第166話 32日目③
下の川の川沿いの道。
エニ(テイトンポに背負われている) 「奥の洞窟って場所、聞いてるだけで怖そうよね。」
クズハ 「寒いらしいわよ。声も響くって。」
エニ 「ねえテイトンポ、奥の洞窟にも行っていいんでしょう?」
テイトンポ 「ああ、いいが、行くまでの石ツラ道は歩きにくいぞ。
それから、奥の洞窟に入って、右手には行かん方がいいな。
あと、地面は平では無いし滑りやすい。転ばんように気をつける事だ。」
スサラ(ムマヂカリに背負われている) 「入口の洞窟と石ツラ道の堺って、普段はふさいであるの?」
ムマヂカリ 「ふさいである。
子供が一人で入り込むと危険だし、冷気が来て、寒くてかなわんのだ。
そうは言っても、岩室には頻繁に行き来するから、
大人であれば簡単に外せる板戸みたいな物でふさいであるんだ。」
アコ(テイトンポに抱かれている) 「その板戸は、石ツラ道側からも取り付けできるの?」
ムマヂカリ 「いや、付けるのは無理だと思うぞ。ピッタリとは付かんな。
外すのは、押せば簡単に外れるが。」
サチ 「おじちゃん、私、前の様子、見て来ていい?」
テイトンポ 「ああいいぞ。アコ、タヂカリと交代するか。」
クズハ 「走って行ったわ。サチは元気ね。」
カイヌ 「クマジイ、これどう? 面白い形してるでしょう?」
クマジイ(シオラムに背負われている) 「ほう、どれ、よう見つけたな。」
シオラム 「カイヌは流木が好きなのか?」
カイヌ 「うん。今度また、クマジイと拾いに行くんだ。」
クマジイ 「おや、サチが走って来たが・・・
抜かして行きよったな・・・」
シオラム 「この先にリンドウが生えておるんだ。そこで花を摘んでおるよ。」
シロクンヌ 「どこを走る?」
エミヌ 「私、後ろしか見えないもん。逆向いて。」
シロクンヌ 「そうか。これでいいか?」
エミヌ 「あ! この先で、飛び石みたいに岩が並んでるから、川の向こう岸に行ってみて。」
シロクンヌ 「あれだな。行くぞ。」
エミヌを背負ったまま、シロクンヌは猛烈な速さで駆け出した。
エミヌの絶叫が谷合に響き渡った。
イナ(ヌリホツマを背負っている) 「何? クンヌって、あんな事できるの?
あたしも後でやってもらおう。」
ハニサ 「シロクンヌの背中って全然揺れないんだよ。
あたし、走ってる背中で、何度も居眠りしたもん。
背負子じゃなくて、背負い帯の時だけど。」
ヌリホツマ 「二人でスワに旅をした時じゃな。」
ハニサ 「うん。あと、岩の温泉に行った時も。」
イナ 「いろいろ行ってるんだ。いいわね。」
ハニサ 「そうだ! イナ、見晴らし岩から下りる時にやってもらうといいよ。
お腹の中が、フーッとなるよ。」
イナ 「そうなんだ。やってもらおう。
オジヌ、念の為にテイトンポに伝えて。絶叫したけど問題無いって。」
オジヌ(タホを背負っている) 「分かった。あ、サチが走って来た。」
ヤシム(道端の石に腰掛けている) 「今のって、エミヌの声じゃなかった?」
ヤッホ(ヤシムの横に腰掛けている) 「そうだな。きっとアニキが背負って何かしたんだぞ。」
ヤシム 「そんなに遠くじゃなかったわよね?」
ヤッホ 「ああ、もうみんな来るな。」
ヤシム 「私、ヤッホがこんなに背負ってくれるとは思わなかった。」
ヤッホ 「トロロをすすったから、力が湧いたんだ。
今度、タホを連れて、岩の温泉に行ってみないか?」
ヤシム 「うん! 行く! タホ、きっと喜ぶよね!
あ! サチが来た。サチー。」
サチ 「はい、これヤシムにあげる。」
ヤシム 「わー! リンドウね! 頭にかぶるの?」
サチ 「そうだよ。やってあげる。」
ヤッホ 「おー! 綺麗だよ!」
ヤシム 「ほんと? 川のあそこなら映るかしら?」
ヤッホ 「映りそうだな。見てみろよ。」
再びエミヌの絶叫が響き渡った。