第194話 41日目①
5日後。夕食の広場。
タカジョウ 「曲げ木工房の周りが様変わりしていて驚いたぞ。
シロクンヌとサチで作ったのか?」
シロクンヌ 「蒸し室は、テイトンポとオジヌだな。」
ハニサ 「蒸し室と増築部分をつないだのは、サチとミツの発案だよ。」
シロクンヌ 「そうなんだ。おれは、つなごうなどとは考えもしなかったよ。
なにしろ蒸し室は、テイトンポがあとさき考えずに、
テキトーな場所に勢いで作ったからな。」
タカジョウ 「するとあれは、最初からああなる様に計画したのではない訳か?」
シロクンヌ 「妙におさまりが良かっただろう?
サチとミツにああしろこうしろと言われながら、手はおれが動かしたが、
ただ屋根でつなぐのではなく、涼み場が出来たんだ。」
ヤシム 「女でも使いやすいのよ。
涼み場も覗かれないしね。」
エミヌ 「母さんも、洗濯帰りに寄るって言ってたよ。」
ハギ 「竹のスノコが気持ちいいよな。おれ、あの上で寝転ぶのが好きだ。」
タカジョウ 「おお、あれはいいな。洞窟でも作ろうと思う。」
ヤッホ 「コリコリしてて気持ちいいだろう?
タガオが竹筏(たけいかだ)を組む要領で作ったんだ。」
ハニサ 「クマジイと二人で組んでたね。
建物としては完成したけど、これからクマジイが、いっぱい飾りをつけるみたいだよ。」
タカジョウ 「お得意の流木だな?
それにしても、サチとミツは見わけがつかんな(笑)。」
ヤッホ 「ヤシムが、サチに作ってやったのと同じ服を、ミツにも作ってるんだ。」
ヤシム 「まったく同じじゃ無いんだよ。少しだけ変えてあるの。」
タマ 「待たせたね、タカジョウから差し入れの、燻(いぶ)しの盛り合わせだよ。
ルロウの葉でくるんで、手づかみでやっとくれ。」
シロクンヌ 「お!来た来た。」
ヤッホ 「これは何だ?」
貝殻は、食えんぞ(笑)。」
エミヌ 「貝のこれ、美味しい! ねえ明日、燻し小屋の使い方、教えて!」
タカジョウ 「ああ、簡単だから一緒にやってみるか?
岩室に頃合いのいいカモがあるから、サクラ燻しにしよう。」
エミヌ 「やったー!」
タカジョウ 「ところでスッポンだが、卵を産んだらしいな?」
サラ 「今、72個あるよ。」
タカジョウ 「そんなにあるのか! そのうち、スッポン村って呼ばれる様になるぞ。」
イナ 「だいぶ肩甲骨が動く様になったから、次からは、綱登りをしましょうか。」
タガオ 「ツナノボリ?」
イナ 「そう。樹の枝に結んだ綱を、手だけで登るの。
この燻し、美味しいわよ。ルロウの葉にくるんであげたから、手を出して。
目標は、片手で登る事なんだけど、目が見えないと難しいかな・・・」
タガオ 「いや、そんな事は無い。片手登りが出来る様になってみせるさ。
ん! 岩魚(イワナ)の燻しか! 岩魚も食い納めだな。」
ササヒコ 「産卵をして身が痩せておるだろうに、よくこんな岩魚が手に入ったものだ。
イナは片手登りが出来るのか?」
イナ 「出来るわよ。右でも左でも。
子供くらいの重さの砂袋を背負っても出来るわ。」
ササヒコ 「凄いな。だから杖で突いた時、体がまったくブレんのだな。」
イナ 「そうなの。杖は肩幅よも、うんと広くこう握るでしょう?
これで回転突きをしてブレると、自分の手首や肘がやられちゃうのよ。
はい、これ貝殻付きの燻し。これも美味しいわよ。」
タガオ 「ああ、すまんな。」
オジヌ 「これ見て。奥の洞窟の探検用に作ってみたんだ。4人分あるよ。」
ミツ 「これ、どうするの?」
オジヌ 「これは靴底だよ。靴の下に縛り付けるんだ。滑り止め。少し、湿らせて使うんだ。」
サチ 「あー! これ・・・」
オジヌ 「ははは・・・気付いた? これ、サチとイナが狩った、イノシシの腸だよ。
腸を裂いて、編んであるんだ。湿らすと、キュッキュッとなって滑りにくくなるんだ。」
ミツ 「4人分って言うのは?」
オジヌ 「おれとコヨウだろ? それからサチとミツだよ。
ミツも洞窟探検、行くだろう?」
ミツ 「わー怖そう! でも、サチが行くなら行ってみたい!」
サチ 「危ない所があれば、私が教えてあげるよ。
父さんが良いって言えば、私も奥の洞窟、探検してみたい。」
テイトンポ 「シオラムは明日は洞窟で、あさってはここで泊まって、次の日に帰るのか?」
シオラム 「ああ、その予定だ。いろいろ世話になったな。」
アコ 「なら、あさっての夜がお別れ会だね。」
シオラム 「はは、よしてくれ、お別れ会などど。普通でいいさ。」
クズハ 「ナジオはどうするの?」
シオラム 「あいつは、今どこにおるのやら分からんのだ(笑)。」
アコ 「タカジョウが言うには、スワの村々で、
あちこちから来てくれってお呼びが掛かる人気者らしいよ。」
シオラム 「あいつは何の取り柄も無いと思っておったが、なるほど舟を作る時の削りは速い。
そして、仕上げが綺麗なんだ。
それから、手で挟んで厚みを測定するのも巧い。
あいつが仕上げた舟を浮かべると、左右の均等がピッタリ出ておるんだ。」
アコ 「取り柄が無いどころか、立派な特技じゃない。」
テイトンポ 「厚みを均等に仕上げるのは、至難の業だぞ。手が届かん部分もあるしな。」
シオラム 「そこなんだ。普通なら、仕上げは熟練の職人がする。
舟作り組の長(おさ)だ。
その長の横にナジオが付いておるんだ。
はた目には、長の指示でナジオが動いておるように見えるが、
聞いてみると、自分の感で削って行くと言うんだな。」
テイトンポ 「ほー、大したもんだなあ。」
シオラム 「でも不思議なんだぞ。他の木工には、まったく興味を示さんからな。」
クズハ 「きっと、舟が大好きなのよ。」