第163話 31日目③
夕食の広場。
ハニサ 「いよいよ明日かー。絶対、いい天気だよね?」
シロクンヌ 「おそらく晴天だぞ。見晴らし岩の上に寝転んで、星空を眺めるか。」
ハニサ 「いいね! それやろうよ。」
エミヌ 「いいな、ハニサは。私もカッコイイ人とそういう事したい。」
オジヌ 「アユ村からも何人か来るんでしょう? 姉ちゃん、その中から見つけなよ。」
エミヌ 「そうだ! そうしよう!」
シロクンヌ 「サチ、膝に来い。サチとは、一緒に薬湯に入るぞ。」
サチ 「はい。」
ハギ 「タカジョウが虫追い草というのをいっぱい持っていて、
今日、湧き水平でそれを焚いたんだ。
すると、煙がいっぱい出てね。
そしたら、小さい飛ぶ虫がほとんど居なくなった。
明日もやるって言ってたから、ミズナラの樹で吊り寝しても快適だと思うよ。」
ヤッホ 「それでいて、涼虫(スズムシと読みます。鈴虫のことです。
当時、金属の鈴は無かったので。)は大事に飼ってるんだよな。」
ハギ 「そうそう。大量に飼ってる。
卵から孵(かえ)したと言っていたから、何年も飼ってるんだぞ。
特製のカゴまで作って、いい声で鳴いているのを、うっとりと眺めていたりするんだよ。」
ヤッホ 「サチはまだ、シップウの狩りを見てないだろう?」
サチ 「うん。ヤッホは見たの?」
ヤッホ 「やっと見たよ。今日、川狩りを見た。
飛んで来て、魚を掴むんだ。かっこいいぞ。
アニキもまだ見てないかい?」
シロクンヌ 「そうなんだ。明日、それを見るのも楽しみでな。」
イナ 「あー、お腹減った。ドングリ小屋にカモを吊るしてたら遅くなっちゃった。」
ハニサ 「何羽獲ったの?」
イナ 「6羽。そのうち、あたしが2羽。」
シロクンヌ 「昼から出かけたって言うじゃないか。よくそんなに獲ったな。」
イナ 「楽しかったわよ。川から山手に行くと、小さな沼池がいくつも在るのね。
それぞれに10羽ずつくらいカモがいて、それをかなり離れた場所から、
二人同時に矢を射たの。
あれだけ離れていると、コノカミには敵わないわね。」
ヤッホ 「父さんは、遠くの物を射るのが得意なんだよ。」
イナ 「矢作りも上手よね。気持ち良いくらい、真っ直ぐ飛ぶもの。」
シロクンヌ 「それにしては、服も靴も汚れておらんが?」
イナ 「獲物は全部、コノカミが取りに行ってくれたの。
だからコノカミの服は、下だけじゃなくて、上もぐちょぐちょ。
洗濯してあげるから脱ぎなって言ったんだけど、恥ずかしがって脱がなかったわね。」
シロクンヌ 「そりゃそうだろう。」
イナ 「また行く約束したの。クンヌがこっちに居る間ならいいでしょう?」
シロクンヌ 「ああ、いいさ。温泉でも行って来いよ。」
イナ 「いいわね。今度誘ってみよう。」
ヤッホ 「お、おれも温泉に行きたいが。」
ハニサ 「変な事すると、潰されちゃうよ。」
ヤッホ 「ヒエ! そうだってな!」 笑いが起きた。
シロクンヌ 「そう言えば、ヤシムを見かけないが・・・」
ヤッホ 「知らないよ。どこかで食べてるんじゃないかな?」
ハギ 「ナクモは?」
エミヌ 「明日、村を出たら当分帰って来ないみたいだから、
今夜は、お姉さんとお兄さんと食べるって言ってたよ。
カタグラと二人で、洞窟で冬を越す覚悟みたいだよ。」
ハニサ 「明日は二人のお祝いだね。」
ハギ 「お祝いは、あさっての予定なんだよ。」
イナ 「でも、いくら好き合っていたとしても、二人きりって、寂しくないのかしら?」
ハギ 「まあ、おれなんかも、頻繁に行き来するからね。」
ヤッホ 「それに、ヒトは二人でも、生き物は多いよ。
スズムシはタカジョウが置いて行くし、あと仔犬のゴン。」
ハギ 「あと、今日、タカジョウがカラスのヒナを一羽、持ち帰って来てたな。
親鳥がシップウと喧嘩して、居なくなったみたいなんだ。」
ヤッホ 「カラグラに、育てろって言ってたよな。言葉を話すからって。」
エミヌ 「なに? 言葉を話すって?」
ヤッホ 「タカジョウが言うには、カラスは飼えば、言葉を話すらしいよ。」
エミヌ 「えー! 鳥が、ヒトの言葉を話すの? 鳥と話が出来るの?」
ヤッホ 「そうだろう? おれもそう思ったんだが、タカジョウがそう言うんだよ。」
サチ 「ミヤコにもいたよ。口真似するカラス。タカのイエの人が飼ってた。
凄く賢いカラスで、いろいろな芸をしてた。ミヤコの人気者なの。
通り沿いのカゴの中にいて、行ってきまーす、って言うんだよ。」
エミヌ 「へー! 面白いねー! 口真似をするっていう事ね。他にも何かしゃべるの?」
サチ 「わしは知らんっ! って言うの。」
イナ 「アハハハハ。」
テイトンポ 「おお、楽しそうだな。明日の段取りだが、シロクンヌとイナが先頭だ。
おれとシカダマシが最後尾を行く。サチは連絡係で、おれ達と行く。
背負子一つに鏑矢一つをつける。緊急の合図用だ。」
シオラム 「おれは基本、クマジイを背負う。クマジイが歩きたいと言えば、他の者を背負う。
イナは基本、ヌリホツマを背負ってもらいたいのだが、いいか?」
イナ 「いいわよ。」
テイトンポ 「おれはクズハやエニを背負う。」
ハニサ 「アコは歩くの?」
テイトンポ 「アコはおれが抱いて行く。タヂカリが疲れたら、アコと交代だ。
明日は早めに出るぞ。」
ハニサ 「アコ、ふわふわしてる?」
アコ 「してる。」