第160話 30日目④
ハニサのムロヤ。
イナ 「わー! 素敵ねー! ロウソクが灯(とも)るとこうなるのね!
これは、ハニサが考えたの?」
ハニサ 「うん。木はクマジイに磨いてもらったの。」
イナ 「こんなムロヤって、他には絶対に無いわよ。
二人に質問なんだけど、あたしって外とこことでは、何か感じが違って見える?」
シロクンヌ 「いや、特に変わりは無いと思うが。」
ハニサ 「あたしもそう思う。どうしてそんな事聞くの?」
イナ 「やっぱりね。ハニサは感じが全然違うのよ。ムロヤの中では。
クンヌもそう思うでしょう?」
シロクンヌ 「そういう事か! すべての女を美しくするという訳では無いのだな。」
イナ 「ムロヤの中でのハニサの美しさは、ヒトを通り越してるもの。
ここはムロヤと言うよりも、ヤシロと言った方がいいわね。
ハニサはヒトガミなのよ。」
シロクンヌ 「確かにな。アユ村のムロヤの中では、普段のハニサだった。
ここに居る時だけ、特別な雰囲気なんだよ。」
ハニサ 「ヤシロって何? あたし、自分では何も変わってないつもりだよ。」
イナ 「ヒトの住まいがムロヤでしょう。神の住まいがヤシロよ。
イエに伝わる言葉ね。」
シロクンヌ 「ところで、朝、二人でここに荷物を置きに来ただろう?
あの時、何を話していたんだ?」
イナ 「アハハ、やっぱり気になるんだ。」
シロクンヌ 「イナ、しゃべったのか?」
ハニサ 「聞いたよ。お乳を無理やり飲まされてたんでしょう?」
シロクンヌ 「そうなんだ。拒めば、突き倒されたからな。
おれは、16歳で杖に入門しただろう?
イナは子を産んだばかりで稽古には出ておらんかったが、
たまに来ては、無理やりおれに乳を飲ませるんだ。」
イナ 「あたしね、母乳が出過ぎたのよ。子が飲んだだけでは、乳が張って苦しいの。
手で絞っても出ないから、吸ってもらわなければならなかったの。
でも丁度、村に他の子供がいない時期で、だからサッチにお願いしたの。」
シロクンヌ 「お願いなんかされてはおらんぞ。命令されただけだ。
名を尋ねても、オチチって呼びなさいって言うだけだし。」
イナ 「16のサッチは可愛かったのよ。時々アマカミしてきたわよね?」
シロクンヌ 「どうしても歯が当たるんだよ。」
ハニサ 「ねえ、その時って、シロクンヌは反応してた?」
イナ 「どっちだと思う?
そこから先はね、この人が旅に出てから教えてあげる。」
ハニサ 「わー! なんか、凄い話が聞けそう。」
シロクンヌ 「イナ! 有る事無い事ハニサに吹き込むなよ。」
イナ 「二人きりになってから、いろいろ教えてあげるわね。
ところで、外にいた犬は、何という名前なの?」
ハニサ 「ホムラ。ムマヂカリが可愛がっているの。
夜だけ、あそこで番をしてくれる事になったの。
イナは全然寝て無いんでしょう? 疲れてないの?」
イナ 「これくらいは平気よ。でも汗をかいたから、着替えたいわね。」
シロクンヌ 「丁度湯が沸いたから、体を拭けばいい。」
イナ 「二人はいつも、拭き合いっこしてたんでしょう?
今日はハニサの体は、あたしが拭いてあげるね。」
ハニサ 「じゃああたしが、イナの体を拭いてあげる。
シロクンヌは、向こう向いててね。」
イナ 「アハハ、くすぐったい。あったかくて気持ちいいわね。」
ハニサ 「イナの背中って凄いね。
ここ硬いけど筋肉?
あ! 軟らかくなった!
あ! また硬くなった!」
イナ 「これは?」
ハニサ 「あー! 肩甲骨が、立ち上がった!
ああ! 上下や前後にこんなに動くんだね!
・・・はい、こっち向いて。」
イナ 「きゃー! そこも拭いてくれるの?
いつも、そうやって拭いてもらってるんでしょう?」
あ!・・・」
シロクンヌ 「なんだ?」
イナ 「あ!・・・」
シロクンヌ 「どうした?」
イナ 「あっ!・・・」
シロクンヌ 「おいっ!」
イナ 「アハハ。じゃあ交代ね。あたしがハニサを拭いてあげる番。
脱いじゃいなよ。
綺麗ねー! ハニサって、どこもかしこも綺麗ね!
しかも、いい匂いする。」
ハニサ 「なんか、恥ずかしい。」
イナ 「可愛いわね。もっとよく見せて。いい匂いね。」
ハニサ 「あ!」
シロクンヌ 「なんだ?」
ハニサ 「あ!」
シロクンヌ 「どうした?」
ハニサ 「あーっ!」
シロクンヌ 「おい! おれはどうすればいいんだ!」