第148話 23日目①
早朝の広場。
シロクンヌ 「テイトンポとアコの子かー。もし男なら、手の付けられん悪ガキだろうな。」
ハニサ 「アマテルをイジメないでね。」
アコ 「何だよハニサまで。可愛らしい女の子かも知れないだろう?
そうなら、タレの作り方を教えるんだ。」
シロクンヌ 「あれから、テイトンポの態度が変わっただろう?」
アコ 「うん。クズハに、妊婦とのいたし方を色々聞いてたな。」
シロクンヌ 「そっちか!」
アコ 「アハハ、冗談だよ。あたし、嬉しくってさ。
あんなに喜んでもらえるなんて思わなかった。」
シロクンヌ 「そりゃあ喜ぶだろう。愛弟子が、自分の子を産むんだぞ?」
アコ 「そうなのかな・・・」
シロクンヌ 「テイトンポにしてみたら、初めての子だろうな。」
アコ 「そう言ってた。昨日の夜、ムロヤでクズハとお祝いしてくれた。
もし違ってても、またその時が来たらお祝いすればいいから気にするなって。
あたし、ハニサが言う、ふわふわした気持ちっていうのが分かったよ。」
ハニサ 「ふわふわするよね?」
アコ 「うん。ふわふわする。」
シロクンヌ 「ハハハ、そうなんだな。ところで、テイトンポは遅いが?」
アコ 「暗いうちに起きて、スッポン池に湯を注ぎに行ったんだけど、もう来ると思うよ。」
シロクンヌ 「まったく、スッポン命だな(笑)。アコは今日、どうするんだ?」
アコ 「テイトンポが、念のためにこっちに残れって言ったから、こっちにいる。」
シロクンヌ 「じゃあおれ達三人、今日は工房だな。夜宴には行くんだろう?」
アコ 「行きたいよ。」
ハニサ 「あ! オジヌだ。おはよう。」
オジヌ 「おはよう。シロクンヌ、見て。サメの歯に穴が開いたよ。
これでシロクンヌのと同じ物を作るんだ。」
シロクンヌ 「握りを付けるんだな。オジヌは今日、何をするんだ?」
オジヌ 「背負子を作れってテイトンポから言われてる。
こっちでも足りないし、洞窟にもいくつか置いておくらしいよ。」
サチ 「おはよう。」
シロクンヌ 「アハハ、サチ、今日の眼木は笑いを誘うな。」
サチ 「え? そうなの?」
ヤシム 「サチはね、どんな眼木を掛けてるのか、まだ知らないんだよ。」
アコ 「ヤシム、タホの面倒は見てるから、洞窟に行っておいでよ。」
ハニサ 「工房には4人いるから、タホも退屈しないよ。」
ヤシム 「じゃあ行こうかな。用意して来よう。」
テイトンポ 「サチか! また可愛いな!」
サチ 「父さんは笑えるって言ったよ。」
テイトンポ 「シロクンヌは感覚異常だからな。」
シロクンヌ 「どっちがだよ。」
カタグラ 「おはよう。お! サチ! 大人っぽいぞ。」
サチ 「・・・・・」
ハニサ 「カタグラは今夜は向こうなの?」
カタグラ 「ああ、今夜はアユ村で報告する事が山ほどある。
シロクンヌのアマカミの件や洞窟の話。みんな驚くだろうな。
昨日聞いた舟の話や、女神をハタレから護る話もしなきゃな。
スワもミヤコの一角になるのか?」
シロクンヌ 「そうなるだろうな。」
サチ 「アヤのイエの者は、おそらくスワに住みたがると思うから、
アヤの村が、また、湖のそばにできるかも知れないよ。」
カタグラ 「本当か! そんな事になれば、兄者は大喜びするだろうな。」
シロクンヌ 「あの洞窟のおかげで、スワとの距離は縮んだみたいなものだ。
一年中、気軽に行き来できる。」
アコ 「あれ? サラが走って来るよ。」
サラ 「出来たよ。食べてみて。なかなかいい出来だよ。」
ハギ 「旨いぞ。」
オジヌ 「何が出来たの?」
ハギ 「ネバネバだ。サラが四日前から仕込んでたんだ。」
カタグラ 「ああ、前、話に出たやつだな?」
ナジオ 「ツルマメ村が本場なんだよな?」
シロクンヌ 「ネバネバ? これがそうか?」
サラ 「そうだよ。私、みんなを呼んで来る。」
スサラ 「美味しい! あんた上手に作ったね。」
ハギ 「旨いよな? 前に食べたのよりも旨いもん。」
ヤシム 「でもこれって・・・腐ってないの? ヤッホの足のニオイがするよ?」
ヤッホ 「何でおれの足が腐ってるんだよ!」
エミヌ 「そうそう、オジヌの靴もこんなニオイ。」
オジヌ 「ねーちゃん、いい加減な事言うなよ!」
カタグラ 「ふむ・・・おれの足もこんなニオイだな・・・」
ハニサ 「シロクンヌの足はこんなニオイしないよ。」
アコ 「いーかげんに足のニオイから離れろよ。食べてみると美味しいぞ。」
ヌリホツマ 「ほう・・・わしは初めて食べたが・・・これは旨いの。
どうしてオオ豆がこんな味になるんじゃろうか?」
シロクンヌ 「ネバネバという言葉で以前から気になっていたんだが・・・うん、旨いな・・・
これは何かで味付けがしてあるのか?」
サラ 「してないよ。オオ豆を茹でて、その後にトチの枯れ葉でくるんだの。
それを炉のそばで温めておいただけだよ。」
クマジイ 「不思議じゃのう。それだけで、こんなに味が変わるもんなんじゃな。」
ナジオ 「くせになるってのは分かるな。美味しいよ、これ。」
テイトンポ 「い、いかん! おれは、どうしても、これは口に出来んっ!」
アコ 「どうして?」
テイトンポ 「おれの、足のニオイに似ているからだっ!」
アコ 「だから、足のニオイから離れろって!」
みんなが、笑った。