第202話 42日目⑦
湧き水平。続き。
ナジオ 「こんなのを持って泳いだのか!おれには無理だな。沈んでしまうぞ。
しかも水が冷たいんだろう?」
シロクンヌ 「サチ、風邪引いてないか?」
サチ 「はい。疲れただけ。でもそれも、もう平気。」
イワジイ 「可愛らしい嬢ちゃんじゃが、強い子じゃのう。」
タカジョウ 「みんな、夕食の準備はおれとナクモでやるから、
見晴らし岩に登ったり、薬湯に入ったり、自由にしてくれていいぞ。
夕食の開始は、夕陽が沈んだその後だ。
場所は入口の洞窟のクビレの奥。
みんなで焚火を囲んで食べよう。」
シロクンヌ 「ハニサ、夕陽を見に行くぞ。」
ハニサ 「うん!」
ミツ 「サチ、ゴンと遊ぼう!」
サチ 「いいよ。パヤパヤも見てみよう。」
ササヒコ 「薬湯に浸かってみるか。シオラム、一緒にどうだ?」
シオラム 「おおいいな。兄貴、背中を流してやるよ。」
イワジイ 「タカジョウ、ちょっとよいか?」
タカジョウ 「ジイ、どうした?」
イワジイ 「オロチという小僧じゃが、気になるんじゃ。仕返しすると言っておったからの。」
タカジョウ 「仕返しするとしたら、相手はミツなのか?」
イワジイ 「恐らくそうじゃろうの。ミツに向かって言い放ったからの。」
オジヌ 「じゃあ、おれがミツのそばにいるよ。」
コヨウ 「私も。」
タカジョウ 「オジヌ、では頼むぞ。洞窟から、あまり離れん様にしてくれ。」
エミヌ 「ねえタカジョウ、今日はシップウの狩りは無いの?」
タカジョウ 「うむ、今回は無しだ。オロチの動向がハッキリせんからな。
オロチにここの存在を教える様な事は控えたい。」
カザヤ 「それが無難だな。ガキだが、何をしでかすか分からん野郎だ。」
エミヌ 「じゃあ私も夕食の準備を手伝うよ。」
カザヤ 「ではおれは、ミツの近くに居ることにするか。」
イナ 「グルっと近所を一回りして来るね。」
イワジイ 「ん?弓は持っておるが、矢は持っておらん様じゃったが・・・」
見晴らし岩。
シロクンヌ 「まだどこからも狼煙(のろし)は上がっていないな・・・」
ハニサ 「狼煙?何の合図なの?」
シロクンヌ 「イエの者がオロチを捕縛したら、狼煙が上がる。」
ハニサ 「二人共、怪我をしてるんでしょう?どこかでじっとしてるんじゃない?」
シロクンヌ 「そうかも知れんが、奴等が助けを求めるとしたら、ハグレにだろうからな。
まあ、気にしてばかりいてもしょうがない。
ハニサ、空が赤らんで来たぞ。真っ赤な夕焼けが見られそうだ。」
ハニサ 「湖も赤くなって来たよ。きれい・・・」
シロクンヌ 「ハニサ、もうすぐおれは旅に出る。必ずおれは無事に戻って来る。
ハニサも無事でいてくれ。
そして来年の秋には、アマテルと3人で、ここで月見をしような。」
ハニサ 「うん!」
湧き水平。
ミツ 「暗くなって来たね。サチ、洞窟に戻ろう。」
サチ 「うん。お腹減ったね。ミツ、ゴンと先に行ってて。」
湧き水平。洞窟付近。
イナ 「ただいまー。お腹減っちゃったー。」
シロクンヌ 「イナ、サチを見なかったか?」
イナ 「見てないわよ。どうしたの?」
ハニサ 「サチがいなくなっちゃったの。」
ミツ 「私に先に帰ってって言って、私すぐ来ると思ってたんだけど、それっきりなの。」
オジヌ 「おれは近くに居たんだけど、ミツに気を取られてて、気付いたらサチはもう居なかった。」
コヨウ 「私もそう。」
カザヤ 「おれもそうだ。ミツとサチが話をしていて、
ミツがゴンと走り出したもんだから、そっちに注意を払っていた。」
イナ 「いつの話?」
ミツ 「夕陽が沈む頃。」
イナ 「結構前ね。あたしはオロチが気になったから、この下の方を森の中とか見て回ってたの。
見た範囲では、不審なものは無かったわね。」
イワジイ 「サチは遠目に見たらミツとそっくりじゃろう。じゃから心配しておるんじゃ。」
ササヒコ 「シロクンヌ、みんなで探しに行ってみてはどうだ?」
エミヌ 「オロチに捕まっちゃったんじゃない?」
カタグラ 「よし!手分けして探し出すぞ!」
シロクンヌ 「待ってくれ。ハニサはどう思う?」
ハニサ 「あたしは・・・ミツ、サチの方から先に行ってって言ったんだよね?」
ミツ 「そう。」
ハニサ 「サチは、オロチを探してるんだと思うよ。暗い所では、サチの方が絶対に有利だもん。
見つけ出して、カブテをぶつけてやろうって思ってるんじゃないかな・・・」
ハギ 「その可能性はあるな。シロクンヌはどう思う?」
シロクンヌ 「おれも同じなんだ。夜になるのを待っていたのだと思う。
仕返しする為に近くに潜んでいたら、必ず見つけ出す・・・
そう思っているのではないかな。」
ソマユ 「サチー!あれサチじゃない?」
ミツ 「サチ、サチだ!サチー!」
サチが駆け戻って来た。
サチ 「みんな、心配かけてごめんなさい。」
シロクンヌ 「オロチはいたか?」
サチ 「見つからなかった。」
シロクンヌ 「みんな、心配かけて悪かった。おれからも謝る。
だが、今日の所は、サチを叱らないでやってくれ。」
カラグラ 「サチ、腹が減っただろう。」
カタグラが、サチを抱き上げて左肩に乗せ、洞窟に向かって歩き出した。
カタグラ 「さあみんな、飯にしようぜ!」
ナクモ 「カタグラ、お尻が出てるよ。」
みんなが、どっと笑った。