縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第211話 44日目①

 
 
 
          朝の広場。
 
アコ  「あー、あたしも行きたかったな。」
ササヒコ  「ハハハ、アコは大事な体だ。連れては行けんな。
       カイヌはそろそろ一人前だ。今日は頑張れよ。」
カイヌ  「うん。熊狩りって初めてだ。」
エミヌ  「オロチにやられちゃダメよ。」
カイヌ  「分かってるよ。ぼくは樹の上を見る役だ。オロチがいたら、絶対見つけてやる。」
ササヒコ  「組分けの確認だ。一組4人で、3組だ。
       まず、シロクンヌ、ヤッホ、オジヌ、カイヌ。」
ヤッホ  「おれ達は全員弓矢だ。アニキの指示で動くぞ。」
ハニサ  「シロクンヌがちゃんとした狩りの道具を持ったの初めて見た!カッコいい!」
サチ  「父さんカッコいい!」
ササヒコ  「そしてテイトンポ、ムマヂカリ、ハギ、クマジイ」
サラ  「ムマヂカリは槍を5本も持って行くの?」
ムマヂカリ  「ああそうだ。いざとなったら、投げ散らかすからな。
        熊は、2~3頭がかたまっていたりするんだぞ。」
エミヌ  「テイトンポとハギは弓矢だけど、クマジイは丸腰よ。」
クマジイ  「わしは狩られた熊のサバキ役じゃ。婆の代わりじゃよ。」
イワジイ  「わしも行きたかったがのう。クマルは無理するでないぞ。」
ヌリホツマ  「ハギよ、液が採れたら、その足で洞窟の岩室に運んでおくれ。」
ハギ  「ああ、分かってる。」
ササヒコ  「そして最後だ。シオラム、イナ、ナジオ、そしてわしだ。」
ヤシム  「コノカミとイナの弓矢は分かるけど、シオラムとナジオは槍が使えるの?」
ナジオ  「これは、銛(もり)のつもりだよ。」
テミユ  「ナジオ、がんばってね。」
ササヒコ  「テイトンポはクマジイを背負って行くから、残りの10人の背負いカゴは、
       ブナの実で一杯にしたいもんだな。」
テイトンポ  「アコ、おれはスッポンの世話を済ませて来た。今日は工房は休みだ。
        村の中にいろ。」
タマ  「ブナの実が届くからね、火棚を空けるよ。女衆はアク抜きだ。
     トチの実を搗いて粉に挽く。クルミも一カゴ分割るよ。
     ドングリは二カゴ分水に晒そうかね。
     ハニサもアコもサチもミツも手伝っておくれ。」
テミユ  「私も手伝うわ。」
タマ  「確かテミユって名前だったね。美人じゃないか。ナジオはいい人見つけたよ。」
シロクン  「イナ、腹一杯食べたか?」
イナ  「もう行くの?あとこれだけ。」
ムマヂカリ  「ホムラは置いて行く。ホムラ、しっかり番をしておれよ。」
ナジオ  「ムマヂカリ、熊狩りってどうやるんだ?」
ムマヂカリ  「熊がいるとするだろう?槍を投げて刺すんだよ。」
ナジオ  「うん、それで?」
ムマヂカリ  「それだけだ。」
ナジオ  「・・・」
イナ  「美味しかった!ごちそうさま!さあ、行きましょう!」
タマ  「よしみんな、村の出口で2列に並んで見送るよ。」
ササヒコ  「しゅつじーーーん!
       えい!えい!」
全員  「おーーー!」
 
 
          ブナの森。
 
テイトンポ  「本当だ。成り年だ。奥が広がっておるんだろう?
        とても今日一日では採り切れんな。」
シオラム  「これだけあれば、倍量の塩を渡すのに十分だ。見ておいて良かったぞ。」
クマジイ  「これは熊はどこかにおるじゃろうな。」
シロクン  「アケビの蔓の輪がかかっている枝が見えるだろう?
        あれはサチがやったのだが、あの輪を追って行くと、アケビの谷に出るんだ。」
テイトンポ  「道しるべだな。よし、一度森から出るぞ。」
 
テイトンポ  「この森のへりの道を進めば、岩の温泉だな?
        組ごとに別れ、3ヶ所から森に入る事にする。
        一つはここだ。もう一つはこの道のドンツキ。
        もう一つは、その中間だ。中間のおおよその位置が分かる者は?」
イナ  「あたしとコノカミは、こないだ通ってるから分かるわよ。」
ササヒコ  「ああ分かる。」
テイトンポ  「ではコノカミ組が中間。シロクンヌ組がここ。
        おれはこの道は初めてだ。だからドンツキまで見てみたい。ドンツキで入る。
        そして入ったら、森の外れまで速足で移動する。
        模擬矢(枝などから作る現地調達の矢。矢じりはつけない。)を作りながらな。
        外れに出たら、来た方向では無い方向に速足で進み、森の外れまで行く。
        そしてもう一度、それをやる。
        その間に、オロチと熊を探すんだ。
        怪しい藪には模擬矢を射込みながら進む。
        ブナの実を採るのはその後だ。
        4人は固まって動き、離れ離れになってはいかん。
        知らせたい事がある時は、ボウボウを吹く。
        質問はあるか?」
ヤッホ  「熊以外にも獲物はいそうだけど、それはどうする?」
テイトンポ  「それぞれの判断でいいだろう。ただ、むやみに大声を出してはいかん。
        オロチが潜んでいるなら、気付かれたくないからな。」
ササヒコ  「よし、それで行こう。」
シロクン  「おれ達は、まずアケビの谷まで行ってみる。
        おれとオジヌとカイヌは、そこの様子を知っているからな。」
        では出発するぞ。
 
 
シロクン  「カイヌ、おれの背負子に乗れ。後ろを見てくれ。
        ヤッホは左、オジヌは右方面に注意を払ってくれ。
        輪を追って、進むからな。」
 
 
ササヒコ  「ここらだな。」
イナ  「そうよね。じゃあ、森に入るわね。」
テイトンポ  「ああ、気をつけて行ってくれ。
        クマジイはこの先もずっとおれが背負っているから、後ろに気を払ってくれな。」
クマジイ  「了解じゃ。」
 
 
シロクン  「今のところ、ヒトの痕跡は無いな。鳥や猿が多い。」
ヤッホ  「アニキ、あれ何かの死骸だよ。新しそうだ。」
オジヌ  「ムササビだね。きっとこれ昨晩だよ。」
シロクン  「だがおそらく犯人はオオヤマネコだぞ。この樹の枝の上で食っている。」
ヤッホ  「ホントだ。枝に毛が付いてるね。こいつの毛だ。」
シロクン  「今この森には、いろんな動物が集まって来てるからな・・・」
カイヌ  「あれ、あの樹の上にあるの、熊棚じゃない?」

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熊棚の残骸 実際は実を食べるために、樹の枝葉を尻の下に敷き込んで作る。だから熊がこれを作った時には、実も生っていて葉も茂っていたはずだ。ツキノワグマは、木登りが得意なのだ。
シロクン  「熊棚だ。あんなに分かりにくいのに、よく気付いたな。」
カイヌ  「ずっと上を見てたから・・・」
シロクン  「今は熊はいないが、つい最近作った棚だぞ。」
ヤッホ  「この近くに別の棚を作って、その上にいるかも知れないね。」
カイヌ  「いるよ!あそこ!樹が揺れてるでしょう?」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙