第174話 32日目⑪
夜宴。続き。
オジヌはコヨウと見晴らし岩にいる。
オジヌ 「あそこ、アユ村だろう? ぼんやりと明るい所。」
コヨウ 「きっとそうだよ。見晴らし広場の焚き火の明りだね。」
オジヌ 「と言う事は、ここで火を焚けば、アユ村から見えるんだ。
ここからウルシ村は見えないけど、
こことウルシ村の両方が見える場所は、きっとあるはずだ。
そこに村か何かの作業場か、そういうものを作れば、
火の合図で何かできるかも知れない。」
コヨウ 「霧が出ていたり、天気の悪い時は無理ね。
でも雪に閉ざされた時なんか、火の合図なら、あっと言う間だから便利だね。」
オジヌ 「おれ、今度、そんな場所を探してみるよ。そろそろ降りようか?」
コヨウ 「うん。ねえ、今夜、どこで寝るの?」
オジヌ 「ミズナラの樹に、二段で吊り寝するのはどう? コヨウが上。」
コヨウ 「それいいね! お話できるもん。」
シロクンヌ 「サチ、薬湯行くぞ。ミツも一緒に入るか?」
サチ 「ミツ、行こう。」
ミツ 「うん。一緒に入る。」
サチ 「父さん、バッシャンとか、出来る?」
シロクンヌ 「チョロチョロが出来るぞ。この前ほど、高くは無いがな。
横の岩に、父さんが登ってやってやる。」
サチ 「やったー! ミツ、チョロチョロって、くすぐったいんだよ。」
タカジョウ 「おれだって驚いたんだ。まさかあんなデカい獲物を狩るなんてな。」
テイトンポ 「今までで最大なのか?」
タカジョウ 「群を抜いて大きいよ。見物人が多かったから、シップウも張り切ったんだよ。」
アコ 「シップウって、また大きくなったんじゃない?」
タカジョウ 「ふむ・・・そうかも知れんな。アコにはそう見えるか?」
アコ 「去年の明り壺のお祭りの時よりも、大きい気がする。」
タカジョウ 「ふむ・・・一年前のシップウには、今日の芸当は無理だったかも知れん。」
テイトンポ 「狩りを始めると、速いのか?」
タカジョウ 「もちろん日によって違うが、今日の様に、切り立っている山では速いな。
樹の葉が邪魔をせずに、見つけやすいのだと思う。」
イナ 「骨髄、美味しいわね。お酒がすすむわ。」
クマジイ 「イナは杖ばかりでなく、酒も強いんじゃな。」
シオラム 「そうだ。飲んでも変わらんしな。
ほい、注いでやる。普段は飲まんのか?」
イナ 「たまには飲んでたの。勧められて。
でも、クンヌが旅立った後は飲めないわね。」
クマジイ 「ハニサの護りじゃな。
それにしても、サチ達は大はしゃぎしておるのう。
お湯の掛け合いでもしておるんじゃろう。」
イナ 「違うのよ。クンヌが岩によじ登って、高い位置からチョロチョロと湯を落としてるの。」
クマジイ 「ほう、何で分かるんじゃ?」
イナ 「だって衝立の上に出てるから、さっきから、丸見えなのよ。」
マユ 「ここはいい匂いするね。ミツのハシャギ声ね。」
ソマユ 「楽しそうね。あれ?」
マユ 「どうしたの? まあ!
・・・立派ねえ。」
イナ 「クンヌは気付いて無いわよ。
ここに座って、一緒に眺めていましょうよ。お酒がすすむわ。」
ソマユ 「凄いね。平時であれって事は・・・」
クマジイ 「ホントじゃなあ。」
シオラム 「なるほど。」
マユ 「わ、わたしも一杯、頂いていい?」
クマジイ 「ほい、グイっと行けい。」
ソマユ 「シロクンヌって、いろんな人に夢を与えるのね。」
イナ 「ブァハッハッハッハー、お酒を吹いちゃった!」
マユ 「あ! 気付いたよ。」
クマジイ 「何ちゅう顔で見ておるんじゃ。」
シオラム 「キョトンとしておるな。」
イナ 「今頃隠しても、もう遅い。」
ソマユ 「もうちょっと見ていたかったな。
なかなかハニサにたどり着かなくて・・・」
マユ 「あんた、なに想像してるのよ!」
シオラム 「分かる! あれとハニサの間には、埋めがたい溝が有るよな?」
クマジイ 「神秘じゃ。神秘がひそんでおる。」
イナ 「その神秘が、こっちに来るみたいだよ。」
(サチ 「やっぱり、父さん、見られてたんだー。キャハハハハー。」)
(ミツ 「今、あわててたよねー。」)
ハニサ 「サチもミツも、大はしゃぎしてるね。もう出る頃でしょう?
出たら、三人で入ろうよ。ほら、裏の温泉の時みたいに。
どうしたの? 何でみんなして、あたしの顔をまじまじと見ているの?」