縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第171話 32日目⑧

 
 
 
          見晴らし岩。
 
テイトンポ  「おれはここでシップウを見たかったんだ。浮いておるな。」
シオラム  「シップウだけを見つめていると、船酔いの様になるぞ。」
テイトンポ  「確かにな(笑)。翼を広げれば三回し半(245cm)だと言うが、もっとデカく見える。
        それにしても、気持ち良さそうだな。」
タカジョウ  「シップウは、ここが好きなんだ。今は気を高めているんだよ。
        もう少したったら、狩りに出向くと思うぞ。」
シオラム  「何を狩るんだ?」
タカジョウ  「今日のところは、シップウ任せで行こうかと思っている。
        隣に高い山があるだろう。
        気が高まったら、おそらくあの山の上に移動すると思う。」
 
イナ  「わー! 景色が一望できるわね!
     あれがシップウね。すごそこで浮いてるわよ。大きいわね。」
シロクンヌ  「三回し半だと言うぞ。今日は狩りはしないのか?」
タカジョウ  「もうすぐだ。何を狩るかは、見てのお楽しみだな。」
ハニサ  「シップウの狩り、見るの初めて。わくわくするね。」
ヤシム  「その肉は何なの?」
タカジョウ  「キツネの肉だ。シップウの好物だよ。狩って来た獲物と交換に食べさせてやるんだ。」
シオラム  「シップウの姿を見て、みんな続々と登って来たな。」
 
エミヌ  「かっこいい! 羽ばたかずに、浮いてるよ。」
カザヤ  「見事なワシだな。エミヌくらいなら、持ち上げるんじゃないか?」
 
サチ  「ミツ、シップウが浮いてるよ。早く早く。」
ミツ  「待って。葉っぱを落としちゃった。」
 
スサラ  「わー! 登って来る時も景色が良かったけど、こっち側の見晴らしが凄いのね。」
ムマヂカリ  「あの遠くに見えるのがスワの湖だ。その向こうに夕陽が沈む。」
スサラ  「綺麗でしょうね!」
タヂカリ  「あっちに行って、もっと近くでシップウを見てもいい?」
スサラ  「ちゃんと下を見て行くのよ。」
 
テイトンポ  「お! 動き出したな。」
イナ  「高く上がって行くわね。」
ハニサ  「見る見る小さくなったよ。」
シオラム  「本当だ。あの山の上に移動する様だな。」
ヤッホ  「あの山で、狩りをするんだね。」
ヤシム  「タホ、見える? 小さくなっちゃったね。」
タカジョウ  「ここからは、結構早いと思うぞ。」
シロクン  「山の上の方を旋回しているんだな。」
サチ  「あ! 急降下した!」
テイトンポ  「何かと格闘しておる様だぞ。」
ハニサ  「飛び立ったんじゃない? 必死に羽ばたいてるよ。」
シロクン  「何か獲ったな。こっちに来る。」
サチ  「大きいよ。凄く重そう。」
シオラム  「でかいなあ。何だあれは?」
ムマヂカリ  「カモシカだ! カモシカの首を掴んでおるんだ。」
タヂカリ  「うわあ、こっちに来るよ。」
 
    シップウは、見晴らし岩よりもかなり高い位置でカモシカを捕獲し、
    斜め下に一直線で見晴らし岩を目指していた。
    カモシカほどの大物になると、捕獲場所から高くは運べないが、
    下方向へなら運ぶことができるのだ。
 
タカジョウ  「オスのカモシカだ。気をつけろ。まだ生きてるぞ。」
ハニサ  「どんどんこっちに来るよ。」
タカジョウ  「ここで放すから、取り押さえる。おれから離れてくれ。」
シロクン  「ハニサ、こっちだ!」
 
ミツ  「怖いよ、こっちに来る。」
サチ  「ミツ、こっち。離れよう。」
 
テイトンポ  「タカジョウから離れろ!」
 
エミヌ  「怖い!」
カザヤ  「エミヌ、こっちだ!」
 
イナ  「来た!」
 
    シップウがあっと言う間に近づいて来て、タカジョウのそばにカモシカをドサッと落とした。
    勢い付いたカモシカは、岩の上を一回転して横たわったが、立ち上がるそぶりが見える。
    タカジョウは素早くカモシカに飛び付き、左手で角を押さえ、右肘を後頭部に振り下ろした。
    そして、右手に持った黒切りでカモシカの頸動脈を切った。
 
タカジョウ  「ムマヂカリ、手伝ってくれ、ここで血抜きする。
        コヨウ、その器を取ってくれ。それに血を溜める。」
 
    パチパチと、まばらに拍手が起こり、すぐに大拍手となった。
 
シオラム  「凄いものを見た!」
アコ  「タカジョウ、相変わらずかっこよかったよ。」
 
ミツ  「怖かったけど、凄かったね!」
サチ  「うん! あそこから、あっと言う間にここまで運んだんだよ!」
ミツ  「あんなに大きなカモシカなのにね。」
サチ  「びっくりしたね!」
 
エミヌ  「私、また腰抜かすところだった。」
シロクン  「これがシップウか! こんな事が出来るとはな。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。