第176話 32日目⑬
入口の洞窟。続き。
ヌリホツマ 「まずは、ロウソクじゃ。無くなれば、またゆうて来い。
次に、薬。風邪でノドが痛くなったらこれ。熱が高くなればこれ。
腹痛はこれ。そしてこれが塗り薬。」
ナクモ 「ありがとう。こんなにもらっていいの?
ロウソクも、こんなにたくさん。」
ヌリホツマ 「ああよいぞ。ナクモはウルシ林の世話をよくやってくれたからの。」
カタグラ 「ありがとう。助かるよ。」
ヌリホツマ 「まだあるぞよ。薬湯の素じゃ。これが今日と同じもの。
こっちが、ぽかぽか温かくなるもの。寒い冬にはこれじゃ。
そしてこれ。秘薬じゃ。
これはタカジョウが旅立ち、二人だけになってから使うのじゃぞ。
桶に湯を張り、そこに入れるのじゃ。その湯で、体を洗え。
二人一緒に使うのじゃぞ。
これの事は、決してテイトンポには教えてはならぬぞ。」
サチ 「ドングリ取りで、私全然ミツに勝てないの。父さん、やってみて。」
シロクンヌ 「どうやるんだ?」
ミツ 「ドングリを並べるよ。最初は一個。次の列は三個。次の列は五個。次の列は七個。
二人で交互にドングリを取って行くの。同じ列なら、一度に何個取ってもいいんだよ。
でも五個の列から二個取って七個の列からも取るっていうのは駄目。
そして、最後に取った人が負けなの。」
シロクンヌ 「よし! とにかくやってみるか。おれから行くぞ。
一遍に七個でもいいのか?」
ミツ 「いいよ。次、私ね。」
シロクンヌ 「よし、今度は勝ったぞ。やっと勝てたな。・・・あれ?」
ハニサ 「アハハ。シロクンヌ、何やってるのよ。一回も勝てないじゃん。
あたしと交代。」
シロクンヌ 「ミツは強いなあ。この遊びは、誰かに教わったのか?」
ミツ 「私が考えたんだよ。面白いでしょう?」
シロクンヌ 「自分で考えたのか。大したものだなあ。」
アコ 「ハニサも意外にどん臭いんだな。全敗か?交代。」
ハニサ 「えー! 何で勝てないの?」
テイトンポ 「分かったぞ。アコ、交代だ。」
アコ 「ちくしょう! 勝てない。」
クズハ 「あなた、ムキになるから、ドングリが潰れたじゃない。交代よ。」
テイトンポ 「おかしいな。勝てるはずなんだが・・・」
エミヌ 「母さんには、内緒にしてね。」
シオラム 「さすがエミヌ。進展が速いな。焼き石を足してやるよ。」
イナ 「いいわねー。洗いっこするんでしょう?」
エミヌ 「うん。ドキドキして来た。」
カザヤ 「おれもドキドキして来たな。」
エミヌ 「神坐になってる?」
カザヤ 「ああ、さっきからな。」
エミヌ 「キャー!どうしよう。ドキドキするよう。」
シオラム 「いいぞ。いい湯加減だ。薬湯の素も足しておいた。」
エミヌ 「ありがとう。じゃあ、入って来るね。」
クマジイ 「若いもんはいいのう。」
ヤシム 「タホが寝たわ。月が出る頃よね? ねえヤッホ、森に行かない?」
ヤッホ 「じゃあタホをエニに頼んでくるよ。」
ヤシム 「吊り寝を一つ、持って来てね。」
マグラ 「大勢いると思えば、ドングリ取りか。ミツは強いだろう?」
サチ 「うん。一回も負けてないよ。」
マグラ 「ミツはこういうのが得意なんだ。
この遊びも、ミツが考えたんだし、粘土版を使った遊びも何個か創ったんだぞ。」
サチ 「粘土版の遊びって、どんなの?」
ミツ 「何個かあるよ。でも一番面白いのは、飛び越しかな。
粘土版にドングリが立つ穴がいっぱい空けてあって、こっちと向こうに分かれるの。
使うドングリは20個ずつで、向こうはドングリを逆さに立てるの。
前か横に進めるんだけど、自分のドングリは1個だけ飛び越せるの。
相手のドングリはくっついていたら、何個でも飛び越せるの。
自分のドングリ11個を、先に相手側に移動させた人が勝ちなの。」
ハニサ 「面白そうだね! 穴の数とか、後で教えて。村に帰ったら作ってみる。」
ミツ 「うん、いいよ。あと、細かい決まりもあるから、それも教えるね。」
マグラ 「飛び越しは結構ハマるぞ。大ムロヤに、粘土版を置いておくといい。
焼く必要は無いしな。おれ達は、夕食の後や雨の日に遊んでいるよ。
ミツは飛び越しでも、アユ村で一番強いんだ。」
テイトンポ 「ミツは、建築もできるかも知れんなあ。」
シロクンヌ 「テイトンポ、今度、機会が有ったら、ミツのお父さんに按摩を教えてやってくれよ。」
テイトンポ 「なんだ、目が見えんのか?」
シロクンヌ 「それがなあ・・・」
テイトンポ 「なるほどな。そう言う事なら、ウルシ村に来るといい。
握る力は有りそうだしな。ひと月ほどで、ものになるんじゃないか?」
マグラ 「そうか。すまんな。タガオに話してみる。」
サチ 「按摩師は、アヤの村ではもてはやされるよ。造成で、みんなくたびれるから。」
ミツ 「アヤの村が出来たら、私、父さんと引っ越していい?」
サチ 「もちろんいいよ。毎日遊べるよ。」
ハニサ 「アヤクンヌが遊んでるってのも、のほほんとしてていいよね。」