第141話 22日目①
早朝の広場。
ハニサ 「いい天気になって良かったね。
サチ、あまり無理しちゃ駄目だよ。」
サチ 「はい。お姉ちゃんにお土産もってくるね。」
シロクンヌ 「洞窟の入口を広めに開けたとして、帰りには何かで塞いで来たいが、
そういう物は向こうにあるんだろう?」
ハギ 「萱(かや)はいっぱい刈ってあるし、篠竹や細い丸太もかなりある。
シナノキから一本剥(む)きした皮もあるから、どうとでも出来ると思うよ。」
カタグラ 「木の皮は他に、白樺と桜が何枚か大きいのがあるぞ。
黒切りは、こぶし大の原石が四つある。
あと、鹿皮と鹿の角なんかもある。石の道具はけっこう有るぞ。」
エミヌ 「母さんがカゴをいっぱいくれるって言うんだけど、持って行こうか?」
ハギ 「そうだな。カゴはもっと欲しいと思ってた。」
サラ 「先生がロウソクの他に、塗り薬とお茶をくれたよ。基地に置いておけって。」
ハニサ 「兄さん、あたしの器を持って行ってね。」
ムマヂカリ 「薪は持っていくか?」
ハギ 「そうだな。煙を出したくないから乾いたクヌギの薪を持って行こう。」
途中で粘土を採れば、明り壺ができる。」
シロクンヌ 「ハニサと夜なべした手火もたくさん持ったし、大体準備は整ったな。
途中、休憩しながら行こう。
ナクモとエミヌとサラを順番に背負子に乗せてやろうか?」
エミヌ 「やったー! 私、それに乗ってみたかったの。」
シロクンヌ 「まずはナクモからだ。遠慮はいらんぞ。ほい、腰掛けてくれ。
ではハニサ、行ってくるぞ。」
ハニサ 「行ってらっしゃい。お話、聞かせてね。」
道中。
サラ 「ムマヂカリ、イボガエルを捕まえたよ。」
ムマヂカリ 「どれ、見せてくれ。こいつは上物だ。さすがサラだな。」
ナジオ 「うわっ! そんな物、どうするんだ?」
ムマヂカリ 「こいつの皮で、シカ笛を作るんだ。
見つけようと思っても、なかなかいないんだぞ。」
ナジオ 「えー! これで作るのか!」
サラ 「この辺、地バチが多いね。絶対に巣があるよ。
赤ガエルも捕まえたから、バラして吊り下げておこう。」
ナジオ 「なんのために?」
サラ 「地バチが食べに来るかを見ておきたいの。
赤ガエルは地バチの大好物なんだよ。」
カタグラ 「ムマヂカリ、帰りにあの辺りでシカ笛を吹いてくれ。」
ムマヂカリ 「なるほど! あそこは出そうだな。」
シロクンヌ 「カタグラはうるし弓が様になっているな。」
ハギ 「だろう? 実際、いい腕してるんだ。」
エミヌ 「あれ? あそこにいるのって、クマジイとカイヌじゃない?」
オジヌ 「ほんとだ! カイヌはクマジイと流木取りの約束をしてたから、きっとそれだよ。」
エミヌ 「もういくつか拾ってるじゃない。あの人達、どんだけ朝早くに出発したのよ。」
シロクンヌ 「ハハハ、まったくだよな。
クマジイの脚でここまで来るのを考えたら、
いろり屋が開く前に出ておるかも知れんぞ。
よし、あそこで休憩するか。」
クマジイ 「洞窟じゃと? 見晴らし岩の下か? 本当にあったんじゃな!」
ハギ 「なんだクマジイ、なにか知っているのか?」
クマジイ 「そこに洞窟があるという言い伝えを聞いた事があってのう・・・」
カタグラ 「やっぱり、昔から知られていたんだな?」
クマジイ 「山師の間に伝わる言い伝えでの、タカジョウも知っておるはずじゃ。」
シロクンヌ 「黒切りの里の山師か?」
クマジイ 「そうじゃ。ヌリホツマの兄さんじゃよ。」
ハギ 「なんだって! そんなの初耳だぞ!」
クマジイ 「あんまり知られておらんじゃろうな。ばーさん、自分の話はしやせんから。」
サラ 「でも先生は、洞窟の言い伝えなんか知らなかったみたいだよ。」
クマジイ 「ああ・・・ヌリホツマはこの話は聞いておらんじゃろうな。
山師は男にしか、伝えんのじゃ。」
シロクンヌ 「タカジョウの妹の面倒を見たというのは、ヌリホツマの兄さんなのか?」
クマジイ 「それはわしもよう知らん。もう10年以上会っておらんからの。」
ムマヂカリ 「何か曰く付きの言い伝えなのか?」
クマジイ 「お宝の隠し場所だったそうじゃ。」
ヤッホ 「お宝って何だい?」
クマジイ 「わしはそれしか聞いておらんのじゃ
わしも行きたいがのう・・・
今日は昼から漆掻きをする約束になっておって、残念じゃ。
カイヌは行って来たらええ。」
カイヌ 「何で? 僕もクマジイと一緒に漆掻きをする約束だったでしょう。
僕はクマジイと一緒にいるよ。」
オジヌ 「カイヌはクマジイが大好きだからな。」
シロクンヌ 「夕食の広場で報告するよ。夜宴にはクマジイも来るんだ。カイヌも来ればいい。」
エミヌ 「サチがまたウサギを獲ったよ。」
ムマヂカリ 「サチのカブテを初めて見たが、かなり山なりの落とし獲りだな。」
ヤッホ 「だろう? だから矢が通らない所のものも獲れるし、身を隠しても投げられる。」
ムマジカリ 「シロクンヌはこんな高度な技から教えるんだなあ。感心するよ。」
シロクンヌ 「おれはそんなの、教えておらんぞ。
おれが教えたのは、カブテの作り方と基本の投げ方を二種類、それだけだよ。
そもそもおれ自身が真っ直ぐ狙うからな。
落とし獲りみたいな難しいことは、普通はせんだろう?」
ヤッホ 「そんなら、サチが自分で編み出した技なのか?」
サチ 「私、力が無いから、上に投げないと届かないの。」