縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第142話 22日目②

 

 

 

          湧き水平。

 
エミヌ  「思ってたよりも広くて明るいのね。」
ナクモ  「ドングリがいっぱい落ちてる。」
ハギ  「あ! 注意事項を言い忘れてた。
     ほら、あそこにもいるだろう?
     ここは猿が多いから、いたずらされん様に気をつけてくれよ。」
カラグラ  「あいつら女を狙うからな。油断禁物だぞ。」
ヤッホ  「これが問題の洞窟の入口か。」
シロクン  「仮塞ぎがしてあるな。
        湧き水よりも手前か。
        どうする? せっかくここまで来たんだから、先に見晴らし岩まで行ってみないか?」
ナクモ  「私、行って見たい。」
シロクン  「ではナクモはカタグラが背負ってくれ。サラは一人で大丈夫か?」
サラ  「うん。こないだ、ハギと二人で登った。」
シロクン  「それならエミヌ、ほら。」
エミヌ  「やったー! ねえ、シロクンヌ、走ってよ!
      さっきは歩いてたからつまんなかった。」
シロクン  「よし、じゃあ、駆け上がるか。
        サチ、転ばん様について来い。」
サチ  「はい。」
 
    背負子に乗ったエミヌの絶叫が木霊した。
    猿達は恐れをなして逃げ出した。
 
 
          見晴らし岩。
 
エミヌ  「シロクンヌ、どうしよう、私、興奮し過ぎてちびっちゃった。
      サチ、後ろ、染みてない?」
サチ  「少し、染みになってる。でも、すぐ乾きそうだよ。」
シロクン  「背負子は濡れていないぞ。」
エミヌ  「そんなら良かった! あそこに座ってるうちに乾くよね!」
シロクン  「いい眺めだろう? サチ、膝に来い。」
エミヌ  「スワの湖、綺麗だー! オジヌ、早かったね、こっちにおいで。」
オジヌ  「サチは速いなー! 驚いたよ。凄い眺めだね!」
エミヌ  「ハニサとはどの辺まで行ったの?」
シロクン  「それほど遠くまでは行っていないぞ。
        一番手前に見える旗が、アユ村だ。
        湖の右手の山の中腹に子宝の湯がある。」
エミヌ  「沈んだ村は?」
シロクン  「子宝の湯から見ると、ほぼ正面だな。」
エミヌ  「じゃあ湖のあの辺のほとりで、お昼を食べたんだね。
      いいなーハニサは・・・
      私もシロクンヌとそういう事がしたい。」
オジヌ  「姉ちゃんはそんな事言う前に、おしっこちびるのを止めろよ。」
エミヌ  「あんた、聞いてたね! 言い触らしたら怒るからね!」
 
ナジオ  「何度見ても、感動する景色だな。」
サラ  「シオ村には、こういう所は無いの?」
ナジオ  「こんなに高い場所は無いよ。」
ムマヂカリ  「おれはここで、シップウが飛ぶ姿が見てみたい。」
ハギ  「こないだなんか、シップウはすぐそこで気持ちよさそうに浮いてたぞ。
     羽ばたきもせずに。」
ムマヂカリ  「あそこを見てみろ。
        カタグラの横でナクモがチョコンと座っておる姿は微笑ましいな。」
ナジオ  「うん。でも最近だぞ、くっついて座る様になったのは。」
ムマヂカリ  「そうだよな。笑えるほど離れてたよな?
        それを思うと、ハニサは端(はな)からシロクンヌにべったりだったな。
        あれは驚きだった。」
ハギ  「それな。実はおれも驚いたんだ。
     ハニサがあんな風に男を慕うなんて思わなかったよ。
     おれは内心、ハニサは男嫌いじゃないかと心配してたんだ。」
サラ  「実際、そうだったんじゃない? だって17歳で初恋って凄くない?」
ハギ  「そうか、そう言えばあの時そう言ってたよな。
     シロクンヌのことは最初から好きだったって。」
サラ  「でもハニサは幸せよ。17の初恋が実ったんだもの。」
ヤッホ  「アニキがそろそろ降りようかって言ってるぜ。」
ハギ  「よし! いよいよ探検だな。」
シロクン  「カタグラ、そろそろ行かないか?」
サチ  「父さん、お姉ちゃんを泣かした時、どこに隠れたの?」
シロクン  「あの時は、ハニサがそこに居て、あっちに猿が居た。
        父さんは、そこの窪みに隠れたんだ。
        猿の鳴きまねしたら、オロオロと怖がっていたな。
        ハニサはどうしてるかな。」
エミヌ  「言ったーーー!
      ね? 絶対言うんだから。
      お昼前に言うに賭けたの私だけだったよね?」
ムマヂカリ  「おれは、帰り際に言うに賭けた。」
ナジオ  「おれは、今日は言わない、だった。エミヌの勝ちか。」
エミヌ  「いいなーハニサは。私もシロクンヌにこうやって言われたい。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。