縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第153話 25日目① 

 

 

 

          朝の広場。

 
ヤシム  「今日は運命の師弟対決だね。どっちが勝つと思う?」
ハニサ  「あたしはシロクンヌ。」
ムマヂカリ  「まあ、ハニサはそうだろうな。
        おれはテイトンポだ。なんせグリッコが懸かったからな。」
ハギ  「おれもテイトンポ。理由は同じ(笑)。サチは?」
サチ  「私は父さんだと思う。だって父さんは凄いもん。」
ヤッホ  「アニキは自信あるのかい?」
シロクン  「もちろんだ。競り合いにはなるだろうがな。」
ヤッホ  「参加者を確認すると・・・
      アニキ、テイトンポ、ムマヂカリ、ハギ、サラもだな、
      カタグラ、ナジオ、オジヌ、サチ、そしておれか。
      ちょうど10人だ。
      見学が・・・
      ハニサ、アコ、ナクモ、エミヌ、ヤシムも行くんだな?」
ヤシム  「もちろん行くよ。」
ヤッホ  「じゃあ5人だ。」
テイトンポ  「おはよう。サラはもう出たのか?」
ハギ  「ああ、もう先に行ってるよ。」
ヤッホ  「10人と5人だろう。あとタマも三つ出すんだから・・・
      一着は、いくつグリッコがもらえるんだ?」
サチ  「45個。」
テイトンポ  「ほう、サチは勘定が速いな。45個か。」
 
 
          下の川の川沿いの道。
 
サラ  「エサはね、ここから河原に下りた、あの樹の枝に吊ってあるの。
     もう地バチが一杯たかってるよ。」
ムマヂカリ  「それなら見学者は、この道で見学だな。
        ここからなら高いから良く見えるだろう?
        おれ達は河原に下りよう。」
 
    10人が河原に下りて行った。
 
エミヌ  「ここからならけっこう見渡せるね。」
ナクモ  「巣って川向こうにあるのかな?」
ヤシム  「どうだろう? 向こうなら見やすいけど、こっちに来たら怖いよね。」
ハニサ  「ねえ、でも結果次第では、シロクンヌとテイトンポの仲が悪くなったりしないかな?」
アコ  「そうだよな。それが少し心配なんだ。」
ヤシム  「今回は、いつになく張り合ってたもんね。」
ハニサ  「仲たがいしなければいいんだけど・・・」
ナクモ  「始まった! 川に入って行くから、川向こうだね。」
エミヌ  「でも分からなくない? 川の中を、バシャバシャ上流に走ってるもん。
      みんな、上向いて走ってるね。先頭はシロクンヌとテイトンポだ。」
ヤシム  「ヤッホが転んだ!」
アコ  「やっぱり最初に転ぶのはヤッホだな。
     アハハ、後ろから来たカタグラに踏みつけられてる。
     カタグラも転んだ。」
ハニサ  「あれ? ムマヂカリだけ、別方向にさまよってない?」
アコ  「別の蜂を追ってるんだな。あ、でもみんなも動きが遅くなったな・・・」
エミヌ  「ムマヂカリが走り出したよ。
      あ! オジヌにぶつかった!
      オジヌが弾き飛ばされてる!」
アコ  「壮絶だな。アハハハハ、カタグラは、半ケツで走ってるよ。」
ナクモ  「あれ? サラが逆方向に歩いてる。」
ハニサ  「シロクンヌとテイトンポが向こう岸に渡った。やっぱり向こうなんだ。」
ヤシム  「猛烈に走り出したね。斜面を登って行くよ。
      二人の後を追ってるのは・・・サチとナジオだ。
      ハギがその後だね。」
エミヌ  「シロクンヌとテイトンポが横一線!
      どっちが先に登り切るのか・・・
      あれ? 二人が近づいてる。
      危ないよ! あーぶつかった!」
アコ  「あらら。二人共、転げ落ちてるよ。
     あーあ、サチとナジオを巻き込んじゃった。
     こりゃあ、ハギが一着かな?」
ハニサ  「兄さんも転んだ! カタグラが、お尻を出して抜いて行った!」
ナクモ  「カタグラが立ち止まってキョロキョロしてる。」
エミヌ  「見失っちゃった?」
ヤシム  「全員、上見てキョロキョロしてるねえ。」
アコ  「こりゃー今回は失敗だな。こんな事になろうとは・・・」
ハニサ  「みんな、ずぶ濡れで泥だらけだよ。」
エミヌ  「頑張ったのに、かわいそう・・・」
ナクモ  「でも、サラはどこ?
      いないよ。さっき、変な方に歩いて行ったっきり見てないもん。」
アコ  「1、2、3、・・・9人しかいない。サラは見当たらないね・・・」
ハニサ  「あ! 上から下りて来るの、サラじゃない?
      手招きしてる。みんなを呼んでるんだ。」
アコ  「こっちも呼んでるね。下りて行こうか。」
 
 
          山の中。
 
ハニサ  「サチ、怪我しなかった?」
サチ  「大丈夫。ちょっと擦りむいただけだよ。あの煙で蜂を酔わせるんだね。」
サラ  「蜂の出入りを見てたけど、相当大きな巣だと思う。
     でもごめん! 私の見立て違いで、みんなをずぶ濡れにさせちゃった。
     川の手前に巣があると思ったの。」
ヤッホ  「そんなのいいさ。醍醐味の内だよ。」
ハギ  「でも良かったよ、サラが見つけてくれて。」
ナクモ  「サラは一人だけ別方向に歩いて行ったけど、あれはどうしてなの?」
サラ  「私は最初から一着はあきらめていたから、みんなが追わない蜂を追おうって決めてたの。
     その蜂だって巣に帰るんだから。」
ムマヂカリ  「おれもそれを考えたんだ。
        だが結果・・・オジヌ、すまん。」
オジヌ  「いいさ。別の蜂が凄い速さで真上を通ったから、危ないなとは思ったんだ。」
ハニサ  「シロクンヌとテイトンポは、どうしてぶつかったの?」
シロクン  「ああするしかなかったよな?」
テイトンポ  「そうだな。あの先は、崖だ。
        歩いてなら、たやすく下りられるが。
        しかしシロクンヌ、おまえならあの崖でも渡れたはずだ。」
シロクン  「それは、テイトンポだって同じだろう?」
ナジオ  「でも良かったよ。
      テイトンポが止めてくれなかったら、おれ、絶対あの崖から落ちてたわ。」
サチ  「私も。父さんが止めてくれなければ落ちてた。」
カタグラ  「おれもだよ。」
アコ  「そういう事だったんだな。」
エミヌ  「上を向いて走っていても、崖が分かるなんてカッコいい!」
テイトンポ  「だからおれ達は、わざとぶつかって、相手の体を利用して減速したんだ。
        後ろから来る者に、崖のことを伝えねばならなかったからな。」
ハニサ  「やっぱり、シロクンヌとテイトンポって息が合ってるんだね!
      良かった!」
ムマヂカリ  「そろそろいいな。さあ、掘り出すか。」
 
 
サチ  「おっきい! 私の肩まである。」
シロクン  「蜂の巣って、こんなに大きいのか!」
ハギ  「こんなに大きいのは珍しいよ。18段ある。」
ムマヂカリ  「サラは前から、この辺に大きな巣があると言っておったからな。
        ほら、ハチの子だ。このまま食べてみろよ。」
シロクン  「動いてるな。どれ・・・お、甘いんだな。」
サチ  「美味しい! 初めて食べた。」
ヤシム  「香ばしく塩炒りしたら、もっと美味しいんだよ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。