第192話 36日目②
夕食の広場。
ササヒコ 「タガオとミツ、そこで立ってくれ。
みんな聞いてくれ。今日、新しい仲間が二人増えた。
タガオと、タガオの娘のミツだ。二人はアユ村からやって来た。
ミツは、サチの友達だ。そして、わしも今ハマっておる、飛び越しの考案者だ。
それからタガオだが、目が見えない。
タガオは、暴漢どもから女性を救うために、真っ先に現場に飛び込んだ英雄だ。
しかしそこで、目をやられてしまった。
それまでは優秀な狩人であり、漁師であったと聞く。
縁あって我が村で、按摩と骨接ぎの勉強をしてもらう事になった。
当面は、大ムロヤで寝起きしてもらうのだが、何かと不自由もあると思う。
みんな、気に掛けてやってくれ。」
ヤシム 「ミツ、着てみて。昨日作ったんだよ。」
ミツ 「あ! サチと同じ?」
サチ 「大ムロヤで着替えて来よう。私のも、ヤシムが作ってくれたんだよ。」
タガオ 「シオ村では、普段、何をやっておるのだ?」
シオラム 「おれは、塩作りだ。雨が続けば、舟を造ったり、網を作ったりだな。」
タガオ 「漁には出ないのか?」
シオラム 「請われれば出るぞ。舟の漕ぎ手や、網引きの手伝いだがな。
スワの湖にも、舟はあるだろう?」
タガオ 「丸木舟はまだ無いが、葦舟(あしふね)と筏(いかだ)がある。
移動は櫂(かい)よりも棹(さお)が多いな。
葦舟は保管が大変なんだ。
水に浸けっぱなしだと、水を吸って重くなる。引き上げられんほどにな。
だから浮かべっぱなしにはできん。
すぐに引き上げて、湖畔で乾かさなきゃならん。」
シロクンヌ 「タカジョウからカラス山の様子を聞いたが、
7人の内、分かったのは4人で、3人は見当たらなかったそうだ。」
テイトンポ 「逃げた訳では無かろう?」
シロクンヌ 「獣がどこかに運んだのだな。
とにかくあそこのカラスは狂暴で、群れてシップウにまで向かって来るらしい。」
テイトンポ 「忌み地だけあって、禍々(まがまが)しい所ではあったな。」
シロクンヌ 「衣服はズタズタで、ほとんど骨になっておったそうだ。
骨も、広範囲に散らばっておったらしい。」
サチ 「父さん、見て!」
シロクンヌ 「お? こっちがサチか?」
テイトンポ 「眼木を掛けておるから、見分けがつかんな。」
シロクンヌ 「ミツのこの服はどうしたんだ?」
ミツ 「さっきヤシムがくれたの。昨日、作ってくれたんだって。ここの色が違うでしょう?」
サチ 「お姉ちゃんに見せて来るね。ミツ、行こう!」
テイトンポ 「ミツか来て、サチはハシャギ回っておるな。」
シロクンヌ 「昨日から急(せ)かされてな。
父さん、明日はいつ帰って来る?って(笑)。」
エミヌ 「これ、食べてみて。」
ハニサ 「エミヌが作ったの? 手が込んでそうだね。コリコリしてる。」
ムマヂカリ 「おお、旨い!」
アコ 「プルプルもしてるね。イノシシでしょう? 煮込んだの?」
エミヌ 「耳を昨日から煮込んでいたの。
このグリッコ、食べてみて。」
ムマヂカリ 「旨い! 普通のグリッコの様だが・・・?」
ハニサ 「美味しい! 脂じゃない?」
アコ 「脂だな・・・イノシシの脂?」
エミヌ 「グリッコを練る時に、イノシシの脂を、ほんの少し混ぜたの。
この耳もね、この料理を作ってみたかったのもあるけど、
この煮汁から、脂を取りたかったの。
冷ませば、きっと美味しい脂が取れるよ。耳の煮凝り(にこごり)もね。」
ムマヂカリ 「エミヌ、以前からそんなに料理に凝(こ)ってたか?」
エミヌ 「私、料理って、やってると、こんなに面白いものなんだって分かったの。
アコのタレって、魚の内臓が入ってるでしょう?」
アコ 「よく分かったな。」
エミヌ 「オオ豆を煮た後、放っておくと腐るんだけど、時々・・・」
サチ 「お姉ちゃん、見て!」
ハニサ 「わあ、可愛いね! お揃いだ。」
ミツ 「父さんが、ヒシオと言うのがあるって言ってたよ。」
エミヌ 「ヒシオ?」
ミツ 「死んだ母さんが、作っていたんだって。オオ豆と塩で作るの。」
エミヌ 「ちょっと、聞いて来る。」
タガオ 「・・・それにヒシオは場所によって、出来たり出来なかったりする様だぞ。」
エミヌ 「どんな場所なら出来るの?」
タガオ 「それは分からんのだ。やってみて、その結果で判断するしかない。
だが、出来る場所でも、毎回必ず出来る訳では無いそうだ。」
シオラム 「シオ村にも、アコのタレのようなものはあるぞ。魚を腐らせる。
いや、腐ってしまっては駄目なのか。おれにもよく分からんが。」
エミヌ 「タガオの所は、オオ豆で作っていたんでしょう?」
タガオ 「オオ豆と塩だな。あと、栗実酒を何かしていた。」
シオラム 「アコがタレを仕込む場所なら、出来るんじゃないのか?」
エミヌ 「ドングリ小屋ね! 私も色々やってみよう!」