第201話 42日目⑥
湧き水平。
ササヒコ 「何だろうな、これは。」
タカジョウ 「一番長いコレで、4まわし(2メートル80センチ)だ。」
ナクモ 「こんなに長くても、石ツラ道が通れるんだね。」
ハニサ 「ちょっと短いこれとこれって、一対(いっつい)じゃない?」
マユ 「そうだね。左右同型だね。」
カタグラ 「って事は、角(つの)か?」
ソマユ 「何それ。こんな大きな角の動物っているの?」
カタグラ 「昔は居たんだぞ。」
ハギ 「重いだろう?それに硬そうだ。角と言うより、歯に近くないか?」
ヌリホツマ 「では、牙(きば)か?」
アシヒコ 「確かに牙の様に見えはするがの・・・」
カザヤ 「これが牙なら、とてつもなく大きな生き物だぞ。」
シオラム 「サチ、水に沈んだのだろう?」
サチ 「そう。手を放せば、絶対に沈んだよ。水の中でも重かったから。
これ持って泳ぐのは、大変だったよ。」
シオラム 「であろうな。木のたぐいでは絶対無いな。かと言って石でもないだろう?」
イワジイ 「これは、絶対に石ではないぞ。」
イナ 「薙ぎ倒しよ。薙ぎ倒しイノシシの牙なんだわ。」
タカジョウ 「薙ぎ倒しイノシシって何だ?」
イナ 「樹を薙ぎ倒しながら走るの。」
ヌリホツマ 「何じゃ、イナは薙ぎ倒しイノシシを知っておるのか?」
イナ 「知らないけど・・・そんな気がしただけ。」
エミヌ 「これがイノシシの牙なら、イノシシの大きさって大ムロヤくらい?」
ササヒコ 「そうなるであろうな・・・
確かに、樹を薙ぎ倒すであろうな。」
エミヌ 「怖いねー!シロクンヌなら勝てるかな?」
ハニサ 「やだ!戦わせないでよ!」
イワジイ 「ワハハハハ、昔の生き物じゃ。もうおりゃあせんぞ。」
ヌリホツマ 「兄者、しかしこれは、良い御守りになりはせぬか?」
フクホ 「ああそうだね。狩りの必勝の御守りを作るといいよ。」
カタグラ 「おお!腕飾りを作るか!矢がビュンビュン飛ぶぞ。」
ハギ 「ヤスの穂先を作ったらどうだ?」
サラ 「魚が、怖がって逃げちゃわない?」
シオラム 「面白い事を思い付いたぞ!3本あるだろう。一番大きな1本はここに置いておく。
残りの一対の2本は、アユ村とウルシ村で、1本ずつ分ける。
そしてここの1本は、なるべく手付かずにしておくのだ。このままの状態だな。」
ササヒコ 「ほう、それでどうするのだ?」
シオラム 「近々この辺りはミヤコになるんだぞ。人も増える。
連中の度肝を抜いてやるのだ。」
イワジイ 「ほーほー、どうやるんじゃ?」
シオラム 「これだけ大きいんだ。何百人、何千人分の御守りが採れるだろう?」
ヌリホツマ 「そうじゃ。肖(あやか)れば良いのじゃから、わずかでも身に付ければそれで良い。」
シオラム 「うむ。だから村で使っても、塩の礼にしても、まだ残るはずだ。
その残りを、例えばウルシ村なら、来年の明り壺の祭りで使うのだ。
まだ持っていない者に、分けてやればいい。
切り出しをやれば、あとは当人が好きに加工する。」
ヌリホツマ 「煎じて飲むヤカラも出て来そうじゃな。」
アシヒコ 「ハハハ、いるじゃろうの。わしも飲みたいくらいじゃから。」
シオラム 「その時に、ここの無傷の1本を借り受けて、横に置いておくのだ。
元々はこうであったと言ってな。みんな驚くぞ。」
イワジイ 「面白い!やってみてはどうじゃ?」
マユ 「薙ぎ倒しの牙なら、私だって欲しいもの。絶対に人気を呼ぶわよ。」
タカジョウ 「さすがはミヤコって事になりそうだな!」
ササヒコ 「ふむ、それは願っても無い話だが、アシヒコはどう思う?」
アシヒコ 「わしらはスワの村全体で、沈んだ村のお祭りをする。
その時に使わせてもらおうかの。」
ササヒコ 「イワジイやサチ、オジヌやコヨウやミツも、それで良いか?」
イワジイ 「もちろんじゃ。これを隠した先人達も喜ぶじゃろう。
言い伝えも、こうなる為にあったんじゃよ。
言い伝えが無ければ、さすがのサチでも、あの泉に潜ったりはせなんだろう?」
サチ 「うん。もう潜りたくない。」
イワジイ 「ワハハ、そうじゃろう。
先人達に感謝して、わしらが有益に使えば、それが一番じゃよ。」
サチ 「私もそう思う。」
オジヌ 「コヨウもミツもいいよな?」 二人は大きく頷いた。
ササヒコ 「これは来年の祭りの、大きな目玉になるな!」
シオラム 「おお、語り草になるぞ。」
シロクンヌ 「ただいま。ナジオも一緒だぞ。みんなおそろいでどうしたんだ?」
ナジオ 「ただいま。久しぶり。ん?何だこの白くて長いのは?」