第155話 26日目①
朝の広場。
ムマヂカリ 「おはよう。サチはハニサのムロヤで寝たのか?」
サチ 「うん。父さんとお姉ちゃんの間で寝た。」
ムマヂカリ 「うれしそうだな(笑)。いいか? 朴葉にサナギを一握りのせるだろう。」
サチ 「ハチの子?」
ムマヂカリ 「そうだ。幼虫じゃなくて、サナギだ。
これの上から熾火を近づけて慎重に炙る。
朴葉を揺すって・・・な? 匂いがして来ただろう?
もう少しだな・・・こんがりして来た・・・塩をふって・・・
そら、摘まんで食べてみろよ。」
サチ 「美味しい!」
シロクンヌ 「こりゃ旨い!」
ハニサ 「これ、あたしの大好きなやつ。」
ムマヂカリ 「食べ出したら止まらんだろう(笑)
ほら、これ全部置いていくから、炙って食ってくれ。」
シロクンヌ 「おお、すまんな。サチ、今みたいにやってみろ。」
サチ 「ありがとう。一握りのせて・・・」
マグラ 「女神、身代わり人形を作って来たよ。タホのを見て、大笑いした。」
ハニサ 「ありがとう。もう帰るの?」
マグラ 「ああ、今日から猛烈に忙しくなるぞ。
サチ、アヤの村の件、任せてくれな。
スワの連中と相談して、住みやすくなるようにするからな。」
サチ 「はい。お願いします。」
マグラ 「シロクンヌ、舟の作り方もみんなに伝えようと思っておる。
協力しあって、取りあえず一艘作ってみるつもりだ。」
シロクンヌ 「そうか。次に会えるのは、夜宴だな。気をつけてな。」
ヤシム 「飛び石まで送るよ。」
曲げ木工房。
クマジイ 「カイヌや、ここの枝を掃うてくれ。こりゃいいネズコじゃぞ。」
カイヌ 「板がいっぱい取れそうだね。」
エニ 「ドングリを持って来たわよ。
昨日、子供達がクヌギ林で拾ったものだから、虫食いも混ざってるわ。」
シオラム 「よし、河原に行って茹でてみるか。」
ササヒコ 「シオラム、後で手伝ってくれ。
伐ったクヌギから、石斧の柄を取る。何本か取れそうだ。」
シオラム 「おお、いい感じの枝が何本かあったな。分かったぞ。」
テイトンポ 「アコ、階段の降り口はここでいいか?」
アコ 「そうだね。あの樹はどうするの? じゃまにならない?」
テイトンポ 「枝を掃う。あの樹の根は、土留めだから伐ってはいかん。
アコ。シオラムと代わってやれ。」
アコ 「分かった。ドングリの後に、栗も茹ででみた方がいいね。」
ハニサ 「なんだか、お祭りみたい・・・」粘土をこねている。
オジヌ 「うん。賑わってるね。」背負子を作っている。
クリ林。
シロクンヌ 「そうだ、屋根だがな、杉ではなくてヒノキで葺(ふ)こう。ヒノキの皮だ。」
サチ 「父さん、私、ヒノキってよく知らない。」
シロクンヌ 「ここから見える所には・・・生えてないな・・・今度教えるよ。
ところでサチは、さっきから何をやっているんだ?」
サチ 「クリ林のクリの木はね、伐ったら切り株のテッペンを削って綺麗にするんだよ。」
シロクンヌ 「何のために?」
サチ 「石斧で伐ると、テッペンがボサボサでしょう?
このままではヒコバエ(切り株から出る新しい芽)が出にくいの。」
シロクンヌ 「そうなのか! じゃあそれはおれがやるから、サチはカブテの練習をしろ。
伐りっぱなしは駄目なんだな・・・」
サチ 「あっちの方でやってもいい?」
シロクンヌ 「ああ、あまり遠くには行くなよ。」
サチ 「父さーん。シップウが飛んでるよー。」
夕食の広場。
タカジョウ 「山師の爺さん、寝袋と眼木を喜んでくれてな、
これを礼に持って行けって、重かったんだぞ。」
クマジイ 「これはまた見事な黒切りの原石じゃな。」
ヤッホ 「こんなに大きな黒切り石を見たの、おれは初めてだよ。」
ムマヂカリ 「タカジョウも大したものだな。こんな重い物、背負って来たのか?」
タカジョウ 「そうだよ。途中で何度も、割って半分埋めてやろうかと思ったよ(笑)。」
ササヒコ 「これ一個で黒切り包丁が何百も取れそうだ。
シオラム、塩の礼にこれの破片を持って行ってくれ。」
タカジョウ 「こいつだがな・・・
言い伝えでは、遥か昔、あの辺りは黒切りの露頭(原石が地表に出た部分)だらけで、
ムロヤほどの大きさの露頭も珍しくはなかったそうだ。
だから誰でも簡単に黒切りが採れる。
それが次第に採りつくされて、今では地面を掘って探している。
そうなると山師の領域だ。
鉱脈を嗅ぎ分けて掘って行く。
そんな山師達が住み着いたのが黒切りの里なんだが、
これをくれた爺さんなんかも、たいそうな石狂いだよ(笑)。
トコヨクニのあっちこっちを山伝いに歩き回っていたそうだ。
その爺さんが自信をもって、
これだけ肌理(きめ)の良い原石は珍しいと言っていたから、
なかなかの物なのだと思うぞ。」
シオラム 「ではいい土産が出来た。シオ村の連中も黒切りにはウルサイんだぞ。
活きた魚をさばく時は、黒切りの切れ味がものを言うからな。」
シロクンヌ 「その爺さんとやらに、一度会ってみたいもんだなあ。」
ナジオ 「ところで、タカジョウは洞窟は見たのか?」
タカジョウ 「まだなんだよ。
コヨウをアユ村まで送った時にカタグラからその話を聞いて、
早く見てみたいのだがな。
その後山師の爺さんに洞窟が見つかった話をしたら、随分興奮してな。
冬前に、一度訪ねると言っていた。
言い伝えに出て来るお宝だが、爺さんも何かは知らんし、
隠し場所であったと言うだけで、今でも隠されたままなのかは分からんそうだ。」
ハニサ 「マユやソマユとは会ったの?」
タカジョウ 「もちろん会った。ハニサに会いたがっていたよ。
夜宴が待ち遠しいみたいだった。」
シロクンヌ 「ソマユの脚の具合はどうなんだ?」
カタグラ 「温泉には毎日入っておるそうだが、パッとせんのだ。」
シロクンヌ 「テイトンポ、夜宴の時に、一度診てやってくれ。
ひねられたみたいなんだ。」
テイトンポ 「ああいいぞ。その夜宴だが、意外に早く出来そうじゃないか?」
ヤッホ 「そうだな。六日後くらいを目途に一度調整してみようか?」
ムマヂカリ 「みんな早くやりたいだろうからな。」
クマジイ 「その頃なら、ウルシ林の手入れも一段落ついておるじゃろ。」
カタグラ 「それなら六日後の線で、アユ村でも当たってみるか。」
テイトンポ 「それから、オジヌ。明日はスリ足で洞窟まで行け。洞窟からアユ村まではカニ足だ。
向こうで2泊したら、帰りも同じ様に帰って来い。
シジミグリッコを忘れるなよ。」
オジヌ 「やったー! おれ、よその村で泊まるの初めてだ。」
タカジョウ 「コヨウも会いたがっていたぞ。」