第151話 24日目①
朝食の広場。
シロクンヌ 「サチ、今日から小屋作りだが、サチならどんな手順で進める?」
サチ 「まず、工房の高さを計る。竹を持って行って、竹に印をつけるの。」
ハニサ 「そうか! そういうところから始めるんだね。
あたし、いきなり柱の穴を掘るのかと思ってた。」
サチ 「それから絵図面を画くの。白樺の皮に。」
シロクンヌ 「絵図面? それをサチは画けるのか?」
サチ 「画けるよ。アヤのイエの仕事だもん。
ミヤコの大きな建物の絵図面は、全部アヤのイエが保管しているんだよ。」
シロクンヌ 「驚いたな・・・」
サチ 「それから地面に杭を打って縄を張るの。」
シロクンヌ 「まだ栗の木は伐りに行かんのか?」
サチ 「まだ樹が選べないから、行っちゃダメだよ。
伐りに行くのは、竹に全部の印が付いてから、その竹を持って行くんだよ。」
シロクンヌ 「おれは、適当に見繕って伐って来て、それを使って造るのだと思っていた。」
サチ 「ブリ縄で木に登って、上の方の枝を切って使ったりもするから、
出来るだけ材料を割り出してから、行った方がいいよ。」
シロクンヌ 「サチはブリ縄まで使えるのか!」
ハニサ 「ブリ縄ってなに?」
シロクンヌ 「樹の幹の中ほどで、体を支える道具だ。」
サチ 「それから父さん、竹の水平器って村に有る?」
シロクンヌ 「竹の、何だ?」
サチ 「水平器。竹を半割りにするでしょう。両端の節(ふし)は残して、中間の節は抜くの。
柱の上に梁を載せた時、その梁の上に竹を載せて、竹に水を入れるんだよ。
梁が傾いてないかを調べるやり方。」
シロクンヌ 「なるほど、傾いていれば、水がこぼれたりするんだな。
ハニサは、水平器なんて知ってたか?」
ハニサ 「知らない。今聞いて、そんなやり方があるんだって感心してたとこ。
でもサチ、ミヤコには竹は無いんでしょう?」
サチ 「竹やぶや竹林は無いけど、竹は時々、舟で運ばれて来るの。」
シロクンヌ 「そう言う事か。
村に水平器は無いだろうが、竹は有るからそれ位ならすぐに作れるな。
しかしおれが思っていた小屋作りとは、根本的に違っている・・・
サチの話を聞いていると、おれのやり方は幼稚すぎて恥ずかしいよ。」
曲げ木工房。
シロクンヌ 「サチ、絵図面の、ここの、この印は何だ?」
サチ 「こっちがホゾで、こっちがホゾ穴。」
シロクンヌ 「ホゾ?」
サチ 「柱のテッペンを、こういう出っ張りが出来るように削るの。この出っ張りが、ホゾ。
そしてね、その上に梁が載るでしょう?
その梁にホゾ穴をあけて、ホゾがピッタリはまるようにするの。」
シロクンヌ 「驚いたな・・・そんなやり方があるのか。
テイトンポ、ちょっとこっちに来てくれ。サチの絵図面が凄いぞ。」
シオラム 「上からはめ込むと言う事か! それでグラつかん訳だな。」
サチ 「そう。地面に穴を掘って柱を立てるでしょう?
そして、穴と柱の隙間にカイモノをして柱を固定しておいて、梁を載せるよね?
その時、ホゾにホゾ穴をはめ込まなちゃいけないから、
慎重な作業で人手は余分に掛かるけど、
結わえる縄の長さは半分も要らないよ。」
テイトンポ 「梁を載せる時は、みんなが手伝えばいいんだな。
脚立はたくさんあるから問題ない。」
アコ 「ミヤコは、ホゾを使った建物が多いの?」
サチ 「多いよ。高床の建物は柱にホゾ穴をあけて、床の梁にホゾをつけるの。」
ハニサ 「タカユカって何?」
サチ 「地面から離れたところに床を張るの。これくらいの高さで。
すると、床の下を風が通るでしょう?食料の倉庫にいいんだよ。」
オジヌ 「そんな建物まであるの? ミヤコって凄い所だね。」
テイトンポ 「ふむ、ミヤコの建築は、随分進んでおるな。サチ、この印は何だ?」
サチ 「これはね、窓。煙抜きの。明り取りにもなるよ。」
シオラム 「マドだと? また知らん物が出て来たな(笑)。」
ハニサ 「そうか。壁の高い所に、開け閉め出来る部分を作るんだね。」
テイトンポ 「屋根が片流れだから、こっちの壁が背が高い。こっちの壁の一番上に窓を付ける訳か。」
サチ 「壁の外側に、吊るの。下を外側に開いて、二本の棒で支えるやり方。
開け閉めには、脚立が必要だけど・・・」
ハニサ 「窓のすぐ上が軒だから、雨でも開けていていいんだね。
火棚を付けてくれて、焼く前の器を乾かせる様にしてくれるって言うし、
なんか素敵な作業場が出来そう。
それにしてもサチって凄いんだね。完全にアヤクンヌだ。」
クリ林。
ヌリホツマ 「きーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせーたーきー・・・
この林の栗の木であれば、好きな物を切るがよい。
わしはこれでウルシ林に戻るぞよ。
そうそう、言い忘れておった。
栗の木の皮は薬になるんじゃ。かぶれややけど、あせもに効く。
剥いだら、ふた抱えほどを分けておくれ。」
シロクンヌ 「分かった。うるし小屋に持って行くよ。
さあサチ、樹を選ぼうか。」
サチ 「一番長いのが長柱の3本だから、それから見つける?
3本の内、1本は太い樹だよ。」
シロクンヌ 「埋め込み代(しろ)が1回し、地上5回しだから、6回し(4.2m)だったか。
この竹の、この印がそうだな。この印までが真っ直ぐな樹を選べば良い訳だ。
選んだら、縄で縛って印をつけるか。
そうやって、伐る樹を全部、先に選んでしまおう。
固まった場所ではなくて、間伐の様にしたいからな。」
サチ 「父さん、栗の木の皮では、木の皮鍋は作れないでしょう?」
シロクンヌ 「無理だ。まず、そういう形に剥ぐのが難しいし、皮にエグみがある。
なにしろ革なめしに使うくらいだから。薬にもなるんだな。
葉は、ウルシかぶれの薬になると聞いた事があるがな。」