第140話 21日目③
夕食の広場。続き。
ナジオ 「湧き水平(わきみずだいら)で新発見!
帰り際だったのだが、何を見つけたと思う?」
シロクンヌ 「見晴らし岩の下の湧き水の場所だな?
湧き水平って名付けた訳だな。」
ヤッホ 「確か、ミズナラの林だと言っていただろう? リスの巣か?」
ハギ 「リスの巣も有るには有るが、答えはそれじゃない。」
カタグラ 「でも、ある意味、いい線を突いておるな。」
ヤシム 「ミズナラなら、キノコ樹じゃない?
マイタケなんかがわんさか生える樹。」
ハギ 「キノコ樹なら見つけてあるんだ。それも2本。
大きなマイタケやヒラタケもびっしりと生えてる。
だけどキノコは鮮度が命だからな。
タマから指示が出たら、採って来ることになってるんだ。」
オジヌ 「おれは、最初に聞いた時、温泉だと思った。」
カタグラ 「おお! それもいい線だな。」
エミヌ 「カタグラ、いい加減! リスの巣と温泉じゃあ、全然違うじゃない。」
ナジオ 「いい加減でも無いぞ。」
サチ 「じゃあ、洞窟?」
ナジオ 「大正解!」
ハニサ 「サチ、凄いね! よく分かったね!」
エミヌ 「リスの巣って、形が似てるって事?」
カタグラ 「そうだ。」
テイトンポ 「大きいのか?」
ハギ 「帰り際だったんで、ほとんど調査できていない。
でも大きいと言っていいと思うよ。」
ナジオ 「おれ達三人で、樹を伐って運んでいたんだ。
そこでおれが躓(つまづ)いて、丸太が崖の斜面にぶつかった。
その時ちょっとした崖崩れみたいになったんだが、その場では気付かなかった。
帰り際にそこを通ったら、崖に隙間が出来ていたんだ。」
ハギ 「試しに隙間の所を掘ってみたら、さくさく掘れて、
人一人が、屈(かが)んで通れるくらいまでは、すぐに掘れた。
半回し(35センチ)くらいの土の厚みがあって、その向こうは真っ暗で何も見えない。
入ってみたら、中は広い洞窟になってた。」
ハニサ 「兄さん、奥はどれくらいまであるの?」
ハギ 「それはまだ分からない。
まだ中で火を焚いていないから、高さも広さも分かってない。」
テイトンポ 「洞窟の地面は、平なのか?」
ハギ 「入口付近は平だ。
おそらく奥も平だと思うが、何かあると怖いから、あまり奥までは行かなかった。」
テイトンポ 「おう、それでいい。地面に亀裂が有ったりしたら大変だ。」
シロクンヌ 「今の見立てでは、どうなんだ?
それは自然の物なのか、人が作ったものなのか?」
カタグラ 「それを話しながら帰って来たんだが、
おそらく、自然の物に、人の手が加えられているな。
地面が平なのは、だれかがそれをしたのだと思うぞ。」
サラ 「生き物は何かいた? 例えばコウモリとか。」
ハギ 「何も確認できていない。たぶん、コウモリはいないんじゃないかな。」
サチ 「変な臭いはしなかった?」
ハギ 「臭いは気にならなかった。ただ、中は寒かった。」
ナジオ 「あと、水の音がしただろう? したたり落ちる音だ。」
カタグラ 「そうだった! あれは湧き水の方角だったから、何か関係があるのだろうな。」
ハギ 「要するに、もしこの洞窟がこっちの希望に沿う物なら、
天然の大ムロヤを手に入れたかも知れないって事なんだ。」
テイトンポ 「なるほど、話は分かった。その可能性は高いだろうな。
小屋はもう、建て始めておるのか?」
ハギ 「いや実は、場所の選定で意見が分かれていて、まだ着工はしていない。
材料は、もうかなり集まったよな?」
カタグラ 「おう。だからその材料で、予定通り小屋を作るべきか、
それとも洞窟内の造作に使うべきかの判断をしてもらいたいのだ。
タカジョウが居れば、おれ達だけで決めたのだが、今居ないからな。」
ヤッホ 「分かった。そういう事ならまかせてくれ。
まずは洞窟探検からだな。
アニキ、明日探検に行こうぜ。」
アコ 「何でヤッホが請け負うのよ。」
ヤッホ 「ここはおれが、一肌脱ぐ場面だろう?」
シロクンヌ 「ハハハ、ヤッホからの達っての頼みとあればしょうがない。
テイトンポ、工房の増築は明後日からでもいいか?」
テイトンポ 「ああ良いぞ。明日はお祓いをして、マムシ酒で清めておく。
オジヌ、おまえも行って来い。」
オジヌ 「やったー! おれ、行きたかったんだ!」
エミヌ 「私も行く! いいでしょう?」
サラ 「私も行きたい! 先生に聞いて来る!」
エミヌ 「ナクモも行こうよ。」
ナクモ 「うん、そこからスワが見えるんでしょう? カタグラの村も見えるんだよね?」
カタグラ 「ああ、見えるぞ。」泣きそうになっている。
シロクンヌ 「ハニサはどうするんだ?」
ハニサ 「あたしは工房で器を作ってるよ。アマテルに何かあるといけないから。」
サラ 「先生が、行っていいって。ロウソクもくれるって。」
ムマヂカリ 「長い縄はあっちにあるのか?」
ハギ 「長いのは無い。どうせ要る物だから、明日持って行くか。」
シロクンヌ 「よし! 明日は早めの出発とするか。
念のために、背負子を二つ持って行こう。」