第152話 24日目②
飛び石のそばの河原。洗濯場の近く。
夕刻前。7か所で火が焚かれている。
鍋用の焚き火だから、それほど大きな炎ではない。
短い一本皿が二本置かれ、そこに食材がのっている。
村人全員で、木の皮鍋大会をやるのだ。
ササヒコ 「川の水音を聞きながらの夕食というのもいいな。」
シオラム 「御座じゃなくて、石に座って食うってのも気分が出て乙なもんだ。」
ササヒコ 「ヤッホ、ダケカンバの手火と手火立てだが、もっと用意しておいた方がいいな。」
ヤッホ 「皮はたくさんあるから、取って来るよ。」
クマジイ 「シロクンヌや、もう一度、折って見せてくれい。」
シロクンヌ 「いくぞ、ここをこういくだろ、ここを寄せる。」
クマジイ 「こうじゃな。そしてこうか。」
シロクンヌ 「オジヌとカイヌは上手いな。きれいな笹舟形だ。」
カイヌ 「これを火に掛けても燃えないの?」
シロクンヌ 「中に汁が入っていればな。底を炙るんだ。」
オジヌ 「さっき工房で、この皮を湯に浸けていたでしょう? あれは何の意味?」
シロクンヌ 「一つはアク抜きだ。木の皮鍋自体から出るエグみを無くす。
もう一つは、軟らかくして折りやすくしたんだ。
お、クマジイいいぞ。そこをそのまま持っていてくれ。この枝で挟むぞ。
ほら出来た。」
テイトンポ 「アコ、河原のここを少し掘って、アケビの蔓の湯剥きはこっちでやるか。」
アコ 「そうだね。カスが出るから、こっちでやろうか。」
クズハ 「ここよりも、もっと水際の方がいいのじゃない? 掘れば水が湧くわよ。
水汲みしなくて済むでしょう?」
テイトンポ 「しかし、湯がすぐに冷めやせんかな? 水が入れ替わって。」
クズハ 「たまった水は、簡単に入れ替わるのかしら?
たまっていれば、もうそこに水は入って来ないんじゃない?」
テイトンポ 「そうかも知れん。やってみる必要があるな。」
アコ 「大雨で増水してやられたって、また掘ればいいだけだしね。
毎日の水汲みより楽だよ。」
タマ 「木の皮鍋ってのがあるんだね。
いろり屋は楽が出来るよ。きざむだけさね。
運ぶのは男衆がやってくれるし。」
スサラ 「河原で食べるのも素敵よね。子供達も喜んでるわ。」
ムマヂカリ 「シカ肉持って来たぞ。ここに置けばいいな?」
タマ 「そこでいいよ。ネズコ板が7枚あるだろう。
朴葉を敷いておくれ。肉を取り分けるよ。
もうじき洞窟の連中もキノコを持って帰って来るだろう。
そしたら始めようかね。鍋の後は、焼肉だ。
祭りの後でアコのタレが少ないから、鍋で食べれて良かったよ。」
エミヌ 「ダシは燻しイワナを炙って取るの?」
タマ 「お祭りのご祝儀のコンブで、コンブ水が作ってあっただろう。
そこに並んでる器がそうだよ。
それに炙りイワナを浸しておくれ。
おや? 帰って来たようだね。
ハギが得意気に掲げてるのがマイタケかい。
また大きなマイタケだよ。」
辺りは薄暗くなった。
おのおの手火に灯をともし、それを手火立てではさみ手近な地面に刺した。
こうして、河原での木の皮鍋の夕食が始まった。
ハニサ 「えー! あれが全部、一本のミズナラに生えていたの?」
ハギ 「そうだよ。一本皿に並べただろう。あれが全部、一本の樹に生えていたんだ。」
ナジオ 「生えてるところを見たら、気持ち悪かったぞ。
あんな樹、シオ村には無いよ。」
ヤシム 「キノコ樹ってね、毎年たくさんキノコが生えるのよ。」
カタグラ 「同じようなキノコ樹がもう一本あって、
そっちのキノコはおれが昨日、アユ村に持ち帰った。
向こうでも驚かれたな(笑)。
しかし木の皮鍋なんて、おれは初めてだよ。この鹿肉、もういいな。
ナクモ、ほら、取ってやったぞ。」
ナクモ 「ありがとう。軟らかくて美味しい。」
シロクンヌ 「煮過ぎずに食えるから旨いだろう?
マイタケがシャッキシャキだぞ。
火を通し過ぎずに取って食った方が旨い。」
カタグラ 「ほんとだ。ほらナクモ、シャキシャキだぞ。」
エミヌ 「いいなー。オジヌ、私にも取ってよ。」
オジヌ 「やだよ。ねーちゃん、自分で取れよ。」
ヤッホ 「スワに行った時、木の皮鍋で何を煮たんだい?」
ハニサ 「キジ団子。
シロクンヌったらね、歩きながら弓矢を作って笛を吹いて、
簡単にオスキジを獲ったんだよ。」
サチ 「それから弓の弦をはずして棒にして、湖に入って棒で叩いて魚を獲ったの。」
ヤッホ 「スゲーな、アニキ。」
サラ 「シロクンヌと父さんがいれば、きっと簡単にハチの巣が見つかるよ。」
ハギ 「そうだな。明日の蜂追いは楽勝だな。」
テイトンポ 「おお、その蜂追いだが、具体的にはどうやるんだ?」
サラ 「私が早めに出て赤ガエルを仕掛けるの。
皮を剥いだムキ身。地バチの大好物なんだよ。
そうやって地バチをおびき寄せておいて、
みんなが到着したら赤ガエルは水に投げ込で、別のエサに替えるの。
そのエサも赤ガエルだけど、今度は小さな切り身。
地バチがすぐに持てる大きさ。
地バチはそれを巣に持ち帰るから、エサに目印を付けておくの。
目印は、糸の先に付いた羽毛。」
アコ 「目印付きは、何個なの?」
サラ 「6個でいいよね?」
アコ 「地バチは真っ直ぐに巣に帰るかも知れないし、途中で糸を切ろうと寄り道するかも知れない。
とにかく目印を追いかけるんだけど、もしかすると、切られて風で飛んでるやつかも知れない。
でも上を向いて、ひたすら走るしかないんだよ。」
ヤッホ 「だから転ぶのなんて当たり前で、岩にぶつかったりもするんだ。」
カタグラ 「おれはヘビを踏んづけて、噛まれた事があるぞ。」
ナジオ 「なんだか、壮絶だな(笑)。5年前も、何人も転んだよな。」
ムマヂカリ 「最初のを見失っても、上を見ていれば次のが来るからな。」
ハギ 「毎回、競い合っているんだ。誰が最初に巣を見つけるかで。
巣は地面の下だからね。
巣の入口を見つけるんだ。
前回は、アコが一着だったな。」
ハニサ 「そういう事なら、シロクンヌが絶対一着だよ。あ、でもテイトンポかも知れないか・・・」
オジヌ 「おれ、サチもいい線いくと思う。サチには勝ちたいな。」
タマ 「蜂追いするんだってね。グリッコの生地をたくさん練って待ってるよ。」
テイトンポ 「ハチの子グリッコか・・・どうだシロクンヌ、自信のほどは。」
シロクンヌ 「そりゃあ有るさ。一着を狙う。」
テイトンポ 「よし! どっちが地を読めるのか、勝負だな。」
シロクンヌ 「ふむ、負けはせんぞ。」
タマ 「それなら、こうしたらどうだい?
配給されたハチの子グリッコから、仲間内で三つずつ出し合うんだ。
それを一着の者が総取りするんだよ。
あたしも三つ出すからね。もちろん、カタグラにも配給するよ。」
ナジオ 「面白いな。それで行こう。」
エミヌ 「そうなると、テイトンポが俄然、知恵を絞るんじゃない?」
アコ 「アハハ。間違いないな。」
ムマヂカリ 「グリッコが懸かってしまってはな(笑)。」
テイトンポ 「どうだシロクンヌ、受けて立つか?」
シロクンヌ 「当然だ。小ズルい戦法は通用しないからな。」
テイトンポ 「馬鹿な。正々堂々と、打ち負かしてやるぞ。」
シロクンヌ 「言ったな。よし! 勝負だ。」
ハギ 「二人とも、何だか凄い気迫だな。」