縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第179話 33日目②

 

 

 

          続き。

 
タカジョウ  「分かった。ちょっとおれがやってみる。
        押すぞ。
        ほら、簡単に開くだろう?」
 
    戸が開くと、入口の洞窟には、帰ったはずの全員がそろっていた。
    それに加え、一本皿が二つ用意されていて、料理も上に載っている。
    当然、カタグラは、何が何だか分からなくなった。
 
ナクモ  「カタグラ! 私、ここにいるよ!」
カタグラ  「ナクモ! 何だ? どういう事だ?」
アコ  「カタグラ、カッコよかったよ!」
エミヌ  「素敵だった! 涙が出たもん。」
カザヤ  「おお、男だったぞ。」
カタグラ  「何だ? おい、タカジョウ、どうなってるんだ?」
タカジョウ  「すまんすまん。
        おぬしら二人をお祝いしようと思ったんだが、ただやっても詰まらんだろう?」
カタグラ  「ハタレは?」
シロクン  「来ておらん。影も形も無い。」
カタグラ  「そーなのか! もしかして、みんなグルか?」
ハギ  「カタグラとナクモ以外、みんなグルだ。」
カタグラ  「何だそりゃー! おれは、てっきり・・・
       おまえらやってくれたなー。
       完全に引っ掛かったぞ!」
ナクモ  「カタグラ!」抱きついた。
タカジョウ  「おれにも殴り掛かって来そうな勢いだったからなあ。
        みんな、聞こえてただろう?」
ソマユ  「聞こえてた。男らしかった。ごわごわしてるだけじゃないんだね。」
ハニサ  「あたし、感動しちゃった。ナクモは幸せだね。」
テイトンポ  「おお。薪を背負ったまま飛び出す事への賛否はあろうが、魂の勢いは最高だったな。」
ミツ  「カタグラ、かっこよかった。サチもそう思うでしょう?」
サチ  「うん。凄かったね! 頼りになるね!」
カタグラ  「サチにまで、ほめられてしまったか。」
ナクモ  「カタグラ、お尻が出てるよ。」
 
    場が爆笑に包まれた。
 
ヤッホ  「カタグラ、ナクモ、おめでとう! 目出度い踊りを踊るぞー!
      目出度い目出度い♪目出度い目出度い♪」
クマジイ  「目出度い♪目出度い♪」
 
    目出度い踊りの輪が出来た。
 
ヤッホ  「今日はカタグラとナクモのお祝いの日だ。昼まで、たらふく食おうぜ。」
カタグラ  「いつの間に、こんな料理を用意していたんだ?
       ナクモも知らなかったのか?」
ナクモ  「知らなかったよ。びっくりしたんだもん。
      パヤパヤにエサをやって戻って来たら、ナジオに引き留められたの。
      そしたら、みんながどんどん登って来たの。」
カタグラ  「タカジョウとシロクンヌとオジヌに、まんまと騙されたよ。」
イナ  「オジヌの演技が上手かったわね。」
オジヌ  「カタグラが会話に入って来たのが想定外で、焦ったんだよ。」
ハニサ  「早朝だから煙が出て無いとか、咄嗟に考えたの?」
オジヌ  「そう。打ち合わせには無かったんだ。」
カタグラ  「打ち合わせとか、大掛かりだな。こんな事、誰が考えたのだ?」
ハギ  「おれとナジオとタカジョウが、どんなお祝いが良いかって話していたんだ。」
ナジオ  「びっくりする様な事無いか?って言い合っていて、
      びっくりさせてしまえ、に変わって行ったんだよな。」
テイトンポ  「しかし、現実問題として、ここも備えが必要だぞ。
        ここの事が知れたら、まずここが襲われるかも知れん。
        食料も水もあるから、ここを拠点にしようと企むだろうな。」
シロクン  「カタグラとナクモの二人だけの時は、いち早く気付いて逃げるのが大事だ。」
タカジョウ  「シロクンヌが開けた風穴から外に出られる様に、長ハシゴを作ろうかと思っている。
        普段は、あの壁の下に寝かしておく。」
テイトンポ  「風穴から侵入されん様に、下の火は絶やしてはいかんぞ。」
 
    風穴の外から水を掛ければ火が消えて、外からの侵入がしやすいのでは?
    そう考える方も多いだろう。
    しかし、風穴の下の焚き火は、夜中だろうが夏だろうが、燃え続けている焚き火なのだ。
    炎が消えただけでは、地面は高熱を保っていて、とてもヒトが歩けるものでは無い。
    水を掛け続けるなり、大量の土砂を投げ込むなりすれば、侵入できるだろうが、
    中に人が居れば、必ず気付かれるだろう。
    そうなれば、侵入時に矢で射抜かれる覚悟が必要となる。
    一方、中から脱出する時は、濡れたムシロで覆って火を消して、
    その上にありったけの毛皮やムシロをのせるから、割合スムーズに事が運ぶと思われる・・・
 
イナ  「奥の洞窟って他に出口は無いの?」
ハギ  「コウモリがいないし、無いんじゃないかって事になってる。
     奥深くには、危ないし、まだ誰も行ってはいないよな?
     這ってしか通れない様な所もあって、実際、どれだけ広いのかも分かって無いんだ。」
マグラ  「防寒具や食料を置いておいて、そこに隠れるっていうのも有りじゃないか?」
ハギ  「初めての奴が、探し回って見つけようとしても、難儀するだろうな。」
ムマヂカリ  「犬をもう一匹、飼った方が良いぞ。」
ヤッホ  「入口の洞窟を、内側からふさぐのは無理なのか?」
ハギ  「それは考えたんだが、いい方法が見つかっていない。
     外から破るのは、簡単だろうからな。
     獣に対してなら、有効だと思うが。」
タカジョウ  「開けっ放しというのも問題だろうから、内側から塞げる様にはするんだが、
        簡単に開けられる方法で、という事なんだ。」
シロクン  「外から破るのに、多少なりとも時間がかかればいいんじゃないか?」
カタグラ  「まあそうだが、外の様子が分からんというのもどうかと思ってな。」
ミツ  「杭を立てればいいんじゃないの?
     たくさんの杭を人が通れない間隔で立てるの。
     普段は穴から抜いておいて、夜に立てるの。
     杭は、外からは抜けないか、抜きにくい様にするの。
     杭の上に、外からは外せない重しを乗せるとか。」
カタグラ  「なるほど! それはよいな! 杭なら矢も通る。」
サチ  「ミツ、凄いね! それいいよ!」
ムマヂカリ  「杭が立つ穴を作っておくんだな? そこに、杭を立てる。
        普段はその穴に、チビ杭を入れておけばいいんだ。」
タカジョウ  「よし! 明日からそれを作るぞ!」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。