第197話 42日目②
下の川沿いの道。
イナ(ヌリホツマを背負っている) 「今日は、向こう岸を歩いてみましょうか?」
サラ 「向こうは、草が生い茂ってるよ。その向こうの、山みたいな所を歩くの?」
イナ 「そうよ。普段は行かないでしょう?何か珍しい薬草が生えてるかも知れないわよ。」
サチ 「ここの浅瀬を通ってあの岩まで行って、あとは岩伝いに跳んで行けば、
川も草むらも越えられそうだよ。
私がまず行ってみるね。
ミツは危ないから、オジヌ達と一緒に歩いた方がいいよ。」
ミツ 「うん。じゃあオジヌの所に行くね。」
シロクンヌ(ハニサを背負っている) 「考えてみれば、こうやってタカジョウと一緒に歩くのは、
初めてだよな?シップウは、今どうしてるんだ?」
タカジョウ 「空に居ないから、どこかの樹の枝で休んでいると思うぞ。
おれが今ここに居る事は、知っているはずだ。呼べば、すぐに来るよ。」
ハニサ 「腕にとまらせて、一緒に歩く訳ではないのね?」
タカジョウ 「そうする時もあるのだが、なんせ重いからな(笑)。」
シロクンヌ 「ところでミヤコへの旅だが、すべて陸路でなければまずいかな?」
タカジョウ 「舟の事を言ってるんだろう?」
シロクンヌ 「そうだ。と言っても、島に渡る訳では無いから、海岸沿いを寄港しながらの旅だが。」
タカジョウ 「全く問題無いと思うぞ。島に渡る事だって問題無いはずだ。
シップウには半分オオワシの血が流れている。川狩りも得意だ。
オオワシは、渡り鳥だからな。
おれは、シップウも舟に乗せるつもりでいるよ。」
シロクンヌ 「そうか!それなら安心した。」
ゾキ 「ねえ、道を間違えてしまったようなの。ちょっと教えてくれない?」
ミツ 「いいよ。私もそんなに詳しくないけど。あっちに行けば、詳しい人がいるよ。」
ゾキ 「そうなのね。でも、ちょっとあそこまで一緒に来て、見て欲しい物があるの。
すぐそこよ。
それを見てくれたら、ここからどう行けばいいかを教えてもらえると思うの。」
ミツ 「何を見るの?すぐ近く?」
ゾキ 「ついて来て。すぐそこだから。」
オジヌ(エミヌを背負っている) 「姉ちゃん、そろそろミツと交代だ。」
エミヌ 「分かったわ・・・って、ミツが居ないよ。どこに行ったのかしら?
向こう岸を歩いているのは、イナとサチとサラよね?」
オジヌ 「あれ?前には居ないはずだけどな・・・
サチーーー。ミツはーーー?」
森の中。
ミツは樹に縛り付けられて、猿ぐつわをされている。
オロチ 「おまえ、おれのいっこ下だな。まだ男を知らないんだろう?
男と女がどうするのか、知ってるか?
これ見てみろ。大きいだろう?大人のよりも大きいって言われるぞ。
姉ちゃん、そうだよな?」
ゾキ 「そうよ。オロチのが、一番気持ちいいよ。」
オロチ 「おまえ、よく見ているんだぞ。すぐ後に、おまえにも同じ事をやらせるからな。
上手に出来なかったら、殺す。
姉ちゃん、まず、口でやってくれ。」
その時、「こりゃー!何をしておるかー!」という声が響いた。
オロチ 「何だジジイ、よぼよぼのくせに威勢がいいな。」
イワジイ 「小僧、わしはイワジイじゃ。ジジイと呼ぶでない。
むすめ、今縄を切ってやるからの。」
オロチ 「ジジイ、死ね!」
オロチが石斧を振りかざして、イワジイ(60歳・男)に突進した。
下の川沿いの道。
ササヒコ 「わしとシオラムが最後尾だ。最後に出たからな。ミツは見かけておらん。」
タガオ(シオラムに背負われている) 「ミツー!聞こえるかーーー!」
シロクンヌ 「オジヌの所に行くと言って、それからは誰もミツを見ておらんのだな?
タカジョウ、シップウに人探しは出来んか?」
タカジョウ 「やった事は無いが、やってみるか・・・
シップウ!」
タカジョウが指笛を吹くと、すぐにシップウが飛んで来て、腕にとまった。
タカジョウ 「シップウ、よく聞いてくれ。女の子が居なくなった。
この子(サチ)と同じくらいの子だ。
シップウ、空からその子を探してくれ!
見つけたら、そこに舞い降りろ!行け!」
タカジョウの話に耳を傾けていたシップウが、勢いよく羽ばたいた。
そして、あっと言う間に空高く舞い上がり、旋回したかと思ったら、すぐに急降下した。
サチ 「あっちだ!ミツー!今行くよー!」
サチが、猛然と駆け出した。
シロクンヌは物も言わずに藪に飛び込んだ。そして斜面を駆け上がって行く。
ハニサ 「シロクンヌ!お願い!ミツを見つけ出して!」
イナは、サチの後を追って走って行く。
ハギ 「シップウがまた舞い上がった!
また急降下した!
あそこには、絶対何かあるぞ!行って見よう。」
ササヒコ 「森の中だな。オジヌ、ヌリホツマを背負っていってくれ!」
シオラム 「走るぞ。タガオ、しっかりつかまっていろ!」