第169話 32日目⑥
湧き水平。昼食。続き。
ヌリホツマ 「使っておるのは、すべてこの近辺で採れる野草じゃ。
珍しい物なぞ、一つも無い。
その季節になれば、その場所で、毎年得られる物じゃな。
その実や花や葉や根や種を、乾燥させたり、煎(い)ったりする。
そして10種類以上、混ぜ合わせる。それを袋に詰めるんじゃ。」
テイトンポ 「なるほどなあ。
おれは、余程何か特別な物が使われておると思ったのだが、そうでは無いのだな。」
クズハ 「特別なのは、物ではなくて、知識の方なのね。」
テイトンポ 「そういう事だな・・・
おれはソマユ達の後で浸かってみたんだ。
匂いも良いが、何と言うか、芯からくつろげる。
だから、ウルシ村の何処かに、湯浴び場を造ったらどうかと思ったんだよ。」
エニ 「そうよね。うちの村は、近くに温泉が無いものね。
毎日とはいかなくても、何日かに一遍でも入りたいわよね。」
ヌリホツマ 「わしの自信作は今4種類ある。
今使っておるのは、匂いの良い物じゃが、効能はそれぞれ違う。
湯上りが、ポカポカ暖かいのもあるぞよ。」
テイトンポ 「薬湯の素(もと)を大量に仕込む事は可能なのか?」
ヌリホツマ 「たやすい事じゃ。そこらに普通に生える物から作るんじゃからな。
サラがおるから、言えば採って来てくれるじゃろう。
そうじゃ! テイトンポよ、工房に蒸し室を造ると良いぞ。」
テイトンポ 「ムシムロとは何だ?」
ヌリホツマ 「黒切りの山師の間に伝わるやり方でな、汗をかいて疲れを落とすんじゃよ。
人一人がゆっくり入る事が出来るくらいの横穴に、
焼き石と共に入って入口をふさぐんじゃ。
そして焼き石に薬湯を掛ける。湯気でムロの温度を上げるんじゃ。
暑くて汗が出るほどにな。
ゆげを吸い込み、たっぷり汗をかいたら、冷水を浴びて仕上げじゃ。
横穴で無くとも、ほれ、あそこの燻し小屋、あれの少し大きい物で良い。」
サチ 「ミツ、来てごらん。ミズナラのあの葉っぱ、綺麗でしょう?」
ミツ 「うん。赤くて綺麗だね。」
サチ 「はい。私、三つ持ってるから、一個あげる。
採って来るから、その眼木に付けてごらんよ。」
ミツ 「わー! ありがとう! 私、眼木が欲しかったの。サチも一緒に付けよう。
ねえ、夜は折り葉を教えて。私、スズメが折れる様になりたい。」
サチ 「じゃあ、サクラの落ち葉をいっぱい拾おうね。」
カザヤ(24歳・男) 「シロクンヌ達がアユ村に来た時、
おれは丁度、黒切りの里に出向いておったのだ。」
テミユ(22歳・女) 「私も一緒に行っていたの。
私達が帰って来た時は、シロクンヌ達の話題で持ち切りだったのよね?」
カザヤ 「そうだったよな。村に女神が来たって言うし、沈んだ村が見つかっておったし。
女神を護る勇者が、三人組を退治したって言うし、
女の子の髪の毛が短くなっておったしな。」
シロクンヌ 「ハハハ。サチの真似をして、髪を切っていたな。」
カタグラ 「カザヤはおれと同年で、一番の友人なんだ。
エミヌに紹介しようと思ってな。」
エミヌ 「こんにちは。」
カタグラ 「なんだエミヌ、それだけか?」
エミヌ 「だって、綺麗な彼女が居るんだし・・・」
テミユ 「えー! 私、妹よ。兄さんは、彼女、いないわよ。」
エミヌ 「えっ? そうなの?
こんにちは! エミヌです。よろしくお願いします。」
カザヤ 「ハハハ。よろしく。」
イナ 「良かったわね、エミヌ。」
エミヌ 「どうしよう。緊張して来ちゃった。」
ナクモ 「ウフフ。らしくないよ。」
テミユ 「兄さん、さっきからエミヌの事を、可愛い子だなあって言ってたわよ。」
エミヌ 「え? ほんと? わー!」
タカジョウ 「どうしたエミヌ? 顔が真っ赤だぞ。
シロクンヌ、今後だが、いっその事、一度全員で奥の洞窟に行こうと思うんだ。
そしてその後は、行きたい者は、おれかシロクンヌか、カタグラかハギか。
その4人の誰かに、必ず声を掛けてから行く、としてはどうだろう?」
シロクンヌ 「そうだな。その方が良さそうだ。」
タカジョウ 「小さな篝火(かがりび)が5ヶ所に用意してあるのだが、
みんなが出た後に、消し壺で消そうと思っている。
次に入った者は、タイマツで点ける事になる。
タイマツは、シロクンヌからもらった槙の木で作った。
ダケカンバはススが凄いからな。」
シロクンヌ 「みんなが居るうちだけ、焚(た)くと言うことだな?」
タカジョウ 「そうだ。それから石ツラ道だが、今朝、ナジオと二人でロウソクを30個、配置した。
それで試しに点けてみたんだが、
なかなか幻想的で、ハニサのムロヤを思い出したよ(笑)。」
サチ 「タカジョウ、カラスってどこにいるの?」
タカジョウ 「燻し小屋の向こうに、枝からぶら下がってるカゴが見えるだろう?」
ミツ 「うん、なんていう名前なの?」
タカジョウ 「名前か? 確かカタグラは、クロって呼んでたな。」
サチ 「キャハハ、そんまんまだ。ミツ、見に行ってみよう!」
ミツ 「うん。」
カタグラ 「サチもミツも嬉しそうにハシャギ回っておるな(笑)。」
シロクンヌ 「サチは昼メシを食べたのかな?
見るたびに、樹に登っていたが・・・
それにしても、サチに友達ができてよかったよ。」