縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第178話 33日目①

 

 

          翌朝。入口の洞窟。

 
タカジョウ  「全員、そろっているな?」
マグラ  「アユ村から来た者は、全員いる。」
ハギ  「ウルシ村から来た者も、全員いるよ。」
タカジョウ  「朝早くから起こしてしまったが、どうやら緊急事態の様だ。
        シロクンヌ、頼む。」
シロクン  「うむ。さっき、おれの元に連絡が入った。
        ハタレに動きがあった。
        昨日、シカ村の者が三人襲われている。
        20人前後のハタレが、ウルシ村方面に向かっている様だ。
        間もなく到着するかも知れんと言っていた。
        おれの居所が分からずに、報告が遅れた様だ。」
エニ  「村が襲われるって事?」
クズハ  「急いで帰らなきゃいけないんじゃない?」
タカジョウ  「待ってくれ。もう一つ報告がある。オジヌ、頼む。」
オジヌ  「今朝早くに、おれとコヨウは、日の出を見ようと思って、見晴らし岩に登ったんだ。
      日の出を見てしばらくすると、十人くらいの・・・多分男だ。
      十人くらいの男が、アユ村に向かっているのが見えた。」
カタグラ  「そいつらは、ここの下を通って行ったという事か?」
オジヌ  「おそらくそうだと思うよ。ここに寄らずに、そのまま通り過ぎたんだ。
      明け方だし、煙もあまり出ていなかったから、
      ここに人がいるのを気付かなかったと思う。」
テイトンポ  「ウルシ村の者では無いな。」
マグラ  「ハタレの可能性が高い。」
シロクン  「おれとテイトンポとイナは、これからすぐウルシ村に速駆けする。
        ムマヂカリ達は安全を確認しながらウルシ村に向かってくれ。
        オジヌが先頭で、アコが最後尾だ。では行くぞ。」
タカジョウ  「ウルシ村の者達は出発してくれ。荷物は最低限だ。ナジオは残ってくれ。」
マグラ  「アユ村のみんなも、今からすぐに出立する。」
タカジョウ  「おれとカタグラとナクモ、そしてナジオはここに残る。
        オジヌが言っていた、火の合図を使う。
        アユ村が無事なら、見晴らし広場で火を焚いてくれ。
        見晴らし岩からそれを見たらおれ達はウルシ村に走る。
        アユ村に危機が迫っていたら、村の外で火を焚いてくれ。
        すぐにそっちに向かう。」
マグラ  「分かった! おれ達はすぐに村に向かおう。」
 
カタグラ  「よりによって、こんな日に来るとはな。」
ナジオ  「奴等はまだ、ここの存在を知らないんだろう?
      もしかすると、ここが避難所になるかも知れん。準備をしておくか。」
タカジョウ  「奥の洞窟に、薪が大量に持ち込んであったな。
        取りあえず、それをこっちに出すか。カタグラ、手伝ってくれ。」
ナクモ  「私、忘れない内に、パヤパヤにエサをあげて来る。
      それから、何か朝ごはんを用意するね。」
ナジオ  「おれは念のため、下まで降りて少し偵察して来るよ。
      タカジョウ、ボウボウを貸してくれ。」
 
 
          石ツラ道。
 
カタグラ  「背負子はこういう時に便利だよな。薪をわんさか運べる。
       何往復もするかと思えば、二人で一度で済んでしまった。」
タカジョウ  「おい、ちょっと変じゃないか?」
カタグラ  「どうした?」
タカジョウ  「なんで明りが見えないんだ?」
カタグラ  「本当だな。ピッタリふさいである。
       さっきおれは、こっち側から戸をふさいだんだ。」
タカジョウ  「隙間があっただろう? こっちからは、隙間なく塞ぐのは無理だ。」
カタグラ  「誰かが、向こう側からふさいだんだ。
       ナクモもナジオもそんな事は、せん!
       ナクモが危ない!ナクモ!」
 
    カタグラは入口の洞窟に向かって走り出した。
    滑りながら戸にたどり着くと、力いっぱい戸を押した。
    しかしビクとも動かない。
 
カタグラ  「くっそー!何で開かん。ナクモ、いるのか?
       ナクモ!いたら返事をしてくれ!
       タカジョウ、二人で体当たりするぞ。」
タカジョウ  「待て! そんな事言って、
        突き破ったら大勢のハタレが、待ち構えているかも知れんのだぞ!」
カタグラ  「そんなのは、手当たり次第にぶちのめすだけだ! 行くぞ!」
タカジョウ  「待て!冷静になれ!命が要らんのか?」
カタグラ  「そんなものは、どうでもよい!
       行かんなら、おれ一人で行くまでだ。どいてくれ。」
タカジョウ  「おまえ、薪を背負ったままだぞ。」
カタグラ  「薪も何かの役には立つ!
       四の五の言うな!どけっ!」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。