。
できればサチとタカジョウを連れてな。
ヲウミへの使者は誰になる?」
マシベ 「私です。
フジには戻らず、ここから真っ直ぐ行こうかと思っております。」
シロクンヌ 「父にタカジョウの件を伝えてくれ。
それからシロの村は、あまりにヒワの湖に近すぎる。
アヤの村を教訓として、引っ越しも視野に入れた話し合いが必要だ。
来年おれが戻ったら、その話もするつもりだ。
そう伝えてくれ。」
マシベ 「分りました。」
シロクンヌ 「二人共、明日出立だな?
出立前に、テイトンポと細かい打ち合わせをしていってくれ。」
トモ 「分りました。いやあこれで、ヲウミもフジも沸き立ちますぞ。」
シロクンヌ 「そうだな。サチ、話は終わった。こっちに来い。」
ハニサ 「汗びっしょりだよ。左手で練習してたの?」
サチ 「うん。左手は難しいね。」
シロクンヌ 「ハニサ、ムロヤで体を拭いてやってくれ。
おれは大ムロヤを覗いてくるよ。」