第200話 42日目⑤
奥の洞窟。泉のそば。
オジヌ 「ここか・・・ホントだ、深そうだね。」
ミツ 「冷たい!」
コヨウ 「冷たいね!ここに沈んでちゃあ、取りには行けないよ。」
オジヌ 「どう?サチ、見える?」
サチ 「見える。底まで全部見えるよ。
あのね」
コヨウ 「何かあるの?」
イワジイ 「お宝か?」
サチ 「岩しか見えないの。」
ミツ 「やっぱり、無いんだね・・・」
イワジイ 「大昔の話じゃからの・・・溶けてしもうたかも知れんし・・・」
オジヌ 「そうかー・・・残念だなー・・・」
コヨウ 「でも言い伝え通りに洞窟はあったし、沈める場所もあったんだから、
言い伝えは正しいのよね?
きっとここが隠し場所だったんだよ。」
オジヌ 「そうだな・・・さて、そろそろ、」
サチ 「待って。この泉はね、横穴が有りそうなの。」
ミツ 「横穴?あの岩壁の下にあるの?」
サチ 「そう。泉の向こうは岩壁になっているでしょう?
だけど泉の中には横穴があって、それが奥深くまで続いているかも知れないの。
私、潜ってみる。」
イワジイ 「そりゃ無理じゃろ!こんなに冷たいんじゃぞ!」
オジヌ 「そうだよ。死んじゃうぞ。」
サチ 「これくらいなら平気だよ。氷が浮かんで無いし。
もっと冷たい湖で、潜る練習してたから。」
ミツ 「えー!」
サチ 「でも出た後に、すぐに体を拭きたいの。」
コヨウ 「私の羽織りを使っていいよ。」
サチ 「ありがとう。全部脱ぐから、オジヌは向こう向いててね。」
オジヌ 「えっ!ホントに潜るのか?無理だったらすぐに上がって来いよ。」
コヨウ 「オジヌ、早く後ろ向きなよ。」
コヨウ 「潜ったっきり上がって来ないけど・・・大丈夫かな?」
ミツ 「あ!上がって来た!」
サチ 「分かったよ。横穴の向こうに、また洞窟があるの。そこは狭いんだけど、そこにあったよ。」
イワジイ 「お宝か?」
サチ 「そう。多分、あれがそうだと思う。見たことが無い物なの。
三つあるから、一個持って来るね。凄く長いよ。
残ってる縄をちょうだい。縛るから。縄の端は、絶対に離さないで持っててね。
準備ができたら縄を引いて合図するから、ゆっくり手繰り寄せてね。」
イワジイ 「また潜って行きよったの。しかしサチは、とんでもないおなごじゃな。
普通なら、死によるぞ。」
コヨウ 「沈んだ村まで泳いで行って、潜って矢じりを取って来たんでしょう?」
オジヌ 「うん。アヤクンヌなんだ。」
オジヌ 「合図だ!手繰ってみるか。」
ミツ 「あれ?何か白い物が突き出て来たよ。」
コヨウ 「うわー!長いねえ。」
オジヌ 「何だあれ?恐ろしく長いぞ。あ!サチも出て来た。」
サチ 「縄を引いて!凄く重いの。」
イワジイ 「こりゃ何じゃろな?石ではないが・・・」
サチ 「引き上げて。重いよ。外した縄をちょうだい。
残り二つも持って来るよ。今みたいにして。もう少し強く手繰り寄せてね。」
オジヌ 「サチ、寒くないか?」
サチ 「寒くは無いけど、疲れた・・・」
オジヌ 「向こうでは、これを一人で持ったんだろう?」
サチ 「重かったから、引きずったの。そしたら滑って軽かった。
大変だったのは、水に入ってから。
これを持ってると、泳いでもなかなか前に進まないの。」
イワジイ 「それを3回も、よくやったもんじゃな!」
サチ 「だって・・・後からは、もうやりたくなかったから・・・」
オジヌ 「シロクンヌにやってもらおうとは思わなかったの?」
サチ 「向こうでは灯をともせないでしょう?」
コヨウ 「そうだね!真っ暗なんだ。」
オジヌ 「そうか!潜った先にあるんだから、火なんか熾せないのか。
サチが行かなきゃ、何も見えないんだ。他には何も無かったの?」
サチ 「うん。これがあっただけ。」
イワジイ 「どうするな?これを一つだけ、運んでみようかい?
あの石ツラ道を、これが通るのか気になっての。」
ミツ 「もし通らなければ、他に入口があるのかも知れないね。」
オジヌ 「よし!一番長そうなコイツ。コイツを運んでみよう。」
それは旧石器人が隠した物であり、
狭い遮蔽空間で、様々な好条件が重なって、1万数千年にわたって、
ほとんど劣化の見られない、すこぶる良好な状態で保存されていたのだった。