第138話 21日目①
曲げ木工房。
テイトンポ 「丁度増築を考えておった。
スッポンが軌道に乗ったらと思っておったが、
この際、踏ん切りをつけてやってしまうか。」
シロクンヌ 「増築すれば、ハニサは冬もここで器作りが出来そうか?」
テイトンポ 「そういう増築をすればいい。ハニサはどうだ?」
ハニサ 「うん。火があるから、いつでも焼けるし、ここがいい。
増築して壁ができれば、冬も暖かいよね。」
シロクンヌ 「では増築は、おれとサチでやるよ。
テイトンポが構想を練ってくれ。」
テイトンポ 「サラ、聞こえていただろう?
ヌリホツマに地の祓(はら)いを頼みたい。」
サラ 「早い方がいいんでしょう? 先生に聞いて来るね。」
テイトンポ 「頼む。
サラはおれのスッポンの先生だ。
おれは必ずスッポングリッコを世に出してみせる。」
シロクンヌ 「ワハハ、夢があっていいな!
で、こいつらはいつ食うんだ?」
テイトンポ 「馬鹿者! 浅慮(せんりょ)な奴め!
こいつらを食ってどうする。
食うのは、こいつらの子や孫からだ。繁殖させて、増やして食うんだろうが。」
事実この先、テイトンポ、サラ、アコのチームは、
人類で初めてスッポンの養殖に成功する事になる。
シロクンヌ 「お、トモとマシベだ。
テイトンポ、打ち合わせを頼む。」
テイトンポ 「そうだな。飛び石まで下りるか。」
シオラム 「この木曲げも、やりだすと面白いもんだな。
しかしアコは大したもんだ。うちのナジオと同年だろう?
あいつはフラフラしておって、歯がゆい時もあるが、
アコ、爪に垢はたまっておらんか?」
アコ 「アハハ、煎じて飲ますの? ナジオは今日はどこに行ったの?」
シオラム 「ハギと出かけた。基地作りが面白いらしい。
向こうにおる時は、アコの話をよくしておったんだぞ。」
アコ 「5年前は、よく一緒に遊んだからね。」
シオラム 「オジヌ、おまえ変な歩き方をしておるが、それにも意味があるのか?」
オジヌ 「今日はヒザを曲げてなきゃいけない日なんだ。」
シオラム 「アコもあれをやったのか?」
アコ 「やったよ。最初、あたしは半日で音(ね)を上げたけど、オジヌはもっと行けそうだね。」
オジヌ 「おれは夕方まで頑張る。
アコより強くなりたいんだ。
あれ? 母さんとクズハが来るよ。」
クズハ 「シオラム、慣れた手付きになったわね。うちの人は?」
シオラム 「アコ先生の教えのたまものだ。
テイトンポなら飛び石に行ったぞ。
ハニサの護りの打ち合わせだろう。
じきに戻って来るよ。」
エニ 「オジヌ、あなたギックリ腰やったね?」
シオラム 「ワハハハハ、そう見えるよな?」
オジヌ 「違うよ、訓練なんだ。母さんこそ何しに来たの?」
シオラム 「湯剥きすると、どうなるんだ?」
エニ 「白蔓って言って、それでカゴを編むとするでしょう?
すると軽いし、スベスベしてるから引っ掛かりにくいそうよ。」
クズハ 「それに虫やカビも付きにくいって言っていたわよ。
濡れてもすぐに乾くって。
水場で使うには良いそうよ。
シオ村にも無いんじゃない?」
シオラム 「無いだろうな。そんな話は初耳だから。
海で使えるかも知れん。そっちも学んで行くか。
ほら、戻って来たぞ。」
ハニサ 「やっぱりイエの人達の別れって、あっさりしてるんだね。
ちょっとそこまで出かけて来るぞって感じだった。」
シロクンヌ 「旅慣れた連中だからな。
ん? クズハとエニがいるという事は・・・
蔓の湯剥きか。
テイトンポは大忙しだな。」
サラ 「先生がね、場所が決まってるのなら、明日の朝一番でいいって。」
テイトンポ 「よし、場所は夕方までに決める。朝一でやってもらおう。」
オジヌ 「あれ? 今度はクマジイとカイヌが来た。」
クマジイ 「これを丸められんかい?」
テイトンポ 「薄い板だなあ。枌板(へぎいた)か?」
クマジイ 「ほうじゃ。ネズコの木で、わしがへいだんじゃよ。
まん丸の筒が出来んかと思うてな。
いろいろ試してみたいんじゃがな。」
テイトンポ 「ああいいぞ。アコとシオラムと相談しながらやってくれ。」
クマジイ 「すまんのう。カイヌ、板をぎょうさんへぐぞ。」
シロクンヌ 「テイトンポは人気者だな(笑)。
サチ、河原で石斧の石を作るぞ。
サチは小屋作りの知識はあるのか?」
サチ 「ミヤコの整備に必要な知識は一通り学んだの。
ここなら掘っ立て小屋でしょう?
掘っ立て小屋作りには3回参加したことがあるよ。」
ハニサ 「えー! サチってそんな事までできるの?
12歳の時のあたしと大違い!」
サチ 「この村の建物って、材木の交点はフジ蔓なんかで結わえてあるだけでしょう?
【渡りアゴ】を使えば、もっと頑丈になるよ。グラグラしないの。」
サチ 「2本が交差するでしょう? その交点を削り合うの。
噛み合わせがピッタリだと、もうそれだけでグラ付かない。
木を1本地面に寝かして、その上に1本交差させると、上のは地面から離れるでしょう?
お互いの交点を削って窪ませれば、上の木も、ピッタリ地面に付くよね?
そこまで深いアゴにしなくてもいいから、噛み合わせ良く削るのが大事なの。
私も出来るけど、力が無いから時間がかかるよ。
父さんがやれば、あっと言う間に出来ちゃうと思う。」
シロクンヌ 「驚いたな。小屋作りが楽しみになってきた。サチから色々学べそうだ。」
ハニサ 「ミヤコって進んでるんだ。そんなやり方、この辺では聞かないもの。
それにしても、サチってやっぱりアヤクンヌなんだねえ。」
━━━ 幕間 ━━━
これは、材木が出土した非常に珍しい事例です。材木は、残りにくい。
それからすると、それよりもずっと前から、渡りアゴや貫穴はあったのかも知れません。
弥生時代発祥と思われていた高床式建物が、縄文中期には間違いなく存在していました。
金属工具の無い時代に、縄文人は見事に木材加工を行っていたのです。