第161話 31日目①
朝の広場。
ヤッホ 「アニキ、何か洞窟に持って行く物は無いかい? あれば先に運んでおくよ。」
シロクンヌ 「おれ達3人分の毛皮が包んであるんだが、重くは無いが、かさばるがいいか?」
ヤッホ 「いいさ。大ムロヤに運び込んでおいてくれよ。」
ハニサ 「いよいよ明日だね! 楽しみだなー!
あたし、ソマユと薬湯に入ろう。」
ヤッホ 「水場の所に、今日、目隠しのついたてを立てるから、安心して入れるよ。
じゃあおれは、他の人にも聞いてくるから。」
サチ 「おはよう。明日、洞窟だね!」
イナ 「みんな楽しみにしてるのね。」
シロクンヌ 「第一回目の夜宴だな。これから、年に何度かやるんだろう。」
イナ 「それならあたし、良い時に来たのね。
今日はあたし、一日かけて村の周りを見て回ろうと思ってるの。いいかしら?」
シロクンヌ 「ああ、そうしてくれ。サチは父さんと、ヒノキの皮を採りに行くぞ。」
サチ 「はい。ヒノキは見つけてあるの?」
シロクンヌ 「父さんの以前の作業場の近くに太いのが何本かある。
二抱え程のもあるぞ。」
イナ 「やっぱりこのグリッコ美味しいわ。
汁も美味しいわね。これ、黒マイタケかしら。汁のおかわりして来よう。」
ハニサ 「イナって、あんなによく食べるのに、痩せてるよね。」
シロクンヌ 「チョコチョコと、良く動き回っているからな。」
オジヌ 「痛ててて。」
ハニサ 「どうしたの?」
オジヌ 「早朝稽古で、テイトンポにグチャグチャにされた。」
シロクンヌ 「アコがオメデタだから、テイトンポ直々の指導だな。背負子は作れるのか?」
オジヌ 「それは大丈夫さ。木工をやってる時は、痛みなんか忘れてるもん。」
ハニサ 「オジヌ、今度、ソリを作りなよ。」
オジヌ 「ソリって?」
サチ 「雪の上を滑って荷物を運ぶ台。
重い物はソリに乗せて、そのソリを引いて運ぶの。」
オジヌ 「ふーん。どんな形なの?」
シロクンヌ 「ミヤコに行って、それを確かめて来る。
オジヌは自分なりに、どんな形が良いか考えてみろよ。」
オジヌ 「うん。滑る台かー。面白そうだね。」
シロクンヌ 「そうだ、オジヌ、ウマを作っておくと、作業がはかどるぞ。」
オジヌ 「ウマって?」
木を削るとするだろう?
木を左手で持って右手で削るのではなく、ウマに木を挟む所を作る。
そしたら両手で削れるだろう?
丸太で作るんだが、栗の木の端材が出るから、それで作ってやるよ。」
オジヌ 「ありがとう。ウマかー、どんなのだろうな・・・」
イナ 「いろり屋に行ったら、コノカミがウサギのパリパリ焼きくれた。
何かの粉を掛けてくれたんだけど、美味しいのよ。何の粉かしら?」
ハニサ 「キッコじゃない?」
シロクンヌ 「ああ、キッコだな。おれが持って来たんだよ。
南の島で生る、酸っぱい木の実の皮だ。」
イナ 「そう言えば、クンヌはタビンドだったわね。
これからもタビンドを続けるの?」
シロクンヌ 「まったく止めはせんが、今まで通りとはいかんだろうな。」
イナ 「来年、ヲウミには顔を出すんでしょう?」
シロクンヌ 「そのつもりだ。イナはおれの息子達とは会っていたのか?」
イナ 「あたしの息子の三つ下だから、よくうちの息子がシジミ採りに連れ出していたわよ。」
オジヌ 「え? イナって子供がいるの?」
イナ 「12歳の息子が一人いるの。フジに置いて来たけどね。」
オジヌ 「イナって何歳なの?」
イナ 「30よ。」
オジヌ 「えー! おれ、アコと同じくらいだと思ってた!」
イナ 「アコっていくつなの?」
オジヌ 「20歳。」
イナ 「オジヌ、あんた良い子ね。パリパリ焼きを一切れあげるわ。
クンヌの子は、三人共なかなか好評版よ。
一人がサチとトツギになるのよね?
それぞれに可愛い顔してるから、将来は男前になるわね。
サチ、会ってみたいでしょう?」
サチ 「うん。」
イナ 「もう、サチったら赤くなって照れちゃって可愛いわねえ。」
サチ 「父さん、ブリ縄は向こうで作るの?」
イナ 「あ! 話を逸らしたなー、って、サチ、ブリ縄なんて使えるの?」
サチ 「木登りは、いろいろ練習したの。」
オジヌ 「ブリナワって、何?」
サチ 「長い縄の両端に、半回し(35cm)よりも少し長いくらいの木の枝を結ぶの。
木登りの道具。
登ってる途中でも、樹の幹の横で体を支えられるから、高い所の枝を切ったりできるの。
おじちゃんも上手だよ。」
オジヌ 「ねえ、おれにも教えて。」
サチ 「いいよ。工房の近くの樹で練習できるよ。
樹の高い所で吊り寝(ハンモック)するのに便利だよ。」
シロクンヌ 「縄を持って行って、向こうで作るか。イナはブリ縄を使えるのか?」
イナ 「使えるけど、男の人がいたら、使えない。丸見えになっちゃうから。」
サチ 「女登りしないの?」
イナ 「女登りって何よ。」
サチ 「服のスソを縄や手で挟みながら登るの。全然見られないよ。」
イナ 「そんな技、知らなかった。今度教えて。
ってか、サチってやっぱり、アヤクンヌなんだね。」