第184話 33日目⑦
ハニサのムロヤ。
ハニサ 「今日は色んな事があったわね。
朝、ハタレが来たってカタグラを担いだら、本当にハタレが来てて・・・
サチ、疲れたでしょう? カラス山まで行ってくれたし。
眠くない?」
サチ 「少し、眠い。」
シロクンヌ 「サチ、今日は父さんと一緒に寝るぞ。
ハニサ、湯が沸いたら、サチの体を拭いてやってくれ。」
ハニサ 「うん。もうすぐ沸く。
イナ、今日は本当にありがとう。
あたしの身代わりになって、あんな事されて・・・」
ハニサが泣き出した。
ハニサ 「イナがいきなり、あたしがハニサよって言ったから、あたしびっくりしたの。
シロクンヌと打ち合わせていたの?」
シロクンヌ 「いや、おれも驚いたんだ。」
イナ 「あんなの、あたしの中では想定内よ。
ハニサ出て来い、となったら、すぐ出て行くつもりだったわ。
と言うよりも、それを望んでいたの。
その為に、弓を持っていたのよ。
矢を持たずに弓だけなら、ああやって油断するの。
舐めまわされた事だって、トカゲが這い回った様なものよ。
気持ち悪いけど、ただそれだけ。
どうせ突き倒すんだから、今だけ好きにしなさい、って感じね。
だからハニサ、泣かなくていいのよ。
あたしはあんな事、何とも思ってないもの。
コノカミを温泉に誘い出す口実が出来て、良かったくらいよ。」
ハニサ 「ありがとう。イナが来てくれて、本当に良かった。」
シロクンヌ 「サチが寝たな。疲れていたんだろう。
今日はこのまま寝かすか。」
イナ 「クンヌの膝で、気持ち良さそうに寝てるわね。」
シロクンヌ 「今日はサチも、嫌な事を思い出したかも知れんな。
しばらくこうして、膝で抱いていてやるか。」
イナ 「ねえ、魂写しの儀って、この村ではどうやるの?」
ハニサ 「あたしも自分の時に一回しか出た事無いんだけど、あたしの時はね・・・」
イナ 「えー! 面白ーい! 質問があるんだ。嘘はつけないのね。
シロの村ではそんなの無かったもの。でも、アコは二回目なのよね?」
ハニサ 「そう。あたし一度目は出て無いから、どんな風だったか知らないの。」
イナ 「明日、あたしも出ていいかな?」
ハニサ 「いいんじゃないかな。あたしの時は、出たい人が出た感じだったから。」
イナ 「ねえ、アコってどうやってテイトンポの弟子になれたの?」
イナ 「幼虫かー。幼虫3匹なら、あの時のあたしは食べたはね。
でも、出会って間もない時に、アコはそれをしたんでしょう?」
シロクンヌ 「そうだな・・・ムマヂカリから、シカ狩りの逸話を聞いた程度だったか。」
ハニサ 「あと、見立ての話。タホを助けた時の。」
イナ 「見立てって、何?」
ハニサ 「イナは知らないの?」
イナ 「知らない! 最小歩数も知らない。地を読むなんて全然知らない!
クンヌ! 何であたしに教えてくれなかったのよ!
あたしはあんたに杖を教えたのよ!」
シロクンヌ 「お、おかしいな。シロのイエでは、ほとんどの者が知っているだろう?」
イナ 「ばか! テイトンポが何人弟子を持ったか知ってる? 極わずかよ。
体術は、みんな習ってるわよ。いろんな人から。
見立てなんて、体術じゃ無いでしょう?」
シロクンヌ 「そう言われれば、そうだな・・・」
ハニサ 「岩滑りの道筋も、シロクンヌはすぐ見つけたみたいだし、
崖を渡ったりするのも、地を読むのと関係あるんじゃないかな?
洞窟で、イナがお酒を飲んでた所の上に風穴が開いていたでしょう?」
イナ 「そう! 丁度良い所に開いてた。
あれは最初から・・・じゃ無いわよね。
密閉されて、コウモリも居なかったんだから・・・」
ハニサ 「あれはシロクンヌが開けたの。
あの場所を、外から一発で見つけて掘ったみたい。
それを聞いたテイトンポが、そこまで地を読める様になったかって感心してたよ。」
イナ 「バカクンヌ! 何であたしに教えなかったのよ!」
シロクンヌ 「やめろ。悪かった。叩くな。サチが起きる。今度教える。」