第196話 42日目①
朝の広場。
ヌリホツマ 「イナよ、悪いのう。また世話になるがよいか?」
イナ 「いいわよ。途中で薬草を見つけたら、言ってくれれば採ってあげるわよ。」
サチ 「私が採りに行ってあげるよ。」
サラ 「行ける場所なら、私も行くよ。」
イナ 「じゃあ今日は、少し道から外れて歩いてみましょうか。
いろいろ見つかるかも知れないわよ。袋をたくさん持って行きましょうよ。」
ヌリホツマ 「悪いのう。
実際、背負子の上は見晴らしが良うて、普段見過ごす物も目に入るんじゃよ。」
タカジョウ 「おれも背負子で誰かを背負って行きたいが、物ならいいのだが、
人を背負ったり担いだりが長く続くと、シップウがヤキモチを焼くのだ。」
イナ 「へー、面白い!タカジョウの腕や肩は、シップウ専用なんだ。」
タカジョウ 「いや、コヨウは別だ。
コヨウ以外の者を長く背負うと、機嫌が悪くなる(笑)。」
イナ 「それもまた面白いね!コヨウって、妹さんでしょう?少し歳が離れてるよね?
もしかしてコヨウとシップウって、双子みたいにして育ったの?」
タカジョウ 「シップウと出会ったのは、コヨウが4歳の時だから、
シップウは、おれがコヨウを背負っている姿を見ながら成長したんだよ。」
エミヌ 「ねえ、シップウがヤキモチ焼くとどうなるの?
背負われてる人がつつかれたりする?」
タカジョウ 「ハハハ、それは無いが、スネると呼んでも腕に来なくなったりするな。」
サチ 「父さん、オジヌとコヨウとミツと私の4人で、奥の洞窟を探検してみてもいい?」
シロクンヌ 「良いが、十分に気をつけるんだぞ。滑りやすいから、転ばぬ様にな。」
オジヌ 「これ、見て。靴底に縛り付けるんだ。滑り止めになるでしょう?4人分あるよ。
この木は、ウマにまたがって削ったんだよ。」(ウマとは、木工の工作台)
シロクンヌ 「オジヌが作ったのか?よく考えてあるな。」
ハニサ 「グニグニしてるね。何で作ったの?」
オジヌ 「イノシシの腸。こないだの、デッカイやつ。
長縄も作ったんだ。それも持って行く。」
ハニサ 「なんだか本格的ね。サチ、無茶しちゃ駄目だよ。怪我しないようにね。」
サチ 「はい。」
ササヒコ 「ふつか程、留守にするが、よろしく頼むな。」
テイトンポ 「おお、楽しんで来たらいい。シロの里の連中も来た事だし、村の事は心配いらんぞ。」
タマ 「ほい、シオラム。寝かしの効いた栗実酒だよ。兄弟で呑むんだろう?
ヒョウタン三つ、ぶら下げて行きな。」
シオラム 「おー!こいつはすまんな!
兄貴、洞窟の囲炉裏で飲み明かすぞ。イナも酒が強いんだ。」
クズハ 「のんびりと、羽根を伸ばして来たらいいわよ。」
ササヒコ 「では、お言葉に甘えてみるか。」
テイトンポ 「コノカミは、ヌリホツマの薬湯に入った事はあるのか?」
ササヒコ 「それが無いのだ。それも楽しみでな。」
テイトンポ 「今、蒸し室が人気だろう?
それはそれで良いのだが、肩まで浸かる薬湯は、また格別だ。
飛び石の洗濯場の横に、いい具合の岩場があって、
少し手を加えれば格好の水場になる。」
ササヒコ 「なるほど!あそこなら、掘れば水が出る。テイトンポの焚き場からも近い。
良い薬湯場になりそうだ。
実はな・・・
明り壺の祭りの三日後が、光の日だろう?ハニサにアマテルが宿った日だ。
そこで試しに来年は、明り壺の祭りから光の日までの四日間を、
すべて祭りにしてしまおうかと思っておるのだ。」
アコ 「それ、いいね!みんな、一日じゃあ物足りないって思ってたと思うよ。」
シオラム 「だが四日となると、途中で帰ってしまう者も出て来るだろうな。」
ササヒコ 「もちろん、それはそれで仕方のない事ではあるが、楽しめる物がたくさん有ればどうだ?」
クズハ 「それが、薬湯って訳ね。」
ササヒコ 「薬湯と蒸し室。蒸し室も臨時に何基かこしらえる。
問題は、薬湯の素がどれほど出来るかだが・・・
まあそれはヌリホツマと相談するとして、
他に何か良い案があれば、どしどし言って欲しい。」
テイトンポ 「そういう事ならおれに腹案がいくつかある。
まず薬湯の素は、おそらく心配いらんぞ。
おれが以前聞いた時のヌリホツマの口振りではな。
イワナの夜突き大会は、祭りの前日ではなく祭りの期間中にやればいいし、
木の皮鍋も大々的にやるとして、
それとは別に腹案がある。帰って来たら説明するよ。
三日間くらいなら退屈せんで持つんじゃないか?
ハニサから聞いた、ソリの話も参考になっておる。」
ササヒコ 「そうか!それは頼もしい話だ。説明を受けるのを、楽しみにしておるよ。」
丁度その頃、洞窟に向かう下の川の河原で、激しくまぐわっている男女がいた。
女は名をゾキと言い14歳。
男は名をオロチと言い12歳。
血のつながった、実の姉弟であった。