第191話 36日目①
翌日。昼の入口の洞窟。
シロクンヌ 「ナクモー、居るかー。」
ナクモ 「シロクンヌ、遅かったね。何かあったの? 心配してたんだよ。あれ?」
ミツ 「こんにちは!」
シロクンヌ 「タガオ、今降ろすからな。洞窟だ。」
ナクモ 「え? もうアユ村に行ったの?」
シロクンヌ 「そうだぞ。ここでゆっくりしようと思ってな。」
タガオ 「ナクモだな? お世話になるな。」
ナクモ 「タガオね。よろしくね。えー!でも驚いた。
往きは寄らなかったんだね。」
シロクンヌ 「ああ、おれ一人で来たってしょうがないからな。
何か食べる物はあるか?
あと、タガオを薬湯に入れてやりたいのだが。」
ナクモ 「こないだのカモシカが美味しくなってるから食べる?」
シロクンヌ 「お!いいな。もらおうか。」
ナクモ 「用意するから待ってね。山ブドウの汁が冷やしてあるの。飲むでしょう?
焼き石はたくさんあるから、薬湯もいつでも大丈夫よ。
ああ、いけない。ボウボウ吹くのを忘れてた!」
カタグラ 「相変わらず素早いな。朝、出たのだろう?」
ハギ 「おれは、今朝、ウルシ村の広場でシロクンヌを見たよ。」
タカジョウ 「羽根がはえとりゃあせんか?」
タガオ 「ハッハッハ。本当にそう思うぞ。ついさっき、ムロヤの前で背負子に乗ったのだ。
まったく揺れやせんし、ゆっくり歩いておるものだと思っておったわ。」
ミツ 「私、途中で寝てた。気持ち良くて。」
シロクンヌ 「ハハハ。サチが早く会いたがっていたからな。
それからナジオだが、何日かアユ村に留まるそうだ。
舟作りの加勢を頼まれていたな。
それにしても、ここの囲炉裏はいいな。
御座が敷かれて、雰囲気が出てるじゃないか。」
カタグラ 「だろう?
シロクンヌが開けた風穴から入る光が、朧(おぼろ)でいいよな。」
タガオ 「ん? いい匂いがして来たが・・・」
ナクモ 「今、薬湯の素を入れたの。」
シロクンヌ 「後でミツと3人で入るか。気持ちがいいぞ。」
タガオ 「温泉とは、また違うのだな。ではシロクンヌに介添えを頼むか。」
ミツ 「ねえ、チョロチョロ、出来る?」
シロクンヌ 「出来るぞ。ナクモは、あっちを向いててくれよ。」
ミツ 「その前に私、パヤパヤ見て来てもいい?」
ナクモ 「ちょうどエサをあげるから、ミツがあげてみる?」
ミツ 「うん。やってみたい。」
飛び石付近。
サチ 「父さーん、お帰りー。」
シロクンヌ 「サチだ。サチが走って来た。ミツ、今降ろすからな。」
サチ 「父さん、早かったね!
こんにちは。サチです。」
タガオ 「サチか。タガオだ。ミツに良くしてくれて、ありがとうな。」
ミツ 「サチ、待っててくれたの?」
サチ 「そうだよ。カラミツブテの練習をしながらね。これから毎日遊べるね!」
ミツ 「うん! ねえ、ブランコある?」
サチ 「無い。どこかに作ろうか?」
ミツ 「二つね。大きなのがいい。」
シロクンヌ 「ハハハ。さあ工房に行くぞ。イナは居るかな?」
サチ 「さっき飛び石を渡ったよ。魚をいっぱい突いて来てた。
父さん、今日またスッポンが卵を産んだよ。」
曲げ木工房。
イナ 「握る力は結構有りそうね。」
タガオ 「舟の上で竿をあやつったりしていたからな。」
イナ 「目以外に、怪我とかは無いの?」
タガオ 「ああ、他は全部よくなった。」
イナ 「ここに、スブスブに濡れたムシロがあるの。持ってみて。
それをね、これ以上は無理って所まで絞ってみて。何度絞ってもいいよ。」
タガオ 「ふんーーー。ふんーーー。・・・
ここまでだな。腕も疲れたし、これ以上は無理だ。」
イナ 「オジヌ、それを絞って、一滴でも水を出せる?」
オジヌ 「えー、無理だよ。こんなに固いもん。やってみるけどさ。
うーーん。うーーん。やっぱり無理だ。」
イナ 「あたしに貸して。
タガオ、ここでこうやって、手のひらを広げていてね。
この上で、このムシロをあたしが絞るから。
いい? いくよ。」
イナが絞ると、ムシロからボタボタと水が落ちた。
アコ 「すげー!」
タガオ 「なんと! これは本当か?」
ミツ 「父さん、本当だよ。」
シオラム 「驚いたな・・・」
イナ 「ここまでかな。持ってみて。」
タガオ 「何だこれは! 木の棒か? カッチカチだぞ。」
イナ 「もう一度貸して。後ろを向くから、手であたしの背中を触っていて。
背中なら、撫でまわしていいからね。これが普通。絞る時がこれ。」
タガオ 「あ! ああ! もう一度やってもらえるか?
こんなに動くのか!」
イナ 「按摩にも骨接ぎにも、これだけの力は必要無いの。
だけど、3の力が要る時に、4の力しか無い人だと良くないの。
綺麗な3が出せないのよ。余裕が無いから。分かるでしょう?」
タガオ 「なるほど! 分かる。
余裕が無いと、調整が利かんからな。」
テイトンポ 「イナについて、とにかく1年頑張ってみろ。相当の所まで行くぞ。」
タガオ 「そうだな! よろしく頼む。
ソマユは足が治ったと言って喜んでおった。
おれもそうやって、人を喜ばす事が出来るかも知れんのだ!」