第164話 32日目①
早朝の広場。
イナ 「良かったわね、ハニサ、良い天気で。」
ハニサ 「うん! 山がはっきり見えるね!」
イナ 「今夜は、星も綺麗だと思うわ。」
ハニサ 「うん! シロクンヌ、一緒に見ようね!」
シロクンヌ 「ああ、一緒に見よう。ハニサは北星を知ってるか?」
ハニサ 「知ってる。北に在って、動かない星。ななつ星から探すんだよね?」
5000年前はポラリスは真北には無かった。
これは地球の歳差運動によるもので、
14000年前は、こと座のベガ(おりひめ星)が北極星で、
地球の歳差運動は、約25800年で一周する。
ちなみにポラリスもトゥバンも、北斗七星をもとにして見つける事ができる。
イナ 「ななつ星に、双子星が有るのは知ってる?」
ハニサ 「えー、それは知らない。」
イナ 「今夜は寝待ち月(19日目の月、出るのが遅い。)でしょう?
夜宴が終わってから二人で眺めても、きっとまだ月は出ていないわよ。
月明りが邪魔をして、星が見えなかったりするからね。
クンヌは星の事も詳しいのよ。」
ハニサ 「わー、楽しみだー! 色々教えてね!」
シロクンヌ 「教えてるうちに、ハニサは寝てしまうかも知れないぞ。」
ハニサ 「そんな事無いよ! ちゃんと起きて聞いてるもん!」
シロクンヌ 「でも逆に、見晴らし岩で、お月見をしてもいいよな。」
ハニサ 「そうだね! 来年の秋は、お月見をしようか!
その時には、こんなにちっちゃいアマテルがいるんだよ。」
サチ 「おはよう! アマテルの話をしてたの?」
ハニサ 「お月見の話をしてたんだよ。
来年は、見晴らし岩でお月見をしようかって。
サチ 「へー、いいなー!」
シロクンヌ 「どうしたヤシム? 最近、元気が無いみたいだが。」
ヤシム 「そんな事は無いよ。私は普通だもん。」
シロクンヌ 「そうか、今日はハニサと交代で、ヤシムを背負ってやるよ。」
ヤシム 「シロクンヌはいつだって、そうやって私に優しいだけじゃん。
優しくしておいて、ただそれだけっていうのなら、優しくなんてしないでよ!」
そう言うと、ヤシムは一時、さめざめと泣いた。
シロクンヌ 「どうしたんだ、ヤシム・・・」
ヤシム 「ごめんなさい、シロクンヌ。
サチ、ごめんね、びっくりしたでしょう?
私、夜宴には行かない。タホと留守番してる。」タホと二人で、ムロヤの方に歩き出した。
ハニサ 「サチ、急いでヤッホを呼んで来て。」
ヤッホ 「タホはおれが連れて行くよ。」
ヤシム 「だめよ、私の目が届かないのに。」
ヤッホ 「だったらヤシムも来ればいいじゃないか。」
ヤシム 「私は行かないの。」
ヤッホ 「昨日まで、行くって言ってたくせに、勝手な事言うなよ。」
ヤシム 「この前洞窟に行った時、すごく歩き疲れたの。だから行きたくないの。」
ヤッホ 「だからアニキが背負ってやるって言ったんだろう?
そしたら怒り出したって言うじゃないか。」
ヤシム 「シロクンヌはハニサを背負っていればいいのよ。
どうして私まで背負う必要があるの?」
ヤッホ 「だったらおれが背負ってやるよ。」
ヤシム 「ヤッホにそんな事できるはず無いじゃない。
すぐに疲れちゃうよ。」
ヤッホ 「馬鹿にしてるのか?
タホまでは無理だけど、ヤシム一人くらいなら、やすやすと背負って見せるよ。
アニキ、タホは頼んでいいんだよね?」
シロクンヌ 「ああいいぞ。以前からそう言ってたしな。」
ヤシム 「ハニサに腕相撲で負けたくせに。ヤッホには無理よ。」
ヤッホ 「背負うんだから、腕は関係ないだろう。」
ヤシム 「私、重いのよ?」
ヤッホ 「知ってるよ。岩のように重いよな?」
ヤシム 「そこまで、重くは無いわよ。」
ヤッホ 「ぐずぐず言ってないで、ほら、この背負子に座ってみろ。」
ヤシム 「知らないからね。」
ヤッホ 「よっこら、しょーっと!」
ヤシム 「もう! 大袈裟な掛け声やめてよ。」
ヤッホ 「アニキ、おれ、このまま出発するよ。どうせみんなに追い抜かれるから。」
シロクンヌ 「分かった。無理するなよ。」
タマ 「ちょうどトロロがすり上がったよ。
担ぎ手は、ズズッとすすってお行き。
精が付くから。
ヤッホもズズッとやって行きな。」
ヤッホ 「旨そうだな。」 ズズッとやった。
テイトンポ 「アコ、今の内にこの縄で、こっそりヤッホの腰を縛ってやれ。」
アコ 「ヤッホ、ちょっと御免よ。」
ヤッホ 「ん? このトロロ、凄いトロロだな・・・
よし! ヤシム、出発するぞ!
ヤシムなんて軽いもんだ。
こんなに軽いんだったら、いつでもおれが背負ってやるさ。
今度二人で・・・」