縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第170話 32日目⑦

 
 
 
          奥の洞窟。
 
テミユ  「えー! みんな、こんなとこ滑ったの?
      上に上がると凄く怖いんですけど。」
ソマユ  「大丈夫よ。滑ってる間も怖いんだから。」
アコ  「アハハ。励ましにも、慰めにもなって無いな。」
ハニサ  「でも、ソマユは結構飛んだよね。」
マユ  「そうそう。絶叫しながらも結構飛んだね。」
テミユ  「よし! じゃあ私も飛ぶぞ! 行きます!」
 
    テミユの絶叫が響き渡った。
 
ハギ  「お、来た来た。」
サラ  「飛べっ!」
ヤッホ  「おー! 結構行ったな。」
ヤシム  「みんな度胸があるわね。アコもやってみたいでしょう?」
アコ  「うん! 産んだら、絶対やる!」
 
 
          入口の洞窟。
 
クズハ  「寒くて長く居られなかったわ。」
エニ  「今の内に薬湯に入りましょうよ。テイトンポも一緒にどう?」
テイトンポ  「いや、お、おれは・・・さっき入ったからな。」
クズハ  「いいじゃない。あなた、せっかくだから、三人一緒に入りましょうよ。」
エニ  「そうよ。こんな事、滅多に無いんだから。」
 
 
          奥の洞窟。
 
クマジイ  「次は、注目のイナじゃな。」
シオラム  「イナは飛ぶと思うぞ。」
イナ  「漕ぐのは無しなのよね?」
シロクン  「ああ、最初の一回だけだ。」
イナ  「じゃあ、その最初の一回が勝負ね。肩甲骨を開放するぞー。」
ムマヂカリ  「テミユの引き上げ完了ー。イナ、いいぞー。」
テミユ  「怖かったー! でも面白かった!」
ソマユ  「クセになるわよね。」
イナ  「よし! 気合入った! 行きまーす。せいっ!」
ハギ  「速い!」
ヤッホ  「こりゃ、行くな!」
アコ  「行った!」
 
    おー! と言う声が渦巻いた。
 
シロクン  「今までで一番だな。」
エミヌ  「こないだのサチより、飛んだね。」
ヌリホツマ  「凄いおなごじゃな。」
マユ  「カッコよかったー!」
ナジオ  「イナの着地がここだから、横に持って来て、ここと。
      大記録だな。よし、ロウソク置いた。
      ここが、最高記録だ。」
ヤッホ  「次はアニキだ。そしてオジヌ、最後がサチだな。
      アニキは、エミヌを抱いて滑るんだろう?」
ナクモ  「二人一緒って初めてね。」
ムマヂカリ  「イナの引き上げ完了ー。シロクンヌ、いいぞー。」
イナ  「ふー、面白かった!
     ロウソクの・・・ここまで飛んだのね。」
オジヌ  「イナがこんなに飛ぶとは思わなかった・・・」
イナ  「まあまあでしょ? オジヌも頑張りなよ。
     クンヌがエミヌを抱いてどこまでやるか・・・見ものね。」
ハニサ  「シロクンヌ、頑張ってー!」
カザヤ  「エミヌも頑張れー!」
シロクン  「エミヌ、おれの上に来い。尻を腹の上に乗せろ。」
エミヌ  「わー! ドキドキする。しっかり抱いててね。」
シロクン  「脚を伸ばして、おれの脚に乗せろ。背中をおれの胸に付けろ。
        手は腹の上で重ねていろ。」
エミヌ  「これでいい?」
シロクン  「よし! 一回漕いだら、すぐ抱えてやる。
        いいか? 本気で行くぞ。
        イナに負ける訳にはいかんからな。」
エミヌ  「うん!」
シロクン  「行くぞ。しゃー!」
 
    エミヌの絶叫が響き渡った。
 
サチ  「父さん、凄い!」
オジヌ  「速い! もう来た!」
エミヌ  「速いぃぃぃー!」
ハニサ  「飛んだ!」
 
 
          入口の洞窟。
 
クズハ  「気持ち良かったわね。」
エニ  「素敵だったわー! うっとりしたもの。」
クズハ  「ねえ、春になったらアケビの谷に、山ブドウの蔓の皮を剥ぎに行くでしょう?
      あなたも一緒に行きましょうよ。三人で行って、岩の温泉に入るの。
      高い所からお湯をチョロチョロ掛けてもらうと、くすぐったくて良いらしいわよ。」
エニ  「良いわね! そうしましょう。まあ、真っ赤になってる。テイトンポって素敵。
     私、大好きになったわ。」
 
 
          奥の洞窟。
 
オジヌ  「姉ちゃんは恥ずかしいな! 初対面の人におぶわれて。」
エミヌ  「だって凄かったんだもん。腰が抜けたわよ。」
カタグラ  「だがオジヌ、カザヤもまんざらでもなさそうだぞ。」
カザヤ  「おお、軽いもんだ。それにしても凄い飛びだったな。
      あれで腰が抜けたとしても、エミヌを責めることは出来んぞ。」
シロクン  「すまんな。イナの滑りを見たら、火がついてしまってな。」
ヤッホ  「アニキが本気出すとああだよ。」
イナ  「あたしも、クンヌがあそこまでやるとは思わなかったわ。」
ハギ  「なんだかんだ言っても、やっぱシロクンヌが一番だったなあ。」
サチ  「父さんが一番だった。」
ハニサ  「サチ、嬉しそうね(笑)。」
ミツ  「私、サチがあんなに飛ぶなんて、びっくりした。」
サチ  「今回はオジヌに負けちゃった。」
オジヌ  「でも僅差の判定だったから。イナには大差負けしちゃったね。」
アコ  「あたしもやりたかったなー。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。