第154話 25日目②
夕食の広場。
シロクンヌ 「丁度良かった。一度マグラと話をしたいと思っていたのだ。」
タマ 「テイトンポ、ハチの子グリッコが出来たよ。食べてごらんな。」
テイトンポ 「おおすまんな・・・旨い! このグリッコは、旨い。」
タマ 「旨いだろう? サナギ入りだよ。」
サラ 「父さん、これあげる。賞品のグリッコ。」
テイトンポ 「いいのか?」
タマ 「良かったねえ。サラは優しい娘だよ。」
シオラム 「河原の穴で、十分行けるぞ。水は湧くし、ぬるくはならん。」
エニ 「細長く掘ってくれたから、蔓の湯剥きもしやすかったのよ。」
アコ 「そうか! 掘るだけで水が湧くんだから、形なんてその都度変えたっていいんだ。
何個掘ってもいいし、これからは、そっちだね。」
オジヌ 「だったらスッポン池のすぐ横に小さな池を掘って、
その水を焼き石で温めればいいんじゃない?」
アコ 「そうだね。木曲げや湯剥きは河原でやって、工房の前では・・・
テイトンポはどこ行ったんだ?」
クズハ 「あっちで必死になってグリッコ食べてるわよ。」
ナジオ 「洞窟の入口だけど、扉はどうするつもりでいる?」
カタグラ 「夜は閉めておきたいが・・・何で作ればいいのか悩んでおる。」
ハギ 「とりあえず、内側から閉じれる様にしておかないとな。
簡単な物でいいのなら、シナノキの一枚皮でも出来るけど・・・」
ナジオ 「ナクモはいつから向こうで暮らすの?」
ナクモ 「夜宴に行って、そのまま残ろうと思ってるの。」
ナジオ 「それまでに入口の件、何とかしなきゃな。」
テイトンポ 「そうか。それなら工房の前は、スッポン専用でもいいんだな?」
アコ 「なんかうれしそうだね。」
シオラム 「河原に真っ直ぐ行き来できるように、階段を造ってはどうだ?」
テイトンポ 「よし! 明日からおれが造るぞ」
オジヌ 「おれは手伝わなくてもいいの?」
テイトンポ 「オジヌは背負子を作れ。まだまだ足りん。」
クズハ 「ハチの子の塩炒りをもらって来たわよ。それにしても、18段って凄いわね。」
テイトンポ 「旨い! 普通のグリッコとこいつの取り合わせでもいけるな。」
エニ 「ねえ、私、ふと思ったんだけど・・・
木の実の虫殺しって、熱湯でやった方がいいんじゃない? 水に浸け込んでおくよりも。」
アコ 「虫が死ぬという事で言えば、熱湯なら一発だよね。
水に浸けておいたって、殺し切ってはいないから。時間もかかるし。
でもその後に乾かして、火棚で保存するとして、熱湯に浸けた木の実で大丈夫なのかな?」
シオラム 「大丈夫と言うのは?」
アコ 「殻や皮が裂けないか?とか、中の実が、ちゃんと美味しく食べられるのか?とか。
テイトンポは知らない?」
テイトンポ 「おれも良く知らん。シロクンヌとサチに聞いてみるか。」
アコ 「丁度マグラも来てるし、御座を持って、向こうに移ろうよ。」
サラ 「父さんにハチの子グリッコをあげたら感激してた。
ねえハギ、木の皮を使って、樹のウロみたいにしたいんだけど、どうすればいいと思う?」
ハギ 「ウロ? 穴を作るのか?」
サラ 「穴の内側みたいにしたいの。」
カタグラ 「木の皮の事なら、シロクンヌが詳しいぞ。
スッポ抜きも教えてもらったし。
兄者との込み入った話も終わりそうだし、あっちに移動するか。」
ハニサ 「あれ?みんなが来たよ。」
テイトンポ 「続けてくれ。おれ達は後からでいい。」
ハギ 「ああ、おれ達も後でいいよ。」
マグラ 「すまんな。もう少しで終わるから、そこで一緒に聞いていてくれ。
・・・なるほどな。アヤの村ができると聞けば、スワの連中は沸き立つぞ。
サチ、アヤのイエの者達が、あちこちの丘で村づくりの造成をするんだよな?
それならアヤの村の造成を、スワの衆でやらせてくれ。
旅立つ前にサチが場所を決めてくれれば、おれ達ですぐに取り掛かるよ。」
シロクンヌ 「ほんとか! サチ、願っても無い事だぞ。お願いしたらいい。」
サチ 「はい! ありがとう。
造成が終わっていればすぐにムロヤも作れるし、イエの者も喜ぶとおもう。」
カタグラ 「ムロヤ作りで使う栗の木は、スワ中の村が供出したがるぞ。
なあ、兄者。」
マグラ 「間違い無い。建材、資材は全部用意する。
うちの村のを使えと言う者達を、取りまとめるのに苦労しそうだ(笑)。
だから、場所だけ決めてくれればいい。どこでもいいよ。」
サチ 「それなら・・・子宝の湯のそばがいい。」
シロクンヌ 「ふむ。矢の根石の村が、正面に見えるからな。」
マグラ 「よし! スワの衆に伝えて、村ができるように造成する。
おれの話は済んだよ。」
ヤシム 「サチはそこに住むんだね。遠くに行かなくて良かった。」
テイトンポ 「サチ、良かったな。ちょくちょくここに遊びに来いよ。
そこで、サチとシロクンヌに聞きたいのだが、・・・」
サチ 「私、ドングリの事は知らないけど、栗は、茹でた後に搗栗に出来るよ。」
シロクンヌ 「ドングリも、虫を茹で殺ししている村があったぞ。
あ、思い出した。アケビの蔓の湯剥きを教わった村だ。
だが、あのドングリは、何の樹だったかな・・・」
エニ 「試してみましょうよ。ナマの栗もドングリもいっぱいあるんだから。」
マグラ 「そうか・・・河原でなあ・・・
アユ村でも、試してみるか。」
サラ 「私の質問、いい?」
テイトンポ 「ああ、こっちは済んだからいいぞ。」
サラ 「桜の皮を使って作る筒で、太さが半回し(35cm)長さが一回し(70cm)、
そして筒の内側が、樹のウロみたいになる筒って、どうやれば出来ると思う?
私、早急にそれが作ってみたいの。」
ハギ 「急いでるのか。桜の皮の大きいのは、作業小屋には無いよ。
それに、そんなに太い桜なら、春の終わり頃じゃないと皮は剥げないだろうな。」
サラ 「春の終わりじゃあ、遅いの・・・」
シロクンヌ 「内側が樹のウロという事は、外皮を内側にするんだろう?」
ハギ 「そういう事だろうね。」
サチ 「父さん、こないだの作業小屋の桜で出来そうだよ。幹の部分の丸太で。」
マグラ 「あれはもっと細かっただろう?」
シロクンヌ 「出来るな。取って来るか。湯を用意しておいてくれ。」
ハニサ 「やっぱり細いよ。」(太さは23cmくらい)
シロクンヌ 「いいか? 丸太にヒモを回して外周を計るぞ。
この長さだ。ちょうど一回し(70cm)だろう?
これが筒の高さになる。筒にするには縫いシロが必要だろうから長めに見て・・・
この丸太の長さが二回し(140cm)か・・・一本剥ぎするしか無いな。
こいつを一本まるまる使えば、その筒ができるよ。
若樹だからなんとかなるかも知れん。
縦に一本、上から下まで切り込みを入れて、湯を掛けながら剥いでみるか。」
サラ 「ありがとう! 縦横の向きを変えて筒にするんだね。もらっていいの?」
シロクンヌ 「ああいいさ。何かに使うのか?」
サラ 「私、ミツバチが飼いたいの。
これは、ミツバチのムロヤ。これでいろいろ試してみる。」