第149話 23日目②
朝の広場。続き。
ムマヂカリ 「そう言えば昨日聞き忘れていたんだが、赤ガエル、どうだった?」
ハニサ 「赤ガエルって?」
サラ 「昨日私が仕掛けたの。洞窟に行く途中の道で。
帰りに見たら、地バチがたかってたよ。多分、かなり大きな巣だよ。」
アコ 「もう蜂追い、出来そうなの?」
サラ 「もう十分、いい巣になってると思う。」
ハギ 「カタグラ、明日はこっちで泊まるよな? あさって、蜂追いしようか?
アコは見学だぞ。」
アコ 「うん。分かってる。」
テイトンポ 「何だ? 蜂追いとは激しい動きがあるのか?」
ハギ 「転んだりもするんだよ。」
カタグラ 「よし! では、おれの追跡能力の高さを見せてやろうか。」
ヌリホツマ 「ヤッホは蜂に刺されてはならぬぞ。」
ヤシム 「そうだよ。去年死にかけたんだから。」
ヤッホ 「分かってるよ。去年は、服の中に蜂が入り込んでたんだ。
じゃあ今日、カモを射て来るよ。」
シロクンヌ 「カモは、何か関係があるのか?」
ヤッホ 「羽毛を採るんだ。蜂の目印さ。」
ナジオ 「蜂追いかー、5年ぶりだな。ところでカタグラ、あの事はみんなに言ったのか?」
カタグラ 「まだだ。今みんないるし、言っておくか。
昨日、あれからナクモと話をして、おれ達は一緒になる事にした。」
ハニサ 「えー! おめでとう!」
エミヌ 「とんとん拍子だね。」
カタグラ 「ありがとう。なんか照れ臭いな(笑)。
それで、試しに二人で洞窟に住んでみようかという事になった。
まあ、タカジョウがいる間は、三人でだが。」
アコ 「ナクモは大人しいけど、何でもこなすからね。料理だって上手いんだよ。」
シロクンヌ 「おれも昨日、ナクモの滑りを見て驚いたんだ。意外に度胸があるんだな。」
オジヌ 「姉ちゃんなんかよりも、キモが座ってたよね。思い切りが良かったもん。」
テイトンポ 「では、夜宴は二人の祝いの宴になるな。」
ハニサ 「テイトンポ、夜宴にはアコも行っていいんでしょう?」
テイトンポ 「ああ、もちろんだ。みんなで盛大に祝うぞ。」
カタグラ 「よしてくれ、照れ臭い。」
サチ 「あ! カタグラ、半分お尻が出てる!」
みんなが爆笑した。
曲げ木工房。
テイトンポ 「サカキが刺してあるだろう? ここと、そことそことそこ。
それが四隅(よすみ)だ。ここに増築する。出入口はここ。
この上の屋根は、最低ここまでは張り出させて欲しい。
屋根の勾配は、向こう下げだ。
ハニサが使うのは、この半分。こっち側だ。
独立で建てて、その後に今ある工房と軒(のき)でつなぐ。」
テイトンポ 「もちろんだ。ネズコはクマジイが欲しいそうだぞ。」
シロクンヌ 「サチ、明日から二人でやるぞ。今日はここの地ならしをしておく。」
サチ 「はい! 材木伐りからやるの?」
シロクンヌ 「そうだ。クリ林のクリの木を使う。そっちの祓いと祈りはヌリホツマがやってくれる。」
サチ 「おじちゃん、高さは工房より高くするの?」
テイトンポ 「それはどっちでもいいが、低すぎるのは困るぞ。
後から軒でつなぐのがしやすい様に、二人で考えてやってくれ。
頼んだぞ。
アコ、無茶はするなよ。
シロクンヌ、アコは無茶癖があるから、気をつけて見ていてくれよ。
アコ、帰りにはアコの好きな魚を獲って来るからな。
ここで一緒に焼こう。では行って来るぞ。サチ、行こうか。」
サチ 「はい、行ってきます。」
アコ 「行ってらっしゃい。」
ハニサ 「気をつけてね。」
サチ 「おじちゃん、アコが大好きなんだね。」
テイトンポ 「アコみたいに素直で可愛い女はそうそういないぞ。
おじちゃんはな・・・」
シロクンヌ 「かー! 何だ、テイトンポのあの変わり様は!」
ハニサ 「アコ、愛されてるね。」
オジヌ 「おれには一言も無かったな・・・」
アコ 「あー、いい天気だ!
タホ、向こう行って遊ぼう。スッポン、見てみようか?」
オジヌ 「やっぱりシロクンヌは凄いね! 言った通りの方向に倒れたよ。
あっという間に伐っちゃうし。」
シロクンヌ 「オジヌもやってみるか? 石斧を樹に打ち付ける時に、股関節を畳むんだ。」
オジヌ 「どうやるの?」
アコ 「それ、あたしにも教えて。」
シロクンヌ 「なんだ、アコはまだ教えてもらって無いのか。こうやってな・・・」
ハニサ 「ヌリホツマのお茶を淹れたよ。休憩しよう。」
シロクンヌ 「タホはやっぱりアコになついているんだな。」
アコ 「うん。ついこないだまで、一緒に住んでたからね。」
シロクンヌ 「そうだ、岩の温泉でイオウを採って来ただろう。
あれの使い道を知っているか?」
オジヌ 「地バチの巣を燻すんだよ。地バチを酔わせるんだ。」
アコ 「使うのはイオウだけじゃないんだよ。
送り場のそばの地面に、春につくコケがあるの。そのコケを採って乾燥させるの。
それから、栗のイガ。栗のイガを集めて、蒸し焼きにして黒い粉にする。
その三つを混ぜるんだよ。凄い煙が出るんだ。臭いもキツイ。」
ハニサ 「へー、知らなかった。」
オジヌ 「アナグマの巣の燻し出しにも使ったりする。」
シロクンヌ 「蜂が酔うと、どうなるんだ?」
オジヌ 「攻撃して来なくなるんだ。巣にとまって、ブンブンいってるだけ。
そのすきに、巣を掘り出すんだよ。
大きいのになるとね、何段も重なっていて、一抱えくらいまでのもあるよ。」
シロクンヌ 「そんなに大きいのか!」
アコ 「ねえ、シロクンヌって、テイトンポの後にも誰か師匠に就いたの?」
シロクンヌ 「ああ、16から別の師匠に就いた。そこでは主に杖(つえ)を習ったな。」
ハニサ 「杖って?」
シロクンヌ 「杖というのは、シロのイエ独自の呼び方で、
実際は、弓の弦(つる)を張るまえの木の棒だ。または、弦を切った弓だな。
それで叩いたり、突いたりするんだ。
おれが最初に持っていたヤス、あれは実は杖なんだ。弦を張れば、すぐ弓になる。
これはシロのイエ独自の技なんだよ。
接近戦に移行したら、弓の弦を切って杖にして戦う。
シロのイエは、その杖の技を代々磨き上げて来たんだ。
門外不出でな。」
アコ 「門外不出って事は、その技はシロのイエの人以外には、教えちゃいけないって事なんだね。」
シロクンヌ 「そうなるな。教えてはいけないし、必要が無ければ見せてもいけない。」
アコ 「こないだハタレを倒した時には、杖を使ったの?」
シロクンヌ 「使っていない。スワの湖で、魚を獲るのには使った。」
ハニサ 「あれがそうだったんだ! 棒で叩いて魚を獲ったから、びっくりしたんだもん。
今度来る、イナという女の人も、杖ができるの?」
シロクンヌ 「相当な使い手だと思うぞ。師匠のお墨付きだからな。
さて、切り株を二つ、こいでしまうか。
オジヌ、根っ子を削った矢じりも良いんだぞ・・・」