第203話 42日目⑧
入口の洞窟。クビレの奥。夕食。
イワジイ 「この器は立派じゃのう。たくさんあるんじゃな。見事なもんじゃ。」
タカジョウ 「これがハニサの器だよ。」
アシヒコ 「女神の器じゃな。みんな席に着いた様じゃ。ササヒコや、乾杯の音頭を頼む。」
ササヒコ 「では。
こうやって、みんなで囲炉裏で飯を食う。まったく良いもんだ。
この先、アユ村とウルシ村の親交はさらに深まってゆくだろう。
我々が中心になって、活気あるミヤコを築いていこうではないか。
ここはトコヨクニのド真ん中。ヒトで言えば、ヘソだ。
今夜はひとつ、大きく構えさせてもらおうか。
トコヨクニの、ヘソに、かんぱーい!」
一同 「かんぱーい!」
アシヒコ 「トコヨクニのヘソか・・・なるほどのう。
わしらは今、ヘソであぐらをかいておるんじゃな。」
シオラム 「ワハハ、兄貴は巧い事言ったな。ところでナジオ、スワの村々はどうだった?」
ナジオ 「どの村も、活気づいてるよ。おそらくスワは、これから大きく変わるんだろうね。
大型の舟を持つのに合わせて、湖畔に船着き場も造ってる。
子宝の湯の下の湖畔には、かなり大きな船着き場が出来るみたいだった。」
アシヒコ 「材木の陸揚げがしやすいように、マグラが音頭を取ってやっておるのじゃが、
立派な物が出来そうじゃぞい。」
ハニサ 「アヤの村の場所は決まったの?」
カザヤ 「大方の区画は決まった。子宝の湯の西側だ。湖に向かうと真っ正面が矢の根石の村だ。
背後の山との間に少し谷になった所があって、そこで水脈が切れている。
だから山に降った雨の水が、区画内で湧くことはない。
安心して竪穴が掘れるよ。」
サチ 「ありがとう。そこに村を作るのが楽しみ。」
フクホ 「今ね、そこに生えてる樹の移植先でもめてるんだよ。どの村も欲しがるからね。」
カザヤ 「マグラも匙(さじ)を投げた様子だったな(笑)。」
シロクンヌ 「なるほど、マグラも苦労するな(笑)。」
ナジオ 「アユ村、ヤマメ村共同の5人乗りの舟を、シロクンヌのやり方で作ったんだけど、
船べりが広がって漕ぎやすくなるんだ。
櫂(かい)も改良して作ったからね。
湖で流れも波もほとんど無いから、5人で漕げば相当速いよ。
ヒトが走るのと変わらない。対岸まで、それほどかからずに着いてしまう。」
カザヤ 「それを見た他の村が大騒ぎになってな、ナジオを拉致監禁して舟作りさせたんだ(笑)。」
シオラム 「ワハハ、そりゃあ大袈裟だろう。」
ナジオ 「いや、実際、それに近かった(笑)。メシは腹いっぱい食えたけど。」
マユ 「ナジオはスワの女達からモテモテなのよ。海の匂いのする男って呼ばれてて。」
サラ 「もうスワに住んじゃいなよ。」
エミヌ 「良い人が出来たんでしょう。」
ソマユ 「テミユだよ、テミユ。」
ハニサ 「テミユってカザヤの妹でしょう?」
ソマユ 「そう。テミユが監禁されてるナジオを救出に行ったの。」
マユ 「無理やり宿を取らされるところだったらしいわよ。」
ソマユ 「その噂を聞いて、テミユが丸木舟で漕ぎ付けたのよ。カザヤ、そうだよね?」
ナジオ 「もういいだろう、おれの事は。」 真っ赤になっている。
タカジョウ 「カタグラ、そろそろ尻を出してやれ(笑)。」
シロクンヌ 「救いの尻を差し伸べるのだな?(笑)」
イワジイ 「ワハハハ、時にシロクンヌ、北のミヤコに行くんじゃろう?
行き道は決まっておるのか?」
シロクンヌ 「うむ。スワの湖を回ってアヅミ野に出て、北に向かう。海に出たらそこからは、舟だ。」
イワジイ 「カワセミ村に立ち寄るのじゃな?」
タカジョウ 「カワセミ村とはどんな所だ?サチも知っているのか?」
サチ 「私は知らない。私はミヤコから舟で出たんだけど、もっとずっと北の方に上陸したと思う。
そこからは長い長い陸路だったの。」
イワジイ 「カワセミ村というのはな、ヒスイの里にある村じゃ。
目の前が海で、ヒスイ海岸と呼ばれる小石の浜が横たわっておる。」
シロクンヌ 「そこは漁にも出るが、石工(いしく)が住まう職人村なんだ。
その海沿いの村々は特産品の宝庫だから、タビンドでそこを知らん者はおらんな。」
ハニサ 「ヒスイが採れる所なの?」
イワジイ 「そうじゃよ。
黒切りはの、黒切りの里に行けば黒切りの鉱脈がいくつもあって、
そこで岩から切り出すんじゃ。まあ割り出すと言った方がいいか。
片やヒスイはの、河原や浜辺で拾うんじゃよ。」
ミツ 「ヒスイが落ちてるの?サチ、拾いに行きたいね!」
シロクンヌ 「そうだ!ミツも一緒に行くか?ミヤコに行ってみたいだろう?
いいだろう、タカジョウ?」
タカジョウ 「またいきなりだな。おれはいいが・・・タガオは大丈夫なのか?」
シロクンヌ 「タガオ、ミツをミヤコに連れて行ってやりたいんだ。
ミツにはいろいろなものを見せてやりたい。反対か?」
タガオ 「シロクンヌがそう言うのなら、是非頼む。ミツ、行ってみたいだろう?」
ミツ 「うん、私は行ってみたい。でも父さんのお世話が・・・」
イワジイ 「それがいいじゃろう。ミツ本人やタガオの前で言うのは気が引けるが・・・
わしはあのオロチが気に掛かってしょうがないんじゃ。
あ奴は人の子とは思えなんだ。目を見たら、とても人とは思えなんだ。
ミツにシロクンヌとタカジョウがついておれば、わしも安心じゃ。
旅に出ておれば、あ奴も仕返し出来んじゃろう。」
ササヒコ 「なるほど・・・確かにミツは旅に出してやりたいが・・・」
タガオ 「おれの事なら、心配せんでくれ!」
ササヒコ 「まあ待て。ここは知恵を出し合おうじゃないか。
こんなに居るのだ、誰かがいい方法を思い付くかも知れん。」
ソマユ 「あたし、いい方法思い付いた!」
マユ 「何よ、いい方法って?」
ソマユ 「あたしがウルシ村に引っ越して、タガオと一緒に暮らすの。」
一瞬、場がざわめいた。
マユ 「言うと思ったわ(笑)。」
ハニサ 「ソマユ、ウルシ村に来るの?毎日会えるね!コノカミ、ソマユが来てもいいでしょう?」
ササヒコ 「もちろんだ。」
アシヒコ 「あとはタガオの返答じゃ。タガオ、ソマユがおぬしと暮らすと言うておるぞい。」
タガオ 「また急な話だな・・・」
マユ 「何言ってるのよ。さっきからずっと急な話をしてるんじゃない。腹をくくりなさいよ!」
場が、静まり返った・・・
タガオ 「・・・そうだな。確かにマユの言う通りだ。
ソマユ、おれの方から頼む。一緒に暮らして、面倒を見てくれ。」
場に、歓声が渦巻いた。
ミツ 「サチ、ソマユが私のお母さんになるのかな?」
サチ 「綺麗なお母さんが出来て、良かったね!」
ミツ 「うん!ソマユ、父さんをよろしくお願いします!」
ソマユ 「任せて!
でもミヤコから帰って来た時に、あたしのお腹が大きくなってても驚いちゃだめよ。」
ミツ 「はい! あ!父さんが真っ赤になってる!」
場が、笑いに包まれた。