第158話 30日目②
曲げ木工房。
イナ 「ここは凄いわねー、いろんな事をやっているのね!
この池はスッポン専用なの?」
テイトンポ 「そうだ。今10匹いるぞ。
順調に増えたら、鍋にして食わせてやるからな。」
イナ 「わー! 楽しみね! 階段を降りた、あっちが木曲げね。
あそこで眼木を作るの?」
シオラム 「そうだ。一個やるよ。」
イナ 「ありがとう! ハニサ、見て! 似合う?」
ハニサ 「似合うよ。葉っぱを付けてみれば?」
イナ 「サチがやってるやつね!」
シロクンヌ 「あそこのカメの水に映してみたらいい。」
イナ 「うん。いろんな葉っぱで試してみよう!」
シロクンヌ 「おれが旅立った後、イナは昼間、ここに居てもらうんだが、ここでは何をやる?」
イナ 「でもここは、テイトンポもいるし、アコとオジヌもいるんでしょう?
だからあたしは、ここの周りで狩りをしようかと思ったのよ。弓矢を使って。
鏑矢(かぶらや)も持ち歩くわよ。」
テイトンポ 「おお、それがいいな。
イナは美人だろう。ハタレが見たら、絶対にちょっかいを出すぞ。
探して回らんでも、向こうから寄って来る。」
シロクンヌ 「それもそうだな。イナは大食いだし、獲物を狩ってもらった方がいいか。」
アコ 「だけど、イナ一人で、危なくはないの?」
イナ 「大丈夫よ。オオカミの群れに囲まれたら、樹に登って鏑矢を放つから。」
ハニサ 「そうじゃなくて、いきなりハタレが3人とかで襲って来たらどうするの?」
イナ 「弓を杖にして、突き倒すだけよ。
ハタレなら、その後に玉を握り潰すけど。」
シロクンヌ 「イナは今までに、何人くらいの玉を握り潰したんだ?」
イナ 「そんなに多くないわよ。30人くらいかしら。」
ハニサ 「30人! 凄いね。
よく握り潰すって言うでしょう? 蹴って潰すのは駄目なの?」
イナ 「そんなの駄目よ。潰れてるとは限らないじゃない。
ちゃんと手でまさぐって、確実に二つとも握り潰すのよ。」
アコ 「何だか凄いね!」
シオラム 「イナは美人だし口説こうかと思っておったが、止めた方がいいな。」
イナ 「何でよシオラム、ハタレだって、ちゃんと口説いてくれたら潰さないわよ。」
シロクンヌ 「そういうのはハタレと言わんがな(笑)。イナは今、一人者なのか?」
イナ 「そうよ。息子も手が離れたし、これからがあたしの青春よ。」
テイトンポ 「ワッハッハ。イナとは会うのは初めてだが、噂通りの豪傑だな。」
イナ 「何言ってるのよ。あたし達ヲウミで会ってるじゃない。
あたしが弟子にして欲しいって何度も頼みに行ったでしょう?」
テイトンポ 「え? おれにか?」
イナ 「そうよ。そしたら、女は弟子にせん!って言われたから、
男のなりをして行ったら、すぐにバレたのよ。」
テイトンポ 「おー・・・あれは20年くらい前だな。
あの時の、10歳の小娘が、イナか?」
イナ 「そう!」
サチ 「おじちゃんって、その時20歳でしょう?
弟子になりたい子供がいるくらい強かったの?」
イナ 「テイトンポはイエの者ではなかったけれど、
体術に関しては、当時のクンヌのすぐ下の腕前だったの。
だから、シロの村の子供達の憧れの的よね。
クンヌは村に居なかったから。
ハタレの乱を鎮圧した時の武勇伝を、みんな知ってたのよ。」
シロクンヌ 「おれはそんなの知らなかったぞ。
テイトンポって、子供達が憧れていたのか?」
イナ 「そうか・・・
ハタレの乱はあたしが6歳の時よ。サッチは4歳よね?
ここでの2歳の開きは大きいかも知れないわね。
乱の鎮圧にシロの村から大勢行ったのよ。
そして鎮圧の様子も、シロの村に逐一伝わって来ていたの。
村の広場でそれを聞いて、みんな一喜一憂していたのよ。
覚えてる?」
シロクンヌ 「そう言われれば、広場に集まって・・・
だけど、内容はまったく覚えていない。」
イナ 「でしょう? あたしは、よく覚えているもの。
当時23歳のクンヌと16歳の弟弟子のテイトンポが、大活躍したのよ。」
アコ 「タカジョウのお母さんを救った、その頃の事だよね?」
イナ 「そう。タカクンヌの宿が襲われた時もそうだし、他にもいっぱいあるのよ。
だけどクンヌは29歳になるまで、シロの村には帰って来られないでしょう?」
シロクンヌ 「ああ。おれ達息子が、10歳になるまでは、って事だな。」
イナ 「だけどテイトンポは、割かし早くに帰って来たの。
当然、人気者よね?」
ハニサ 「やっぱり、テイトンポって凄いんだね!
今度母さんに教えてあげよう。」
イナ 「サッチ、あんた12歳でテイトンポの弟子になったでしょう?
それもテイトンポからの御指名だったって言うじゃない。そうよね?」
テイトンポ 「ああそうだ。おれがシロサッチを指名した。見どころがあったからな。
だがこいつは、すこぶる迷惑そうにしておった(笑)。
とにかく、一年目は反抗的だったぞ(笑)。」
イナ 「あんた、自分の恵まれた境遇に気付いて無かったでしょう?
それがあったから、16歳でウチの方に来て、
あたしに突かれまくっても、怪我しなかったんだよ。」